208大会~ヴォリガ―と強者の戦いーー(作者コメント)打ち切りです.ごめんなさい
大会初日の夜,彼女は忍び込んだ屋敷の中で出会ったドブルィニン陸軍少将こと魔法使いドブルィニン・ヴォリガー・アレクセーエヴィチに芸を求められて酒場で歌を披露し,自身の中にあった不安を払拭した.その為,歌を何曲か披露した後,彼女は彼に出会った直後と似たような様子で会話を楽しみ,アンナはその様子を眺め続けていた.
翌日,翌々日に行われた予選では魔女マリーナや髭の生えた男|(彼女が風邪を引いた日に初めて声を掛けた相手),勇者ヴラドといった強者が予選を突破し,一人,変わった姿の強者も混じっていた.観客席からその姿を目撃したエレーナはアンナに聞く.
「あの化け物,汚らわしき魔王軍ウル・タルタルスの兵士ではありませんか?」
「いや違うな,あれは南部ヴルガ・マスクヴァの少数民族『ユラン』.口から1973Kの炎を吐くのが特徴.起源としては……ウル・タルタルスとは異なるものだが見た目で誤認される事も多く,小競り合いに発展する事も多い」
アンナが淡々と語った『ユラン』の戦士の名はトゥガーリン・ズメエヴィチ,蛇のような頭に付いた二つの目の間は矢の長さ,3mはある背丈に1m近い肩幅を備えた強靭な肉体には長い尻尾が付いており,物を力強く握る事が出来る手には500kgを超える巨大な鋼の槍を備えていた.そんな姿の戦士にルールは適応されない.しかし,誰もが殺す気で掛かろうとも,その戦士を倒す事は出来なかった.見かけに似合わず素早い『ユラン』の戦士は槍で強者の持つ武器を叩き落とし,その喉元に槍先を突き付ける.そうして予選を突破したのである.彼女はその試合を目を細めながら観戦していた.
三日目に行われた最後の予選も終わり,黄金に輝く太陽は堕ち,街灯の揺れる炎を遠くから認識できるようになった頃,彼女達はヴォリガーと共にアンドレイの酒場にいた.カウンター席に座り,珍しくアルコールによって頬をほんのりと赤く染めた彼女はルパシカ姿の彼に祖国の公用語でこんな事を尋ねた.
「ヴォリガー・アレクセーエヴィチ,その鋼で出来た槌矛の質量は何kgですか?」
「約2,000kgだよ.鋼だけだと質量が足りないから他の金属も使っている.触ってみるかい?」
「はい!」
ヴォリガ―は壁に立て掛けていた黒い槌矛を片手で持ち上げて机の奥に置く.
「触っても良いよ.ただ,棘は触らないようにね」
「分かりました」
彼の言葉を聞いて彼女は眼を輝かせながら黒い槌矛を子供の頭を触るような手つきで撫で始めた.彼に最適化された黒い槌矛は折れる事の無い,太く短い棘の生えた球型の頭部を持ち,70cm程の金属製の柄を備え,その見た目に反して異常なまでの質量を保持していた.彼女は少し経ってから彼の方を向いて,アンナに聞いた事と同じことを尋ねる.
「ヴォリガー・アレクセーエヴィチ,貴方は『眼光鋭き鷹』のような動物に変身することは出来ませんか?」
ヴォリガ―は彼女が話している途中,『眼光鋭き鷹』の辺りから笑い始め,そのままの調子で答えた.
「アハハ,なるほど,私を英雄譚の『ヴォルフ』だと思ったんだね.残念だけど,私の名前『ヴォリガー』は戦意高揚のための偽名で本来の名前は聖人暦にある普通の名前だよ.それに私は変身魔法を使えない,5,000kgの槌矛を持つ事も出来ない,彼よりも優れているのは部下の数だけかもしれないね」
「うふふ,そんな事ありませんよ.ヴォリガー・アレクセーエヴィチ.アーニャから聞きましたが,貴方は一つの国を征服するだけでは無く,魔法使い養成学校の設立,それに加え,魔法使いを用いた戦術の考案,勇者養成学校の改革にも携わった英雄であると.そう言った事は並外れた知能が無ければ出来ない事だと思います」
エレーナは彼の冗談交じりの言葉に対して口元に笑みを浮かべながらそう返した.彼女は二日前,ドブルィニン陸軍少将を知らなかった.記憶が欠落した彼女は陸軍の非勇者の英雄に関しては無知であったのだ.その為,恥をかいた彼女はアンナからそういった英雄の情報を聞き出していたのである.彼女がこの時,言葉にしなかった事として彼が50日程前に参加していたニジニ・レチェンスキーの戦いで祖国は魔王軍ウル・タルタルスに対して勝利を収め,およそ2万人の損害を与えた.その戦闘で特に活躍していたのが彼の第二歩兵軍団であるがその事には触れなかった.彼女は休暇中と言う彼には仕事に関係した話を振らない様にしていたのである.その為か彼もまた,口元に笑みを浮かべながらこんな事を話す.
「そう.私はその優れた知能で魔法使いから様々な技術,魔法を学んできた.だから,私はそれだけの成果を上げる事が出来た訳だね.<知は力なり>とはよく言ったものだよ.それで,私の先生はよくこんな事を言っていたかな『変身魔法は存在する.現に人狼を造る事が可能なのだから』ってね.先生は人狼を造る技術は変身魔法を簡素化して機能を狼への変化だけに留めた物では無いかと考えていたみたいで,よく研究していたよ」
彼は話し終わると,彼女が言葉を発する前に聞いた.
「もし,君が変身魔法を使えるなら何になってみたい?」
「自由に変身することが出来るなら大蛇です.大蛇のカッコいい見た目や強大な力,神秘性に惹かれたというのはありますが,ゴルィニシチェのように空を飛んでみたいというのが一番の理由ですね」
「アハハ,面白い事を言うね.確かに蛇は民間伝承の中では神秘的な力を持ち崇拝されている.それに惹かれるのは私も同じだよ.だけど,私は『ヴォルフ』のように『眼光鋭き鷹』になってみたい.気球よりも目立たずに,ゴルィニシチェよりも静かに飛ぶ事が出来るからね」
二人は笑顔でそういった会話を続けていた.それを離れた席から遠目で眺めるアンナにアンドレイはこの国の言葉で聞いた.
「相手は少将だが良いのか? それに妙に距離が近いが」
アンドレイが言うように彼女はヴォリガ―の隣に座り,二人の肩の間には黒パン一つ分の隙間も無く,体温すら感じ取れそうな距離まで近づいていた.アンナは目の前の皿に積まれたクッキーを齧って,紅茶を飲んでからこの国の言葉で返事をする.
「本人が嫌がっている訳で無いのならいいだろう.それに,二人とも満更でも無さそうだからな.それより『クワス』でも出してくれないか?」
「アルコールが含まれているから,君には出せない」
アンナの要望は断られた.ライ麦等を発酵させた飲み物『クワス』は微炭酸で甘いが,微量のアルコールが含まれている.アンドレイは大会の期間中にアンナが酔っ払う事は避けたかったため,アルコールが僅かにでも含まれている飲料は出すつもりが無かった.しかし,アンナは落ち着いた様子で別の物を要求した.
「『ズビーチェニ』は作れるか?」
「それなら,材料はあるから直ぐに出せる.少し待っていてくれ」
そう言って,アンドレイは酒場の奥の調理場に向かって行った.そして,数分後にはアンナの目の前にお湯に蜂蜜と香草を入れた『ズビーチェニ』が置かれ,アンナはそれを飲みながら彼女を遠目で見つめていた.しかし,更に数分経った後,突然,目の前に山の様に積み重ねられた『ブリヌイ』が置かれる.運んできたアンドレイが石像のように動かなくなったアンナに言う.
「店の入り口近くに座っている常連客のパウル・アントネスクが君にご馳走するとの事だ」
「……あ,あぁ,分かった」
アンナは彼の言葉に対して少し間を空けてから返事をすると,ジャムを『ブリヌイ』に掛けて少しずつ口に運び始めた.一方,エレーナとヴォリガ―はこのような会話に移っていた.
「つまり,君の実力は大したことが無いという事かな?」
「はい! 魔法を使えない勇者なんて使い物になりませんからね.そのため,軍上層部は私を配属することが出来なかったのだと思います.その結果,上官に『傭兵を集めろ』と言われた私はこの暑苦しい国で人集めをしている訳ですが,私自身が魔法を使えないので誰も靡いてくれません.どう思います? ヴォリガ―・アレクセーエヴィチ」
エレーナは完全に酔っ払っていた.頬を赤く染め,口からは言葉が漏れ出し,純白の長手袋に覆われた細い指でヴォリガ―に触れていた.彼はそんな彼女の手を取り,手の甲にキスをすると口元に笑みを浮かべながらこう言った.
「レーナ,君はそこまで自分を卑下する必要はないよ.私の予想では,君は元々魔法を使うことが出来た.その優れた魔力が証拠だよ.今は何らかの要因で出来ないだけで,その内,魔法を再び使える様になる.その時は私の所においで.君の部下も含めて私の軍団に編入しても良い.いや,約束するよ.神に誓って」
「うふふ,口も態度もお上手ですね.私,嬉しいです.例え嘘であったとしても,貴方からそう言われるのは本当嬉しいです」
エレーナは笑顔でそう言った.それに対してヴォリガ―も笑顔でこう返す.
「嘘じゃないよ.後で書類にして送る.何が不満なんだい?」
「私が魔法を使えるという話に何一つ具体性がありません.前提条件を満たす事が出来ない以上.その後の約束に意味はありません」
酔っ払った彼女は強い声色で言った.それに対してヴォリガ―は先と変わらない表情でアンナの方を指しながら答える.
「君の問題を解決するのは私ではないかな.ほら,優秀そうな魔女が君の傍に居るじゃないか.彼女に協力して貰えれば解決するよ.優秀だと考察する根拠は彼女の持つ杖だ.あの杖は私が見た事のある中で最も強大だった魔法使いの杖と同型の物でね.古くからの魔法使いの共同体でごく一部の者にだけに出回っているという代物らしい.間違いなくやり手だよ」
彼女は無表情で『ブリヌイ』を食べ続けるアンナの方を向いた後,ヴォリガーの眼を見て真剣な表情で言った.
「分かりました.貴方を信じようと思います.書類の有効期限は何時までですか?」
「約3年後までかな.魔王軍との戦争は長引く上に西側もきな臭い.そのため,期間は長めに取らせて貰ったけど,これで良いかい?」
「はい.お願いします」
エレーナはその日,ドブルィニン陸軍少将こと魔法使いヴォリガ―に魔法を扱える様になればアンナ共々彼の軍団へ編入するという約束を取り付けた.彼女は戦争に参加する為の新しい手段を得たのである.
二人は約束を取り付けた後も親交を深め,翌日,大会の本戦が行われた後も他愛の無い会話で盛り上がっていた.
「アレクサンドル・ポポーヴィチについてはどう思いますか?」
「女好きのロストーフツェフかい? 各地に愛人が居て,昨日も軍服姿で女を連れ込んでいたみたいだから,良い印象は無いね.ただ,彼も実績を立てて,今の階級に居る.実力はあると思うよ.具体的な話も交えた方が良いね.6年程前に…………」
ヴォリガ―は彼女に勇者アレクサンドルの逸話を幾つか話した.それはアレクサンドルの優れた武勇の事から,不祥事,そして私生児に関する噂など多岐に渡った.そうして,エレーナと彼の時間は川の様に過ぎて行く.
どす黒い雲に覆われ,大粒の雨粒が降り注ぐ大会の五日目,ヴォリガ―は初めて苦戦を強いられる事になった.彼に苦戦を強いた者の名はイヴァン・ニキートヴィチ,髭の生えた男|(彼女が風邪を引いた日に初めて声を掛けた相手)である.その男はルパシカの上に粗末な鎖帷子を身に纏い,薪割り用の斧と刀身が厚く幅広に作られた直剣を左右に携え,腰には予備の剣と3つの小さな布袋を提げた質素な姿であるが,彼と対等に渡り合っていた.
ヴォリガ―が魔法で氷点下を大きく下回る気温に変え,降り注ぐ雨粒が霰となり,濡れた地面が石畳のように固まろうと,その男は何事も無い様子で彼に剣を振り続ける.それに対して彼は左手の黒い槌矛で受けるが鍔迫り合いになれば男の方が優勢で『魔法の盾』を併用して受ける事が多かった.そして,男は途中で剣を振るのを止め,彼は10m程距離を取る.男はヴルガ・マスクヴァの公用語を用いて大声で話しかけた.
「魔法使いヴォリガ―・アレクセーエヴィチ,手を抜くな,本気で来い.お前はこの環境でも有効な魔法を持ち合わせているはずだ.俺に奥の手を見せてみろ!」
「アハハ,偉そうな口を聞くね.君は農民出身かい?」
ヴォリガ―が笑いながら言うと.男は瞬きをせずにこう返す.
「そうだが,これ以上答える気はない.時間稼ぎは止めろ」
「良いよ」
彼がそう言うと凍り付いた地面から無数の氷柱が生え,舞台全体が12月の白樺の森のような姿へと変わった.そして,男の後ろにある幹のような氷柱から一本の氷の刃が枝の様に伸びて行き,男に触れる寸前で止まる.男は全く動じずにヴォリガ―を真っすぐと見続けてこう言った.
「これがお前の奥の手か?」
「そうだね.君の切り札はその魔法が込められたルパシカと腰に提げている袋かな?」
彼は笑みを浮かべながら答え,聞いた.男は一言
「あぁ」
と言うと,武器を構えて彼に向かって突っ込んで行く.再び二人の闘争が始まった.
ヴォリガーは突っ込んで来るイヴァンに対して枝の様にも見える氷の刃を無数に差し向けるが,男は真っ直ぐと彼を見ながら,襲い掛かって来た氷の刃を剣で破壊して足を止めずに接近する.それに対して彼は後ろに下がりつつ自身の周りにも無数の枝を展開し,彼の振り下ろした剣を『魔法の盾』を併用した氷の枝で受け,鞭の様に大振りの音速を超えた黒い槌矛の一撃を送り込む.しかし,男はその一撃を受け止めた.彼の一撃を防いだ斧と黒い槌矛の間には青白く半透明の薄い膜が展開されている.男も魔法を使う事が出来たのである.
ヴォリガ―は暫くの間,劣勢だった.彼の攻勢により常に早い速度で後退し続ける事を余儀なくされ,男の攻撃を逸らしながら舞台上を逃げ回る事になった.しかし,彼は無策では無かった.時間が経つにつれて破壊されなかった氷柱は巨木へと成長し,幹の太さは4mを超えていた.そして.彼はその巨木の近くへと後退して足を止め,男の渾身の一撃,横振りの剣を横方向に5m飛んで回避し,その大木から直径1mの円柱を初速500m/sで2m離れた彼に対して撃ち込んだ.男は『魔法の盾』を前面に展開して受け止めた後,剣の柄頭で氷柱の右側面に力を加え,弾道を逸らした.
そこに一瞬の隙が出来た.イヴァンは円柱に目を取られ,ヴォリガーを見ていなかったのである.彼は男が受け止めた時,黒い槌矛を彼の右手に投擲し,自身は男の左背面に回り込み男の背中に触れて魔法を発動させると鎖帷子の下に着た魔法のルパシカが燃え上がった.そして,彼は槌矛を拾わずに10m離れ,彼の獲物に似た形状の剣を氷で形成して,燃え終わるのを待ち続ける.
観客席で純白の雨傘を差したエレーナは彼を見ながら,同じ型の傘を差すアンナに聞いた.
「アーニャ.イヴァン・ニキートヴィチが身に付けている,魔法が込められたルパシカが燃えましたが,ヴォリガ―・アレクセーエヴィチの勝利ですか?」
「恐らくだがな,服から魔法が消え去ったから,何らかの身体強化が消えていると思うが」
アンナが言うように,イヴァンが身に纏う魔法のルパシカに込められた魔法は身体能力強化であった.術式に書かれた魔法を発動させるにはエレーナの仕込み杖のように使用時に魔力を外部から流し込む物と事前に蓄えた魔力を使う物があり,魔法のルパシカは後者であった.身体能力強化魔法は効果に応じて二次関数的に増加する.その為,魔力容量が少ない者は事前に蓄えた魔力を使うのが一般的なため,イヴァンは先までの身体能力を魔法では維持できなかった.
しかし,イヴァンはルパシカが燃えて消し炭となった後も全く動じずに,距離を取ったヴォリガ―の方を向きながら,痛めた右手の剣と左手の斧を持ち替え,腰に提げた2つの小さな布袋を開ける.1つ目の袋から小さな瓶を取り出し,ポーション『力を増やす水』を飲み身体能力を取り戻した.2つ目の袋から金属粉を取り出し,魔法で燃焼させ強烈な光を片眼を閉じた彼に浴びせる.そして,男は槍投げの要領で左手の剣を彼に向けて投擲した.
その剣は襲い掛かる氷の刃を粉砕しながら直進し,片眼を開けた彼が左手の氷の剣で叩き落とした時,イヴァンは4mの距離まで近づいており,予備の剣も先と同様に彼に向かって投げられていた.彼が氷の剣を振り払い軌道を逸らすと,男は左の拳で彼の鳩尾を殴った.それに対しヴォリガ―は真顔でイヴァンを左腕と足を用いて地面に転がし,喉元に氷の剣を突き立てると審判のアンドレイから彼に勝利が言い渡された.
その様子を見て,観客席で座っているエレーナは彼に視線を送りながら,アンナに笑顔で言った.
「アーニャ,ヴォリガ―・アレクセーエヴィチが勝ちましたよ! 決勝はヴルガ・マスクヴァの英雄同士の戦いになるのかも.アーニャ,彼に会いに行きますよ」
「……あ,あぁ」
アンナは彼女の言葉に遅れて反応し,彼女に付いて行った.
そうして,普段よりも人気が少ない道を通って.屋敷の門に辿り着いた彼女達の背後から声を掛ける者が居た.
「来てくれて嬉しいよ」
彼女達が振り向いた先には,普段とは異なり,口元だけが笑っていて眼は細めている鎧姿のヴォリガ―が居た.彼女はそれを見ると,彼に近づいて聞いた.
「体調が悪そうですが大丈夫ですか?」
「いや,大丈夫じゃないかな.臓器が傷ついているから苦しくてね.私は知り合いの医者の所に行くから,次の試合は棄権したよ.悪いけど今日でお別れだね」
ヴォリガ―の擦れたような声を聞いて,エレーナは上目遣いで彼の青い眼を見ながら,小さな声で尋ねた.
「ヴォリガ―・アレクセーエヴィチ,その怪我は治りますよね?」
「間違いなく治るよ.その医者の腕は確かだからね.数日だけど,楽しかったよ.レーナ,それにアーニャ.今度会う時は魔法を使える様になっている事を祈るよ」
ヴォリガ―はそう言って,泣きそうなエレーナと俯いたアンナに見送られながら,その場を去っていった.
男の最後の攻撃は『魔法の盾』を容易に貫通した一撃であった.彼はそれを鳩尾に受けた為に小腸等の内臓が傷付き,勝利はしたが実際には相打ちと言った方が良い状態であった.そのため,祖国の英雄ドブルィニン・ヴォリガー・アレクセーエヴィチはその日の内に彼女達の目の前から離れ,何処かへ行ってしまったのである.
彼女はその日,無機質な表情でトゥガーリンと強者の試合を観戦し.黄金の太陽が堕ちた後はアンナと共にアンドレイの酒場に立ち寄った.彼女がアンナと共にカウンター席に着いて数秒後,俯く彼女に祖国の言葉で声を掛ける女性が居た.
「こんばんは.この前と違って表情が固いけど,大丈夫?」
その女性の名は魔女マリーナ・ユーリエヴナ.この日のマリーナは彼女の様に上品なドレスを身に纏っていた.
メモ
吉岡 正敞 日英仏対照ロシア語ことわざ集 駿河台出版社 1992 p42より <知は力なり>
男の娘勇者は少女姿の魔女と共に祖国で戦いました. 勇士カマス @kamasuR
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。男の娘勇者は少女姿の魔女と共に祖国で戦いました.の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます