気になるのかどうなのか、自分でも分からない。
若野居タカシは、ため息をついた。
・・・・・なんて、それは僕の事なんだけど。
最近。僕の机に。猪木彫いちごさんのプロフィールが書かれているのである。落書きである。
真相は分からない。誰が書いてあるのか分からない。
でも、確かに分かる事は、猪木彫いちごの個人情報が日に日に机に書かれている事である。だから、僕は最近誰よりも早く登校する。弟と一緒に家を出たくないというのもあるが、このままだと猪木彫いちごの情報をなんとなく誰かに見せたくなかったのだ。
猪木彫さんの情報は。最初は生年月日とか血液型とか足のサイズとか、ありきたりなものだった。最近は、髪がいい匂いです。とか、バレエ教室に通っているとか、夏に発表会があるとか、どうでもいい情報ばっかりで。
でも、いつのまにか僕は、彼女の事をよく知っている人のように感じてしまっていた。
ある日、机に。こんなことが書かれてあった。
「いちごは夕日を見るのが好き。川のほとりで待っています。」
まさかなぁ・・・。と思ったりした。ごちゃごちゃした町なので、夕陽が綺麗に見える川沿いの道は限られていた。習字の帰りに寄ってみると・・・いた。
学校以外で会うなんて、とても特別な関係になった気がした。彼女だからだろうか。
「・・・・それだけ。」
口から出まかせしか言えなかった。野犬がでるのは嘘ではなかったけれど。
僕は何とも言えない気持ちで、自転車をこぐ足の裏に力を込めた。
12歳の春 夏戸ユキ @natsuyukitarou
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