振り向けば、好きな人がいた。



 習い事からの帰り道。


 夕陽を見に、自転車で立ち寄ったいつもの川沿い。


 ふっ・・・と振り返ると。


 好きな人が。


 最近、気になってる人がいる。


 そんな事。


 ある?。


 私は自分に問うていた。


 いや、ありえない。


 とそう思って、漫画のように目をこすったけれど。 それは本当に現実だった。


 目の前に、いるその人に。


 私は、声をかけた。


「若野居くん?。」


夕陽が逆行で、見えないから、目をこらして私は一応確認した。


ほおが熱くなってる。やばい。ばれる。何が?。気持ちが?。そう思いながら。


「猪木彫。」


その人が近づく。「ここで何してるの?。」私は聞いた。なんとなく。ここで夕陽をぼんやり見ていたなんて知られるのは、なんとなく、若野居くんでも見られてしまったら、少し気恥ずかしかった。突っ込まれたくなくて、あえて私から話を振ろうと思った。


「えっと・・・ここにいるって知ったから・・・。」


 はぁ・・。私は首をかしげ、まっすぐ相手を見た。

若野居くんは、困ったような、ものすごく言葉を選んでいるような、なんとも言えない顔をしていた。私は初めて、その人の顔をちゃんと見た気がした。学校以外で見る若野居くんは、大人っぽく見えた。学校では、若野居くんはちびで子供っぽい木野くんとか中居くんと一緒にいるからかもしれない。


「このへん。よく野犬が出るから。あぶないと思う。俺の兄貴が保健所で勤めてて。このへん俺らも知ってるんだ。それだけ言いに来た。」


「・・・・。」


初めて若野居くんと話したのは初めてだった。


「じゃあ。」


若野居くんは背を向ける。え。ちょっと待って。本当にそれだけ?。もう少しはなしたい。


「あの!。」


若野居くんは振り返る。言わなければ。そう思った。ええと・・・・。


「わざわざ、言いに来てくれたの?。」


ありがとうって言わないと。


「・・・ありがとう。」


言えたー!!!!


私はガッツポーズをしたかったけど、必死で押さえた。じゃあ、と若野居くんは軽く手をあげて、止めてあった自転車にまたがってすごいスピードですぐそばの住宅街へと消えて行った。 


どきどきする胸を押さえながら、30秒後に、私は、今自分が絶対にクラスメイトに見られたくない髪型と服装をしている事。(ひっつめ髪おだんご。バレエ用タイツ)そして、どうして若野居くんが、私がここにいる事を知っているのか?!という疑問に気付いき、ええっっ?!?!?とひとりで絶叫する事になるのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る