第41話:彼女達の不安と嫌な予感

リヒターはその日帰って来なかった。

私達は何か遭ったのかと心配し、その夜ずっと帰りを待っていた。


「リヒター…」


「ベルベット、おかしいわ。リヒター君が帰って来ないなんて…何か遭ったのよ!」


レイが珍しく動揺している、当然私もだ。

部屋で行ったり来たりして誤魔化しているが、私もかなり動揺している。

無事で居てくれればそれで良い…だが…彼は朝から様子が変だった。

ソワソワしていて、いつもの彼では無かった。

だが…私は深くは聞かなかった、何が有っても彼は裏切らない、絶対的な信頼をしている。

しかし、それが仇となったのは翌日になって分かった。


結局彼はホテルには戻らず、私達は闘技場へと向かった。

闘技場には沢山の人が集まっていた、多分今日の決闘を見る為に集まった観客だろう

私達は入り口へ向かうとエステルが待っていた。

彼女は私達を見るといつもと違う光景に気が付いた。


「あれ?リヒターはどうしたんだ?」


「分からん」


「昨日から帰ってないの…」


それを聞くとエステルは複雑な表情になった。

当然だ、いつも一緒に居ると言うのに今日は居ないのだからな…

闘技場に入ると、リヒターらしき人影を見つけた。

間違う訳がない、私の大切な人なのだから。

私達は彼に近づくと彼は酷く疲れた表情で、睡眠を取っていないのは直ぐに分かった。

私達は彼を見つけて感情的になってしまった。

分かっている、理由が有る事は。

でも、それでも私達は感情的に聞いてしまった。


「リヒター…何処へ行っていた?」

「リヒター君…お姉さんは怒ってます、白状なさい」

「…」


彼の表情は暗かった。

何か深い事情があったのだと察しがついた。

するとレイが昨日から起きた変わった事を聞いた。


「リヒター君、お義父様とお義母様が見当たりませんが…関係しているのですか?」


リヒターの目が一瞬だが泳いだ。

間違いない、彼は親の事で何か関係しているのだと。


「あ、うん、そう。昨日父さんと母さんが家が決まったからちょっと家の間取りとかをー…」


彼が話している最中に男が急に入って来た。


「お前がリヒターだな?今日は楽しませてもらうぜ?」


ガラの悪い男だ、どう見てもこいつは悪人だと一瞬で感じ取った。

リヒターは彼と話をしていると、ナイトフォールが突然現れた。

しかし…いつものとは違った、明らかに禍々しさが増幅していた、まるで…悪魔になったかのように。


リヒターはその後控室へと向かって行った。

やはりおかしい。

何か遭ったのは間違いないと私達は理解した。


観客席へ行き私達はエステルに何が起きたのかを教えた。

彼女も気になる事があったそうで、昨日の朝ギルドに来たそうだ。

アシェリーが言うには、彼はグローザの本拠地の住所を聞き出そうとし、踏み込んだ質問をすると、何かはぐらかそうとした事が印象的だったと。


試合が始まったが、私達は思考を巡らせある可能性に行きついた。


「…まさかとは思うが、お義父さんとお義母さんが攫われたのでは?」


レイはそれを聞き怒りをあらわにする。


「…やってくれたわね、人間…根絶やしにしてやる」


そう言って立ち上がろうとするが私は直ぐに止めた。


「待て、私達が離れればリヒターが魔法が使えなくなるぞ!」


リヒターは必死に盾で魔法を防いでいたが、相手の口元が動くと、突然盾を解除した。

そして彼は魔法を無防備に喰らっている。

これで私は確信した、あいつはリヒターを脅していると。


「2人はリヒターを、私はグローザの本拠地へ行くわ…ギルドの全戦力を使ってでも見つけ出す…!」


そう言ってエステルは走って行った。

残った私達は…リヒターがボロボロになって行く様を見るしかなかった。

氷の塊で貫かれ、炎で焼かれ、かろうじてヒールを使っているが、それでもダメージが大きすぎる。

最後は血だらけで床に倒れ、相手に足で踏みつけられている。

私達も見ていて、相手を殺したくなる程怒りに震えていた。

何度も乱入しようかと考えた、だが…私達は最後の最後まで彼を信じる事にした。

生きてさえ居れば良い。例えボロボロになっても私達が支えれば良い。


相手は氷の剣を突きさそうとした瞬間だ、リヒターのナイトフォールが突然現れ、剣を握ったのだ。

しかし、それは不自然だった。

ナイトフォールが握ると、黒い何かが剣を侵食しパラパラと砂の様に崩れ去ったのだ。


そして彼は何かを呟いた。

空は急に暗くなり、ナイトフォールは漆黒の鎧とマントを纏った戦士の形となった。

それを見たレイは気付いた…あれはまずい物だと。


「待って!あれは…禁忌魔法じゃないの!な、何で教えたの!ベルベット!」


「教えてなどいない!あんな危険な魔法を教えた事は無い!」


この時嫌な予感がした、もう彼は戻って来れないのではないかと。

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