第34話:孤独な終幕
屋敷を調べ終わった3人は、僕を連れて本部へと戻った。
彼女達が道中話しかけてくれていたが、全く頭に入ってこない。
何が何だか分からない。
僕は調査に来た、何者かが人を噛み、噛まれた人は消え、ゾンビの仕業と分かり、森にある小屋に僕の名前が書かれていた。
冷静に考えてもどうしてなのか分からない。
怖がっている僕の隣にレイが温かい飲み物を持って座った。
「リヒター君、はい、これ」
手に取るとカモミールの甘いリンゴの匂いと干し草の匂いが混ざった様な匂いがする。
「熱いから気を付けるんだよ?カモミールティーは心を落ち着かせてくれる…驚いたよね、リヒター君の名前があんな所に書いてあるなんて…」
「うん…」
「あの後調べたんだけど、誰かが居たのは間違いなかったわ、そして…多分その人がゾンビを出していたのだと思うの、証拠はないけど…」
「そっか…」
「それでね…彼女達と話をしたんだけど…私達には手に負えないと思うの…私達はアマチュアで、プロとは違うわ。だから…騎士団に回すべきだと思うのね、戦う事とかなら、私達が居るから平気だけど…こういう調査は難しいわ。幾ら魔法を使っても、限界があるの、だから…これは下りようね?」
レイが言う事は間違ってはいない、でも…あと1か所だけ行きたい所がある。
「分かった…でも1か所だけ最後に行きたい場所があるんだ、だから皆を呼んできてもらえる?そこに行ったら、村長さんに報告して帰ろう」
こうして最後に行くべき所へ僕達は向かった。
最初に起きた事件現場だ、臭いの原因。これが分からなかった。
僕達は家に入り、異臭…いや、死臭の匂いを探す事にした。
今なら、サーチを使えば何処に居るかが分かるはずだ、そう思い僕は魔法を使う。
地下
何処かに地下へ通じる何かがある筈だ、そう思い皆で調べた。
調べた結果、散乱していたリビングに有ったカーペットの下が地下室へ繋がる階段が有ったのだ。
木で作られた階段を下りていくと、そこには手足を椅子に縛られた子供が居た。
しかし…その子供はゾンビだった。
手足から血が長い間流れていたのか、椅子が血だらけだった。
外傷は全く無かった、けど…手足を無理矢理動かした為、皮のバンドが食い込んでいる様に見えた。
彼女は僕達を見て歯をむき出し、ウー!と唸っている。
一体何が遭ったのか分からない、けど…この子を早く終わらせてあげないとならない気がした。
僕はレイに頼み、彼女を楽にしてあげた。
その部屋を調べると、血が付いた日記が置いてあった。
彼女の母親が書いた物と思われる。
日記には、彼女が突然腕を噛んできた事、彼女を何とか地下室まで連れてきて手足を縛った事、噛まれて意識がなくなりそうになった事…徐々に綺麗だった文字が歪んできたりしていた…そして最後に夫と子供に愛していると書いてあった…
日記を読んでいて、心が痛い。
自分の娘がゾンビ化した事も知らず、おかしくなった子をどうにかしようとしたのだろう。
この事を村長さんに伝え、村を後にした。
最後に村長さんは「ありがとうございました」と言い、10万ゼニーを僕に渡した。
受け取れない事を伝えると、「あの世に金は持って行けません」と言い、無理矢理渡された。
こうして…後味の悪い最初の指名依頼は終わった。
調査結果は、こうだ。
少女が何だかの原因でゾンビ化、一家の母親を噛み、母親は何とか少女を地下室に閉じ込め、事の発端等を紙に書きゾンビ化、帰って来た夫に噛み付き、何処かへと消えた…
僕の予想だが…ゾンビはきっと森の中にまだ居る、そして…この事件の発端となった人物もそこに居た。
そして、もし…噛まれた事で死に、ゾンビ化するのであれば…あの辺一体はゾンビだらけになってしまう…
「以上が調査結果です、ご判断をお願いします」
僕は騎士団団長のロナルド・ハートマンへ報告をし、騎士団を派遣して欲しい事を頼んだ…
「分かった、兵を派遣し調べさせよう。リヒター大変だったな…」
そう言って、彼は部屋を出て行った…
帰り道、僕は公園でぼーっとしていた。
あの小屋の事が気になって仕方ない。
僕を知っている人なのだろうかと、恨まれる理由は無い筈だ…
出口のない迷路に迷い込んだ様に、ゴールが見えていない。
見えない事、見当がつかない事、それが余計に不気味に感じてしまう。
一体誰が…あんな事を?
そして…何故あの村医者はゾンビ化したのだろうか?
外傷が有ったからなのか…それとも…
この時は気が付いていなかった、誰がやったのだとは…それを知るのはもっともっと先の事だった。
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