いちごの楽しみ



幼稚園のころから。


私は、バレエ教室に通っている。


フリフリのレオタードも、痛いだけのトウシューズも。


小さい頃は好きだったけど、実際に身に着けてみて、まったく私にはあわない事がわかった。


それでも、六年生になるまで続けているのは、そこで会う友達が好きな事と、帰り道が好きだから。


5時にレッスンが終わり、私は誰よりも早く教室を出る。


自転車にまたがり、立ち漕ぎで誰にも会わないように最初はスピードを上げて、帰りの道をいく。


川沿いの道を自転車を引いて歩くのが一番好きな時間だった。


川沿いがオレンジ色にきらきらしている。運が良かったら、鴨が3匹くらい、泳いでいる事もある。


 目をこらすと、川のそこに、鯉が泳いでいるのを見ると、どこか遠くまで旅に出てこの光景に辿り着いた。


 12年しか私は生きていないけれど。


 何年後もたって、誰かと出会って、その時見る光景はこういうものなのかもしれない。


 そんな気がするのだ。


 そんな事を考えて、何もせずにぼんやりする。


 それが許されるのは、この場所だけだった。


 ぼんやりしてたら、ママがすぐに怒るから、私はあまり家にいられない。


 私だけの、この場所。このひととき。


 いつか、ここにもいられなくなるのかな。


 大丈夫かな。


 最近、ここに来て考えるのは、すぐに怒るママの顔と。


 四月から意識しはじめた若野居くんの事。


 もし、ここで。


 若野居くんに会ったら。


 若野居くんはどう思うのかな。


 そう思い、ふっ・・・と横を見た。 

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