第56話:未知との遭遇
魔法陣に入ると、一瞬にして景色が変わった。
そこは自然と一体化した街‥と言う言葉だけでは言い表せない世界だった。
宙を浮く綺麗な色に輝く光の球体や、大きな木で作られた家、様々な姿をした精霊達が道を歩いている。
人間の背格好をしているのだけど、ウサギの様に立った白い耳をした精霊、爬虫類の様な肌をした精霊‥色んな形をした精霊が存在していた。
「凄い所ですね‥僕の知っている世界とは全く違いますね‥」
そう言うとミラさんが説明してくれた。
「精霊達が住む世界は、このふわふわした球体が魔力なんです、私達精霊はこれを自然と体内に吸収して活動しているんです、だから人間が必要としている食事や睡眠等
が必要無いんですよ」
「エステルさん!初めまして!僕がエステルさんの精霊です!名前はエッフェルです、えへへ、エステルさんとこうやってお話出来て、嬉しいです」
そう言うと小さな男の子はニコっと笑い彼女の前に立っている。
その男の子は、綺麗な黒い髪で幼さの残る顔立ちで、笑顔がとても似合う子だ。
そんな彼を見るエステルは石の様に固まっている、だが‥顔はにやけている、きっと彼女の好みなのだろう‥
「あの‥エステルさん‥?僕の事‥嫌いなのですか‥?」
悲しそうな目でしょんぼりするエッフェル君‥見ていて凄く悲しくなる。
やっと意識が戻ったのか、エステルが慌ててエッフェル君に答える。
「す、すまない、エッフェル‥君の可愛さに意識が飛んでしまった‥初めましてだな‥」
「良かった、嫌われてなくて‥えへへ、初めまして、エステルさん‥やっぱり実物は綺麗ですね、僕の鼻が高いです!」
エステルは耐えられないのか、完全に頭がショートした様だ‥
確かに‥男の僕から見ても彼は天使の様な子だ‥エステルは変態だから、きっとエッフェル君がどストライクなのだろう‥
「えへへ‥ねぇ、エステルさん、僕のパパとママが会いたがってたから会いましょ!あと、僕がしっかりエスコートしますよ」
そう言って彼女の手を引き彼らは何処かへと消えた‥
そんな彼女達を横目に僕は初めて見る物ばかりで目が釘付けになっている。
周りをきょろきょろと見る僕を見てベルベットが精霊界について解説してくれた。
精霊界とは、精霊達が住む世界を指している。
精霊にも何十種類も分類させるが、大きな種族は3つに分かれているそうだ。
1つは、エルフ族。
これはベルベット一家やレイ一家の様に耳が長く尖っていて、人の形に近い精霊を指す。エルフ型は元々自然を大切にしてきた種族らしく、その恩恵からなのか魔力が高い。
2つは、獣人族
これは人間界に居る動物と人が混ざり合った様な精霊だ。
彼らに共通するのは、大体7割は獣の特徴が大きな割合を占める事だ。
例えば耳と尻尾とか手や肌とか色々と変わるらしい。
また、身体能力がずば抜けているらしく、彼らを契約した人間は相乗的に身体強化されるらしい。
3つは、小人族
これはエステルの精霊エッフェル君が分類されるタイプで、背が小さくとても可愛らしいが‥
それは魔力をセーブした状態で、リミッターを外すと爆発的な能力を発揮するそうだ、イメージとしては‥普段怒らない人を怒らせたら恐ろしいと言う奴だそうだ。
精霊達は人間が珍しいのか視線を凄く感じる。
でも、決して悪い様な雰囲気を感じなかった、単純に物珍しさだと感じたが‥
ベルベットとレイは僕の両隣に立ち、腕を絡めてくる‥
「どうしたの?二人共」
「‥リヒター、お前は私の物だ」
「ええ、リヒター君はあげません!」
良く分からないが‥まぁ良いか。
それを見たカガリさんはニヤニヤとし始めベルベットをからかう。
「ベル~?お前は本当にリヒターにお熱だな~?そんなに良いのか?ん?ベルの顔は女だぞ?」
「母様!」
ベルベットは不満そうにきつめな口調でカガリさんに言うが、顔は柔らかい表情だった。
そんなベルベットを見ているカガリさんは楽しそうだ。
「おお、怖い怖い、まぁお熱なのは良いが‥お前の事を狙っていた男共には気を付けろよ~まぁ、リヒターなら余裕だと思うがな」
何やら意味深な事を言っているが‥今はそんな事よりも、この自然で作られた街が凄く気になってしまう。
「さて‥リヒター、今から我々は精霊界の王に会う。粗相の無い様に頼むぞ」
「はい、善処します。すみません、一つ気になったのですが、ハルさんはどんな事をされているのでしょうか?」
「私は精霊界の将軍だぞ?」
え‥将軍様?
見えない‥見えませんよ、ハルさん‥昨日のあの姿を見て将軍だなんて‥
きっと‥実際は凄く強くてしっかりした人なんだ、そうだ、そうに違いない。
「じょ、冗談ですよね?」
その一言が彼のプライドを傷つけたのか、ちょっと不機嫌になった。
「何?私が将軍らしくないとでも言うのか?」
するとミラさんとレイが加勢してきた‥殺戮ショーの始まりだった。
「あら?昨晩貴方が何をしたのか覚えてらっしゃらないのかしら?」
「お父様、昨日は酷かったんですよ‥突然脱ぎだしたり、お母様の膝枕をねだったり‥本当に恥ずかしい人です‥」
そう‥ハルさんはビールを飲んで酔っ払ったのか、奇行に走ったのだ。
突然脱ぎだし、「見よ!我が筋肉を!」等言い出したり、
「ミラちゃん~膝枕して‘~」と彼女の膝に頭を乗せたり‥
彼はきっと記憶に無いのだろうと思うが‥あれはインパクトが凄かった‥
それを聞いたハルさんはショックだったのか急にトーンが低くなった。
「頼む‥絶対に誰にも言うんじゃないぞ‥良いな?もし周りに言いふらしたら‥」
「あなた?そうやって脅すのは男として情けないですよ、いつもの様に私に甘えても良いんでちゅよ~?」
ミラさんの赤ちゃんをあやすかのような話し方を聞いて僕はハルさんを見てしまった、ハルさんは無言だ、全てを失った男の様に、ただひたすら何処か遠い所を見ている‥
レイはもう完全に思考停止している‥相当ショックだった様だ‥
そんなショッキングな知りたくない事実を知りつつも僕達は精霊王が待つ城へと着いた。
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