第35話:敗者は善と悪の境界に揺れる

私は今廃れた村、ヘッケラー村の近くにある森に居る。

此処なら誰も来ないし、思いっきり力を使える。

私は森に有った小屋を隠れ家として使う事にした、汚くて何も無いが、構わない、ただの実験だから。


「ネクロマンシー」


それが私が得た新しい力。

死者や死霊を意のままに操る事が出来る、でも気になるのはその能力の限界だ。

私はその森で試しに死んだ鳥を操ろうと考えた。


「ガミジン、具体的に何をすれば良いの?」


「念じろ、操る事だけを考えれば良い」


言われた通り私は頭の中でこの死んだ鳥を操る事を考えた。

すると、倒れていた鳥は立ち上がり鳴き声を上げている。


「成功だ、ネクロマンシーには4つのポイントがある


・死体を直接操る

・死霊を呼び起こし、操る

・死者や死霊に殺された者はゾンビとし操れる

・死ぬ事は無いが、物体が消えれば終わる


この4つが今のお前が使える限界だ」


「今使える?これより上があるの?」


「ある、だがお前には使えない、何故ならネクロマンシーに求められる素質、つまり…お前が人の心を捨てた分だけ強くなる、お前は肉親を殺す外道だ、故にこの力を使えるのだ」


「…成程、私が『悪い事』をすれば力に目覚めるのね」


「そうだ」


私は楽しみだった、この力を使えばリヒターを取り戻せる。

その為にはまず…『悪い事』をする事にした。

そんな時私は森に居る小さな女の子を見つけた。

1人で遊んでいる様で、こんな所に居るのが悪いのよ、私の目的の為に利用させて貰う、そう思い私は考えた。


私はその女の子を窒息死させた。

苦しそうに足をばたつかせ、「助けて」と言っていた。

昔の私なら…躊躇っただろう、でも今は違う、私は外道、目的の為に手段は選ばない。

だが…私の人としての心は徐々に崩れていくのが分かる。

こうして女の子の死体を作り、彼女を操った。

私は沢山の命令を出し、どんな事が出来るかを確認していると、急に命令を聞かなくなった。


「どういう事?」


「…お前の影響下、つまり範囲から離れたのだ。今のお前の力はネクロマンシーとして最弱と言っても過言ではない…そして、影響下から離れた死体は本能の赴くまま人を襲い、人を食う、お前の外道に拍車をかける訳だ」


「そう、どうすれば私の能力は上がるの?」


「言ったはずだ、お前が言う『悪い事』をすれば良い」


こうして私は一体のゾンビを世にはなったのだ。

私はガミジンに命令し、ゾンビの動きを逐一報告させた。


その女の子は誰かの家に帰り、母親を襲った、しかし母親に地下室へ幽閉された。

母親は手当をし、何故か日記のような物に何かを書き残し、地下室を出て行った。


その晩、母親はゾンビ化し、帰って来た父親に噛み付いた。

父親は彼女を無理矢理引き剥がし、何処かへと消えた。


「ふふ…ゾンビ化するまで約5時間、少し遅いわね、早められない?」


「死体になれば直ぐだ」


私はハッキリ言ってもっと凄い事をしたかった。

村一つをゾンビだらけにしようと考えた。

だが、あの少女の顔が頭に過り、母親が悲しむ姿、母親が父親を襲う場面、色んな物を見てきて、最後の一歩が踏み出せずにいた。

関係の無い人達を巻き込む事…それがどういう事なのかを考えてしまったからだ。

結局、私は村の近くまで行き、ゾンビを森へと移動させた。


「何をしている?良心の呵責か?」


「…違うわ、こいつらを鍛えるのよ」


「ほぉ?ゾンビを鍛えると?」


「ええ、言葉も発せない様じゃ、兵にもならないわ」


「ふふ、面白い奴だ、良かろう我が新たな力を授けよう、この力を使えばゾンビから別の物へと進化するぞ…死体次第だが、…」


「ふふ、面白そうね、早く頂戴」


私は新しい力を得た、だが…私は気を失った、いや…何があったのかが分からない。

目を覚ますと小屋の中で壁一面に「リヒター」と書いてあった。


「ククク…お前は本当にそのリヒターと言う奴が大切なのだな」


「関係ないわ」


「ふ、そうかな?新しい力の付与でお前の意識が耐えきれず倒れたというのに、延々と壁にリヒターと書いていたぞ?」


私が書いたのか?どういう事?


「ネクロマンシーの能力を無理矢理上げた為の弊害だ、お前の意識は途切れたが、本能は途切れなかったと言う訳だ…そして誰かが近くに来ているぞ」


私はハッとなり、小屋から外を見ると、遠くだがリヒターと3人の女が此方に向かってくるのが分かった。


「リヒター…やっぱり運命よね、貴方は私と繋がってる…」


女が一人増えているが、気にしない。

あいつも私の手で消すから。

でも、それはまだ先、今は私が納得するまで力を付ける、それからよ。


「さぁ、逃げるわよ」


「…そうだな、お前ではまだ勝てん」


「ええ…今はまだ、あの3人を殺すには力が弱いわ」


こうして私達は森の奥深くへ逃げた。

ゾンビ達は使えないと判断し、ただの死体に戻した。


この一件で分かった事がある。

ゾンビは兵隊にはなれない。

だが、本能の赴くままに人を襲い、ゾンビを増やす。

1匹街の中に置けば勝手に街一つが崩壊するだろう。

だが、これだけではダメだ。

ゾンビの弱点は思考出来ない事だ、相手に何をすれば合理的で一番効果的か等考えていない。

次は…アンデッド、死霊を使う事とした。

私は徐々に堕ちている事に気づいている、でも止まらない、何故なら、堕ちれば堕ちる程、リヒターに近づける事を知ったからだ…

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