第22話推敲・其の5

「しかしアラタさん。バンデミック騒ぎ収まりませんね」


「まったくだな、かい子。アルコール消毒をテーマに『おうちで消毒液をつくろう』なんて話を考えたが、アメリカで消毒液を直接体内に注射する人間がたくさん出たからな。作中でビールを飲んではやり病の克服だなんて書いてるのがばかばかしくなってくるよ」


「そのはやり病なんですが、アラタさん。第一次世界大戦の時にウイルスって概念は一般的だったんですか?」


 そこなんだよなあ。当時の一般人の感覚はわからないからな。


「ええと、かい子。ウィキペディアの『ブロード・ストリートのコレラの大発生』の記事を見ろ。ビール工場の従業員がペストにかからなかったとあるだろ」


「本当ですね、アラタさん。よくもまあこんな記事まで。今のご時世ウィキペディアの記事を読むだけでも結構な時間がかかるって言うのに」


「で、細菌と言う概念はなくても『井戸水に原因があるのではないか』という主張が受け入れられたみたいだな。『はやり病の原因は瘴気なんてよどんだ空気が原因じゃないみたいだぞ』と」


 まあ、実際のところ俺もウイルスと言われたってこの目で見たわけじゃながな。


「そして、かい子。ウィキペディアの『メアリー・マローン』の記事だ。別名『腸チフスのメアリー』だ。腸チフスの細菌に感染したが、発病せずに本人はぴんぴんしている。で、周囲に細菌をまき散らし、結局無人島送りにされたみたいだな。本人にしてみれば『細菌? なによそれ。あたし病気じゃないわ』ってところだろうな」


「そんな人がいるってことは、細菌ってモノが少なくともこのメアリーさんには理解されていなかったってことですよね。最初に隔離されたのが1907年ですかあ。アラタさん。スペイン風邪の予防のためにアルコール消毒を徹底しようなんて主張が第一次世界大戦の時代に受け入れられますかねえ」


「別に受け入れられなくてもいいさ。というよりもそっちのほうが話が転がしやすい。『インフルエンザウイルス? なにそれ? そんなことより戦時特需でアメリカは好景気なんだ。酒場で踊ろうぜ』なんて言って三密状態でどんちゃん騒ぎしている連中を戦車で外出禁止にさせるんだ」


 21世紀の現在日本ですらパチンコ屋らバーベキューに繰り出す連中がいるんだ。民主主義の日本では外出禁止を強制できないし、そもそもひきこもりの俺にそんな武力はない。だが、フィクションならそれが可能だ。


「ココ・シャネルデザインの黒服に身を包んで黒旗をたなびかせる一団がシカゴの町を見回るんだな。逆らうやつには放水仕様にした戦車でエタノールをぶっかける。火だるまになりたくなかったらおうちに引っ込んでなと言う具合だ」


「それですよ、アラタさん。ココ・シャネルもヒトラーに協力的だったみたいですね」


「らしいな。なんでも共同経営者のユダヤ人を会社から追い出すためにナチスに賛同したとか。おお怖い」


 そんなココ・シャネルも第二次世界大戦後にはいろいろ非難されたらしいが……俺の世界戦ではココ・シャネルもアメリカでヒトラーと仲良く反禁酒運動に参加させるからそこまでは調べていられないな。


「そして、アラタさん。黒旗がシンボルですか」


「そうだ。国に禁酒法を押し付けられたルーシーたちの反政府運動としてのシンボルとしての黒旗だな。ナチスのカギ十字に代わるシンボルデザインとして何かないかと調べていたら黒旗なんてものを知ってな。黒ずくめの服を着たルーシー一同が黒旗を掲げるんだ」


「まるでガルパンの黒森峰女学園ですね」


 うるさいな。あっちもどう見たってナチスをモチーフにしているじゃないか。ナチスをモチーフにした戦車隊なんてものを作れば似たものになるのは当たり前だ。


「しかし、第一次世界大戦がユダヤの陰謀によって引き起こされたとは……」


「まあ、アメリカでヒトラーがユダヤ人にヘイトを集めるために言っていることだからな。史実の第二次世界大戦の時のヒトラーも『ヨーロッパ戦線でドイツが負けたのは、ユダヤ人が臆病風を吹かせたからだ』なんて言ってユダヤ人に対するヘイトスピーチをしていたんだからなあ。アメリカのヒトラーがアメリカのユダヤ財閥のロスチャイルド家なんかをたたこうと思ったらそうもなるだろうさ」


「で、アラタさん。この後どうするんですか」


 それはだな、かい子。いよいよいアメリカでオレンジやグレープフルーツの果実酒産業を展開させるんだ。史実では禁酒法によって壊滅したアメリカの酒造メーカーを俺がフィクションで発展させるんだ。


「まあ、続きは読んでのお楽しみってところだな」

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戦車館の殺人 @rakugohanakosan

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