第63話:ベルベットVSリザ‥Tested

 選手の紹介が終わり、30分後に戦いが始まる。

僕はこの時、ベルベットの事が心配で仕方なかった。

戦いになったらベルベットが怪我をするのではないかと。

確かに……僕は模擬戦で彼女に勝ったけど、あれはゼロのお陰で勝てた。

だから、余計に心配してしまう。


 そんな僕は選手控室に居るベルベットの元へと向かった。

ドアを開くと、彼女は足を組み椅子に座っていた。

彼女はいつも通りクールだ、どんな時も慌てないし、平常心を保っている。

僕は彼女に声を掛けた。


「ベルベット」


「リヒター?どうしたんだ? 」


「怪我しないでね、ベルベット」


彼女はスッと立ち上がり、僕に近づいてきた。


「ふ、安心しろ、私は負けない… 」


そう言って、彼女は僕に抱き着いた。

彼女の髪の匂いがする、スパイシーだけど甘く、力強さを感じるけど優しい感じだ。

彼女はいつもよりも長い時間抱き着いていた、何も言わずに。


「ベルベット? 」


「ふ、これで勝利は確約されたぞ!行ってくるぞ!優勝してリヒターを頂くからな! 」


そう言って彼女は僕にウィンクをして控室を後にした。

僕は自席である、賞品場へ戻ると、既にベルッととリザさんはステージの上で対峙していた…


「ベルベット様、お手柔らかに」


「悪いが、私は手加減をする気はない」


「そうですよね、ですが… 私に勝てるとでも? 」


「御託は良い、始めよう」


「それでは、第一回戦、ベルベット対リザの競技を行う! 」


「競技内容は‥これだ!」


 そう言ってハルさんが指を鳴らすと、何とステージにはキッチンが‥

え? と間が抜けた声を出してしまった。

てっきりガチの殴り合いだと思っていたが…

すると、実況席のミラさんが解説を行った。


「嫁の料理‥これは人間界の男性にとってはとても重要な要素の一つ。最近人間界ではご飯を作るとカオスが発生する嫁を『メシマズ嫁』と呼ばれています‥食材の墓場に夫は涙を流し、胃薬と呼ばれる物を飲む‥ 」


 そう言えば‥確か昔流行ったな、メシマズ嫁の本が…

別に夫が作れば良いのだと思う、手抜き料理でも30分もかからないし…

ステージへ目を向けると、ベルベットとリザさんの顔色が凄く悪い。


「よって、今回の競技は料理となりました! 制限時間は1時間で存分に己の料理を作って下さい! それでは審判のハルさん、開始の合図を! 」


「それでは‥はじめ! 」


 彼女達は一斉にキッチンにある素材を取りに行く。

ベルベットは小麦粉と卵を取り、リザさんはフルーツを取った。

一体何を作るのだろうか‥


 ベルベットは小麦粉に卵を入れ、何か粉の様な物を混ぜ合わせている。

この材料を見て思い出した事がある。

僕が夜中に目覚めて、偶然ベルベットは居間で起きていた。

その時僕は小腹が空いてパンケーキを作り、彼女の分も用意した。

フワフワパンケーキ、卵の白身を泡立てて作るのがポイントだ。

彼女は一度それを食べて凄く気に入っていた。

多分それを作るのかと思った。


 あれは簡単な料理だ、混ぜて焼くだけ。

だけど‥分量を間違えると大変な事に‥そんな心配を他所に、ベルベットは悩みながら作っている‥


 実はベルベットは料理が苦手なのだ。

レシピ通りに作らないのだ‥測りは使わない、目分量だ‥

何十回も作っていれば目分量でも問題無いのだけど、慣れない時は分量とレシピ通りに作るのが大切だ。

慣れてきて、調味料や材料にどんな効果が有って、何を増やしたりすればどうなるかとかを何度も何度も試すのだ。

その最適化された物がレシピ、美味しいか美味しくないかは置いておき、作成者にとって美味しいと感じるバランスなのだ。

では、何故料理が出来ないのだろうか…

僕が思うに‥料理を失敗するのは幾つかパターンがある。


悪いアレンジ

大雑把

無意識の暗殺者


色々あるが‥

ベルベットは2の大雑把だと思う。

あ! ベルベット!焦げてる!焦げてるよ!

今度一緒に料理をして徐々に慣れて貰おう。


 一方リザさんはと言うと‥

フルーツを盛り合わせている、芸術的にだ。

彼女は自前の剣で、フルーツを鳥の形やら星形等色んな形にしている。

それをスタチューを作り上げているかの様に、綺麗に形を整えて盛り付けて行く。


 開始から30分、リザさんは準備が整った様だ。

ベルベットはと言うと‥彼女はパンケーキを焼き、味見してまた作り直している。

時間は刻一刻と迫っているのにも関わらずだ。

はちみつを入れたり、分量を変えたり、卵を多めに入れたり‥色々と試しながら作っている。

何回とそれを繰り返し、残り時間が少なくなっていく。

時間が過ぎ、ベルベットの顔に焦りが見えてくる、それでも彼女は作るのを止めない。


 そして制限時間が来てしまい、調理は終了した。

今回の審査には、ランダムに選べれた観客達となった、人数は5人だ。

彼らは中央の広場の端にテーブルで味見をしていた。

ベルベットは、不揃いな形をしたパンケーキだった。

部焦げていたり、生焼け等あった様だ‥

審査員の表情は良いとは言えなかった。


 次にリザさんだ。

彼女はただフルーツを切って盛り合わせただけなのだが、女神像をイメージした様な女性を盛り合わせで作ったのだ。

見栄えの良さと素材を活かした盛り合わせは審査員にとってはとても印象が良かった様だ。


 結果はリザさんの圧勝だった。

それを聞いたベルベットは下を向きゆっくりとステージを下りて行った。

彼女を探しに行ったが、何処にも見当たらず見つける事が出来なかった。

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