第40話:囚われた家族

決闘の前日に起きた事だ。

この日朝早く起きた僕はホテルの1階でコーヒーを飲んでいた。

すると背広姿をしているホテルマンが近づいて来る。


「リヒター様、お手紙です」


「?有難う御座います、こちら受け取りました」


そう言うと彼はスタスタと去って行った。


手紙を開きコーヒーを片手に飲んでいたが…内容に驚いてしまい落としてしまった。

その手紙に書かれていた事はこうだ。


お前の両親は預かった。

返してほしければ、明日の決闘に負けろ。

負けたらお前の家族を解放してやる。

誰にも言うな、ばらした時点でお前の両親は死ぬ


僕は急いで父さんと母さんが泊っている隣の部屋へ向かい、ノックをした。


コンコン


返事が無い、仕方なく大きな音でノックした。


ドンドン!


ダメだ、全く反応が無い。

本当に攫われてしまったのか…あの2人が? あんなに強い2人が?

正直信じられないかった、たかが決闘でそこまでするのかと…

音に気が付いたのか、寝ていた彼女達が隣の部屋から覗いてくる。


「どうした、リヒター?朝早くから…」

「んー…眠たい…リヒター君、もうひと眠りー」


彼女達に助けを求めたいが…仮にバレたらどうなるだろう…

父さんと母さんが殺されるのだけは嫌だ…

だから僕は黙る事にした、僕が直ぐに探しに行けば…


「あ、ごめんね、部屋間違っちゃった…えへへ」


ベルベットとレイは首を傾げながら疑いの目を向ける。


「リヒター…寝ぼけてるなら、もう少し一緒に寝よう」

「あーリヒター君、私の抱き枕に~…」


「ごめん、ちょっと用事が出来たから街を1人で散歩するよ」


「それは良いが…私達から離れすぎるなよ?」

「そうよ、リヒター君と私達が離れたら、リヒター君魔法が使えなくなるんだからね?忘れたらダメだからね?」


そう…彼女達が僕から離れられない理由がこれなのだ。

具体的な距離までは分からないが、大きく離れると僕が魔法が使えなくなるのだ。

元々精霊は契約者の元に常に居るのが前提らしい。

いずれにしても…父さんと母さんを探さないと…


「うん、分かったよ。ありがとうベルベット、レイ。ゆっくり休んでね」


そう言って僕はホテルを出た。

しかし…相手が何処に居るのかも分からない以上、カンパニーの住所を聞き出すしか他ない。

僕はエステルを頼る事にした、彼女ならカンパニーの在処を知っていると思ったからだ。

早い時間にギルドに付き、アシェリーさんにエステルが居るか確認したが、残念ながら外出中の様だ。


「緊急の用事でしょうか?」


「ええ、グローザの住所を知りたいのですが…」


「それは何故でしょうか?」


僕は考えた、此処はどう言う話をするべきなのかを。

嘘ではないが事実でもない…そんな事を口走った。


「実は明日の決闘で、明確な条件を書いていなかったので、その確認ですね」


「んー…しかし…明日決闘ですし、相手の所へ単身で行くのはお勧めできません。あれ?お連れ様2人は何処へ?」


「あー、実はまだ寝てるんですよ、昨晩…忙しくて…」


アシェリーさんの目は完全に疑念を抱いている。

これは情報が得られないと悟り、僕は早々に撤退した。


情報が無い

手がかりが掴めない

頼れる人も居ない


手詰まりだ、無意味に動いても彼らには行きつけない…

このままでは…でも、諦めない。

その日僕は延々と街を歩き、必死に探したが…無暗に探しているだけで、結果は勿論の事何も得られない。

僕は夜中までずっと探した、でも見つからない。

サーチを使っても、範囲外で使えないし、そもそもサーチを使って出るかも分からない…


この日僕は帰る事無くずっと探し回り、決闘当日になってしまった。

睡眠が取れず、疲れも出ていて、万全の調子とは言えない。

闘技場へ着くと、彼女達が待っていた。

最悪な事に朝帰りをしてしまい、彼女達は完全に怒っている。


「リヒター…何処へ行っていた?」

「リヒター君…お姉さんは怒ってます、白状なさい」

「…」


言い訳を必死に考えるが、思い浮かばない。

実際に何やってたと言っても…ね

するとレイが確信を突こうとする。


「リヒター君、お義父様とお義母様が見当たりませんが…関係しているのですか?」


「あ、うん、そう。昨日父さんと母さんが家が決まったからちょっと家の間取りとかをー…」


「お前がリヒターだな?今日は楽しませてもらうぜ?」


悪意のある言い方をする男が前からやって来た。

金髪のオールバックで高そうな背広を着た男だった。

目つきは人を殺しそうな冷たい目で、修羅場を何度もくぐった印象を受けた。


「貴方は…」


「俺がお前の対戦相手のヨシフ・ムガベ様だ、今日は一方的に勝たせてもらうよ」


やはりこいつが父さんと母さんを…!

怒りの余り無意識にナイトフォールが出てしまう。

今まで感じた事が無い程怒り、それに共鳴するかの如く、ナイトフォールも禍々しさが増す。

するとムガベは近づき耳元でこう言った。


「お前が負ければ解放してやるよ、分かっただろ?俺に逆らったらどうなるか」


そう言うと、彼はカツカツと音を立てて何処かへ行った。

どうすれば良い、このままだと…

僕は考えがまとまらないまま控室へと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る