第21話推敲・其の4
「アラタさん。フォードって自動車のフォードですか」
「そうだよ、かい子。史実ではナチスがドイツの実権を握ったときにはヒトラーとフォードは親密なお付き合いをしていたそうだ。ヒトラーはもちろん、フォードも相当なユダヤ人嫌いだったみたいだからな」
「ほう、そんなフォードが第一次世界大戦の時代にアメリカでヒトラーと出会ってユダヤ人の石油産業をぶっ潰すと。ユダヤ人の石油産業と言えばロックフェラー財閥が有名ですものねえ。そのユダヤ人とヒトラーやフォードがアメリカでやりあうんですか」
そうだ、かい子。第一次世界大戦でも第二次世界大戦でも本土に進行されなかったアメリカが、南北戦争以上の内乱で大混乱するんだ。世界の警察を気取っているアメリカ人に一泡吹かせてやる。
「しかし、アラタさん。フォードって人格者みたいに描かれていますよね。『奉仕を主とする事業は栄え、利得を主とする事業は衰える』なんてりっぱなセリフを言っていましたが。そんな人物でもユダヤ人を敵対視していたんですか」
「みたいだな、かい子。欧米系のユダヤ人に対するイメージは俺みたいな日本人にはピンとこないが好き勝手に書いてるが……『奉仕を主とする事業は栄え、利得を主とする事業は衰える』という言葉はフォードの名言として有名らしいが、そんなフォードが『ファンがアメリカ野球についての問題を知りたいなら、それは3語で表せる。"too much Jews"(ユダヤ人が多すぎる)だ』なんて言っているんだからなあ」
「なるほどお」
そんなフォードも第二次世界大戦後にナチスのユダヤ人虐殺が明らかになると、手のひらを返したみたいだがな。全くアメリカ人ってのは……強制収容所から生還したユダヤ人。しかし住んでいた家にはすでに別の住民が。そうだ、新天地アメリカに、なんてアメリカに移住しようとしたユダヤ人を船ごと追い返しておいて。
「しかし、アラタさん。無限軌道ってキャタピラのことですよね。なんで無限軌道なんて日本語をわざわざ使うんですか?」
「それはだな、かい子。キャタピラというのが商標なんだ。そのものずばり『キャタピラー社』って会社のな。そのキャタピラー社が設立されたのが1925年。『おうちで消毒液を作ろう』の時代設定よりも後の話だ。そういうわけだからキャタピラという言葉は使えないんだな」
「ほうほう。キャタピラの特許権うんぬんのくだりもありましたね」
特許権か。個人的には特許権も著作権みたいに尊重されるべきと考えているが……
「まあ、フォードを自動車会の発展のためにライン生産方式の特許を放棄したなんてのはやりすぎたかもな。キャラ設定のためとはいえ……基本的にこの話はユダヤ人を悪玉にしているから、どうしても『ユダヤ人は拝金主義で悪い! ルーシー陣営はモノづくりにまい進する誠実な人物!』なんてことになるからな」
「でも、そんなふうにあくどく表現されているユダヤ人ですが、アラタさんのお話ですと第二次世界大戦のナチスのユダヤ人虐殺は起こらないことになるんでしょう?」
「そりゃあな。肝心のヒトラーがアメリカに渡米しちゃったんだ。ヒトラーにはユダヤ人の成金であるロックフェラー財閥の石油事業を叩き潰す有能なスポークスマンになってもらう。ヒトラーの演説の才能は言うまでもないことだからな」
ヒトラーがビジネスマンに転生したら……なんてな。
「アラタさんってユダヤ人をどうしたいんですか? アウシュビッツでの虐殺から救い出したいんですか? 石油事業で暴利をむさぼる拝金主義のくそったれとして描きたいんですか?」
「いやあ、特には。日本生まれで日本育ちの俺にはユダヤ人がどうこう言われてもなあ。『ユダヤ人はフリーメイソンを結成して世界を裏から支配している』なんて与太話を笑い話として楽しんでいるくらいだ。しいていえば、日本人向けの作品で好き勝手使えるフリー素材ってところかな。ヒトラーみたいに」
「たしかにアラタさんの作品にユダヤ人から抗議が来たらまず笑いますけれど」
しかし、バンデミック騒ぎでイースト菌まで品切れになるなんてな。暇を持て余した人が自宅でパン作りをするためだなんて報道されているが……これでこっそりお酒の自家醸造を楽しんでいた人たちは困っているだろうな。
「しかしですねえ、アラタさん。禁酒法時代のアメリカでFBI相手に戦車がドンパチするんですか」
「そうだよ。アメリカの連邦制ってのは州の独立性が強くてな。黒人の大学への入学を禁じるのは違法だなんて連邦政府が決定しても、一部の南部の州がそれに反発して州兵と合衆国軍が大学構内で実銃持ってにらみあうなんて史実があるんだ。『禁酒法を定めた連邦政府。それに反発する一部の州。州兵と合衆国軍がアメリカ人同士で殺しあう』なんてことは十分あり得る話だからな」
「まあ、反アメリカ主義を掲げてる中東あたりのひとは喜びそうな展開ですけれど。あそこの人たちはユダヤ人には恨み骨髄でしょうし」
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