クマがいた話。日記のようなもの
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〇月✕日
にんげんに指図するな、と思って目覚まし時計を止めた。やっぱりそのまま眠ってしまったのだけど、なんとか遅刻しない時間に起こされた。朝ご飯も用意してある。これは夢? でかいクマのぬいぐるみみたいなモノが目の前にいるあたり、やっぱり夢だと思う。クマっていうかなんか、デフォルメのくまのキャラクターみたいな、あの、耳の丸い、尻尾が丸いからネズミではないな、くらいのクマ。白くて淡いカラフルな水玉模様をしてる。ハイフンみたいな目がわたしより眠たそう。太ってるのかやせてるのかわからないけど触りごこちはよい。動物とぬいぐるみの中間ぐらいの触感。クマのお腹をつついていたら抱きかかえられた。こいつ人を食うのか? と思ったけど、食卓につれていかれただけだった。たまご焼きを食べていると、急に髪を引っぱられた。何事かと思ったけどクマが髪をとかしてくれているだけだった。ご飯を食べ終えるころにはゆるい三つ編みができていた。かわいいじゃんクマ。着替えをはじめるとクマは食器を片付けはじめた。やっぱり背中にチャックはない。家を出る時ちゃんといってきますとは言ったけど、クマはいってらっしゃいとは言わなかった。代わりに手を振ってくれた。やっぱり学校には遅刻した。報告簿にはクマがいたから、と書いておいた。先生は何も言わなかった。休み時間には友達に三つ編みを褒めてもらった。クマにお礼を言おうと思う。二限目の数学は聞いててもよく分からないのでクマの絵を描いた。かわいいなクマ。隣の席の子がのぞいてきて、それ何ていうキャラ? って聞かれた。わかんないと答えるとけげんな顔をして、それからなるほどね、みたいな顔になって、かわいいねと言ってきた。ありがとう、とは言ったけど、何がなるほどね、だったのか。お昼休みは大体は一人でいるけど、今日はたまに話すグループの子たちに誘われた。クマが作ってくれていたお弁当を食べた。朝のたまご焼きがハート形になって入ってた。かわいいなクマ。他にもニンジンが星型に切ってあったり、ウインナーがカニさんだったりした。みんなもかわいいと言ってくれて、帰ったらクマに十回くらいありがとうを言わなきゃな、と思った。デザートのりんごはやっぱりうさぎだった。午後の授業は半分寝た。現国だけは起きていた。萩原朔太郎の詩を読んだ。板書は写さなかった。自らを食べるタコの詩は、いいな、と思ったけど、よくわからなかった。ただ水槽はきれいだった。クマにも教えてあげようと思ったけど、クマは人語を解するのだろうか。本でも貸してやろうか。帰りのSHRはサボった。同好会は週に二回しかないから、今日はまっすぐ帰る。本屋の前でちょっと悩んで、中原中也の詩集を買った。思いつきで買うには高かったから、少しは好きになれるといいと思う。玄関の前でポケットを漁ってカギを出した。おや、カギが開いているぞと思ったけど、そういえば今日からうちにはクマがいるんだ。ただいま、と言ってくつを抜いだ。他のくつがそろえられていたから、ローファーもそろえておいた。クマがキッチンから顔をのぞかせる。ひき肉を持っている。今日はハンバーグだろうか。クマが手を合わせてこすり合わせる仕草をした。手を洗え、ということか。すこしうなずいて洗面所に行った。鏡を見る。顔色が悪い。電気をつける。顔色がよくなった。今日は顔色がいい。手を洗おうとすると石けんが新しくなっている。いいにおいがした。お弁当箱を出そうと思ってキッチンをのぞいたが、忙しそうなので夕飯の後に出すことにしよう。そういえばこの夢は覚めないな。でも楽しいからこのままでもいいや。キッチンからジュウジュウと音がする。ハンバーグだな。ソファに埋まって中也の詩を読む。するすると字が滑っていく。目から喉に落ちる詩と、視神経を通って脳にいく詩があるのに気づいた。けど、好きかはわからなかった。クマが机に食器を並べ始めた。読みかけの詩を最後まで読んで、(ちょっといいな、と思ったけど、一つだけ表現が好きじゃなかった。おしい)席に着いた。ピーマンの肉詰めだった。ちょっと米が多かったけど食べた。クマの味噌汁はおいしい。そういえばクマはものを食べない。見られているだけなのもなんだか落ち着かないので、肉詰めののった皿を差し出してみる。クマは首を振った。食べないらしい。ピーマンは苦くなかった。クマは料理がうまい。ごちそうさまでした、と手を合わせて、クマが食器を下げるのを見ていた。そうだお弁当箱。さっそく洗い物をしているクマに、空いたお弁当箱を手渡す。ぐっ、と親指を立てておいた。リビングにもどりまた中也の詩を読む。少し飽きてきたのでテレビをつけた。ちょうど好きなコンビが漫才をやっていたので見ていると、洗い物を終えたクマがあっためたポカリを持ってきた。ありがとう、と受け取って、クマがソファに座れるよう場所をあけた。(わたしはソファの前に座っていた)そしたらクマはソファじゃなくて、わたしの隣に腰を下ろした。近かった。けど肌ざわりが格別によいので構わない。あまりにもここちいいのでよりかかってみる。別にいやがるそぶりも見せないので、そのままよりかかってテレビを見た。そのうち漫才の番組も終わってしまって、チャンネルを回しても面白そうな番組がなかったので、テレビを消して詩集を読もうとした。だけどクマが詩集をめくっていたのでクマを見ることにした。字は読めているのか、それとも見ているだけか。ちょっとページをめくるのがはやいから、読んでいないかもしれない。お風呂が沸きました、とアナウンスされたので立ち上がる。クマは詩集をめくっている。へんな夢ー、と思いながらお風呂に入った。お風呂から出てもクマはまだ本をめくっていた。十時だったけどねむたかったので、おやすみと言って部屋に入った。寝る前にベッドでちょっとノートをめくって、でもよく分からなかったからすぐ眠った。クマがいるから目覚ましはかけなかった。
クマがいた話。日記のようなもの ℃ @puonesica_
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