ドイツスズラン

増田朋美

ドイツスズラン

ドイツスズラン

その日、蘭は喜恵おじさんと買い物にでかけた。時々様子を見にやってくる喜恵おじさんは、蘭にとっては、ちょっとおせっかいと言えなくもなかった。確かに、喜恵おじさんの言うとおり、足が不自由な蘭は、いろんなところにできないことはあるけれど、それを手伝うために喜恵おじさんに来てもらうというのは、ありがたいと素直に言えない一面があった。

蘭が、喜恵おじさんに手伝ってもらいながら、ショッピングモール近くにあるバス停でバスをおろしてもらうと、ショッピングモールはえらい人混みで混雑していた。大売り出しをしている訳ではない。みんな、いつ外出禁止令が出るかわからないから、食料を大量に買いためて置こうという魂胆なのだ。まあ、そういう気持ちも、わからないわけではないけれど、その混雑ぶりは、恐ろしいと言ったほうがよく、みんな物々しい雰囲気で買い物をしていた。蘭は、喜恵おじさんとお昼を買いに来ただけであるが、これでは、そんなことはとてもできないという感じだった。

「これでは、とてもお昼なんか買えないな。どっか他のモールに行ってみるか。」

と喜恵おじさんは言う。

「それか、どっかのレストランで食べてくるとか。」

と、蘭が言ったが、個人レストランはほとんど営業していなかった。営業自粛の法ができてしまったからである。

「よし、他の店に行こう。」

と、喜恵おじさんが車椅子を押して歩き出した。まあ、確かに、食料品店は、歩いていけない距離ではないのだが、おじさんにこうしてもらうのは、蘭はなんだか申し訳ないというより、自分はなんて奴なんだろうと、嫌な気持ちになった。

しばらく住宅地の間を歩く。みんな自粛しているから、どの家も鍵を厳重にかけ、しっかり雨戸を閉めていた。そんなことをしたって、身を守ることはできないのにな、と、喜恵おじさんは、笑っていた。 丁度、住宅地はどこも昼飯時で、いろんな家から、さまざまな匂いがしてきたが、その中で、妙な匂いがするのを、蘭も喜恵おじさんも感じ取った。

「何の匂いだろう。」

「パンの匂いじゃないですかね。」

確かに、蘭の言う通り、パンの匂いではあるのだが、一般的に食べられているパンの匂いとはちょっと違うような気がする。

「この辺りで、パン屋さんなんてあっただろうかな?」

喜恵おじさんがそういった。確かに、この地区でパン屋さんが、新しくオープンしたというニュースは聞いたことがなかった。それに、こんなショッピングモールにちかい場所で、パンを欲しがる客は、みんなそっちに行ってしまうだろうに。そのうえ、この発疹熱の流行で、パンを欲しがる人なんているのかなあ、と、蘭は、不思議な思いを持ってしまった。

「匂いのするのはこの家か。」

と、喜恵おじさんが、ある一軒の家を指さした。一見すると普通の家であるが、その窓から、おいしそうなパンの匂いが、充満しているのだった。

「こんな時世のときに、パンなんか焼いてどうするんでしょうね。」

蘭は言ったが、喜恵おじさんは、

「いやいや、戦時中に水団をためておいたのと同じようなものさ。いいじゃないか、其れで。」

と、にこやかに笑うのだ。

「でも、こんな時に、パンを作って、一寸贅沢ですね。みんな、食品を買うために、ショッピングモールに大行列を作っているのに。贅沢は敵とは言わないけど、、、。」

と、蘭が言いかけると、その家の玄関のドアが、ガラッと開いて、

「贅沢で申し訳ございません。でも、必要な人がいるから、やっているのであって、決して不幸を作るとか、そういう事ではございませんから。」

と、一人の男性が、蘭と喜恵おじさんの前に現れた。その人が誰なのか、蘭もわかってしまった。それが、蘭もよく知っている顔であったし、その当時の彼であれば絶対こんなことはしないだろうと思われる人物だったので、蘭はびっくりしてしまう。

「あれれ、阿部君じゃないか!」

そう、その人物は、蘭と小学校時代同じクラスであった、阿部慎一君であったのである。

「ど、どうして、こんなところに、阿部君が、まさかパンを焼いているわけないよねえ、、、。」

と蘭は言ったが、その阿部君は、粉だらけの前掛けを蘭に見せた。と、いう事は、パンを作っていたのは、間違いなく阿部君だ。

「お前たち、知り合いだったのかね。」

喜恵おじさんがそういうと、

「い、いやですね、僕が、小学校の時に、一緒のクラスだったんです。名前は、えーと、」

「阿部慎一と申します。」

と、蘭が言うと、阿部君は、にこやかに言った。

「そうだったんだね。いやあ、外でいい匂いがしてきたので、思わずおいしそうだと言っていたんです。変わった匂いなので、思わず鼻についてしまいました。」

やっぱりさすが喜恵おじさんだ。そういう誉め言葉は、たくさんの語彙を知っている。

「しかし、パンの匂いと言っても、イースト菌の匂いとはちょっと違いますね。あれはいったいどうすれば、そういう匂いになるんですかな?」

喜恵おじさんが聞くと、

「ああ、其れはですね、僕は、ドイツのパンを中心に作っているんです。普通のパンであれば、白いパンですが、こちらのパンは、いわゆるライムギの黒パン。匂いがしたのは、イースト菌ではなく、サワータイクで発酵させているから、その匂いでしょう。」

と、阿部君はにこやかに答えた。

「ドイツのパン?ドイツでも今は、小麦の白パンを食べることが多いけどねえ。」

蘭はそれを聞いて、一寸考えてみる。ドイツで、何年か暮らしていたが、そこで出されたのも、白パンばかりだったような気がする。

「ドイツの黒パンね。良いじゃないか。それなら、あのショッピングモールで売っているパンと対抗できるね。まあ、うまいパンを作ってくれや。」

と、喜恵おじさんが言って、二人は、阿部君に軽く頭を下げて、帰ろうとしたが、その時にちょうど、車いすに乗った蘭の腹がでかい音でなった。

「あの、それなら、ちょっとお寄りになりません?」

と、阿部君はにこやかに言った。

「何か食べるものだったら、パンがいっぱいうちにありますし、まだまだ昔ばなししたりないし。」

「おう、そうか。」

阿部君に言われて、喜恵おじさんが言った。

「それでは、寄らせてもらおうかな。うまいパンを一つか二つ、食べさせてくださいな。」

喜恵おじさんは、そういって、蘭の車いすを方向転換させる。蘭は、自分の意思で足を動かせたらいいのにな、と、思わずには居られなかった。喜恵おじさんが、無理矢理自分を阿部君の家の中へ入れてしまう。蘭は、すみませんと言おうと思ったが、口が開く前に、パンの匂いが充満している家の中に入って、腹が更になった。

「どうぞ、こちらです。」

阿部君は、二人を、食堂にとおした。どうやら、靴は数足しか置いておらず、阿部君は一人で暮らしているらしい。しかし、食堂には椅子がたくさん並んでいるし、茶箪笥にはお皿が十枚近く入っている。台所には、ミトンや布巾などもたくさん置かれていた。一人で暮らしている割に、なんで食べ物のお皿だけはたくさんあるんだろうなと、蘭はびっくりしてしまう。そして、茶箪笥の下には、白や灰色の粉の入ったビニール袋が大量におかれていた。

「ちょっと、そこに座っていてください。すぐにパンを出しますよ。」

と、阿部君は冷蔵庫を開けた。いわゆる柔らかいパンではないから、冷蔵庫で保管しても、平気というのが、ライムギパンのいいところである。

「はいドウゾ、昨日作ったプンパニッケルです。」

阿部君は、お皿を一枚、蘭と喜恵おじさんの前に出した。

「プンパニッケルだって?あんな難しいパンをよく作ったな。」

蘭は驚いてしまったが、

「まあ、正確には、サワータイクではなくヨーグルトで代用したので、プンパニッケルとは言えないかも知れないんですけどね。」

と、阿部君は言った。

「とにかく、ほぼライムギだけを使ってあります。」

「まあ、難しい理屈は抜きだ。よし、食べよう。いただきます。」

喜恵おじさんがパンにかぶりついた。

「おう、もっちりしていて、おいしいじゃないか。ほら、食べてごらん。」

そう言われて、蘭は腹が減ってどうしようもない理由もあって、パンを口にした。そして、

「確かにうまいな。」

とつぶやく。

「他にもあるよ。こちらは、ロッゲンミッシュブロート、あと、ブロッチェンも。フォルコンブロート、メーアコンブロートもどうぞ。」

と、阿部君は冷蔵庫からたくさんのパンを取り出した。これでは、ドイツパン専門のパン屋さんに行って、パンを食べているようだった。

でも、どのパンも、ライムギ比重が多く、重くてがりがりしていて、食べにくいパンであった。確かに、白パンではなく、みんな茶色くて、黒パンと言うのにふさわしい。

「ペーター君のおばあさんが、黒パンが固くて食べれないと言っていたのがよくわかるよ。このパンは本当にかたいなあ。」

蘭は思わずそういってしまったが、そのパンは小さくても意外に重量感があり、一個食べると結構腹にたまるのも、特徴的であった。

「まあ、それは仕方ないじゃないか。黒パンというのはそういうもんだよ。僕が、子どものころ給食で食べたパンもこんな感じだった。懐かしいパンを食べているような気持ちになれて楽しかった。有難う。」

と、喜恵おじさんは、にこやかに笑っているが、そういうパンで育ってきた世代でないせいか、蘭はどうもまずいパンだなあとしか思えなかった。

「しかし、こんな一杯パンを作って、一体何をするつもりなんだい?」

蘭は、出されたお茶を飲みながら、そう阿部君に言った。

「ああ、実は理由がありましてね。昔は、成績が悪くて、何も頼りない生徒だったんだけど。」

と、阿部君は椅子に座って身の上話を始めた。確かに阿部君は蘭の知る限り優等生ではなかった。試験の成績だって、最下位から数えたほうが良いくらいだったし、体育の成績だって、足が速いとか、球技が得意とか、そういうことはなかった。言わば、メガネをかけていない、のび太君のような感じの生徒だった気がする。

「そうだよなあ。」

と、蘭は言った。

「そうなんですけどね。趣味で料理やパン作りは、ずっとやってたんですね。成績がよくない分、どこかに旅行に行ったりすることも少なかったから、料理をすることで、家の人たちに承認してもらっていたような感じで学生時代を送っておりました。高校も、レベルの低いところしか行けなかったし、実際、担任教師が、いつもやくざみたいに怒鳴っているような学校で、何も楽しくありませんでしたよ。其れで、僕はなんで生きているんだろうなって、良く思いました。」

「確かに、そうだよなあ。成績がよくないという事は、今は本当にすごい劣等感になっちゃうからねエ。それを補う特技をつけようとしても、成績のせいで帳消しになっちゃうし。」

喜恵おじさんは、にこやかにそう言っている。やっぱりさすが喜恵おじさんだ。そういうところは変に驚いたりしない。

「其れで、君は、いつも成績が悪いことで、生きているっていう気がしなかったんだね。」

「そうなんですよ。それで食べ物だけが生きがいみたいなところがありましてね。僕は、高校を出て、定職にはつけなかったので、しかたなく家でパンを作ったり、パスタを作ったりして。あの、フリマアプリで、パン捏ね機を買って、毎日のように作ってましたよ。幸い粉さえあれば、パンは作れますしね、少ない小遣いは、粉に変わってしまったんですよ。まあ、それ以外に使い道があるわけじゃないから、よかったんですけど。」

と、阿部君は、喜恵おじさんの話に、そう答えを出した。

「で、どうしてライムギのパンにこだわるようになったの?」

喜恵おじさんがそう聞くと、

「ええ、それもたまたまなんですよ。たまたまライムギのパンを作ったところ、家族が親戚に食べさせちゃったんですね。その、親戚の子供さんが、小麦にアレルギーがあって、食べられないという事情があったので、彼女に食べさせたところ、彼女は、自分もパンが食べられると言って大喜びしたそうです。」

と、阿部君は答えた。

「其れでライムギパンにこだわるようになったのか。」

「そうです。そうしたら、そのライムギパンを食べた親戚が、とてもおしゃべりな方で、ほかにも、小麦にアレルギーのあるお子さんのおかあさんに、話してしまったらしくて、家にも作ってくれと電話が来るようになりまして。其れで、仕舞には、家でも作ってみたいという人まで出て来ましてね。其れで、ライムギパンの教室まで始めたんです。」

「教室をやっているの?」

と、蘭は聞いた。

「でも、今は、大変な世の中で生徒さんは来ないのでは?」

「ええ、動画サイトに投稿したりして、其れで凌いでいます。でも、生徒さんのほとんどはライムギではないと、パンを食べられない人ばかりなので、みんな動画を見て、謝礼をくれるので。」

「なるほど。素晴らしいじゃないか。それではぜひ、パン教室を続けてくれよ。昔は、黒パンが嫌だという人が多かったけれど、今はそういう事情で、白パンは食べられないという人もいるんだね。ペーターのおばあさんの主張とは、まるで真逆だが、まあ、それも時代の流だから、仕方ないか。今は、本当に何でもありの時代なんだなあ。」

と、喜恵おじさんは、蘭の話にそういうことを言った。確かに、ペーターのおばあさんのいた時代は、ライムギパンと言うと、貧しい人の象徴みたいな食べ物であったが、今はその逆のようなところがある。貧しい人のパンは、健康食品として、体にいい食料になっているのだ。

「パンばかりじゃありません。パスタの手作りも教えているんですよ。パスタと言っても、米粉で作るから、パスタとは言えないといわれたこともあったけど、必要な人はいるわけですから、教えていきたいなと思っているんです。」

「パンとパスタか。いわば、社会的に弱い人のための、料理教室を開いたんだな。それでは、成績が悪くても、ちゃんと社会に役に立っているんだから、そんな事、きにすることはないよ。」

と、喜恵おじさんは、にこやかに笑って、その黒パンをもぐもぐ噛んだ。蘭は、同じようにパンを食べるが、ヤッパリおいしいと感じられない。喜恵おじさんは、パンの名前を聞いて、その解説を彼に求めた。阿部君が、にこやかに笑って、ドイツの田舎パンの事や、サワータイクの事を話している。その阿部君は、蘭が知っている限りの阿部君ではないような気がした。蘭の知っている阿部君は、成績が悪くて、弱弱しいタイプの男だった。でも、今の阿部君は、ちゃんと役に立っている人間として、地面に立っているような気がする。

「詳しいねえ、慎一君は。僕なんて、パンの特徴なんてすぐに忘れてしまうくらいだ。もう、どんなパンなのかすぐに忘れている。」

喜恵おじさんは、がりがりと頭をかじった。その時、蘭は、ある考えが浮かんだ。

「なあ、阿部君、君は立派だよ。こうして、社会の弱い人に親切にパンを作っているんだから。僕なんて、何の役にも立っていない。お客さんが来なければ、刺青師なんて、何の役にも立たないのに。そんな僕より、君は、よほど素晴らしいことをやっている。」

「いいや、伊能君だって、美大を出て、修士号迄とったんだから。そのほうがよほど偉いじゃないか。

僕は、高校までしか出ていないんだから、そのほうがよほど素晴らしいよ。」

と、阿部君はにこやかに言った。蘭は、慎重な表情で、次の言葉を切り出した。

「其れより、喜恵おじさんもいることだから、君の素晴らしいライムギパンのレシピを書いて、本として出版しないか。そのほうが、もっと大勢の人がその本を取って、アレルギーのある家族にパンを作ってやることができるかも知れないじゃないか。」

「そいつは出来ないな、伊能君。」

と、阿部君は、しずかに言った。

「なんでだい?こんな素晴らしいこと、阿部君は、広めてあげたくないのかい?」

「まあ、そういう事かも知れないけど、本にしてしまったら、商売になってしまう。其れはどうしてもやりたくないんだ。それより、本当に困っている人たちに、教えてあげることが、一番だと思うから、そういうことはしたくない。」

阿部君はきっぱりと言った。

「でも、まだ見えない人との新しいきっかけを与えてくれるのは、本であるかも知れないよ。」

蘭がもう一回言うと、

「そうだね、そういう事もあるかもしれないというのは認めるよ。でも、僕は、ヤッパリ生身の人間と一対一で話すのが一番いいかな。本や、ホームページなんかだと、本当に話しているのか、必要なのかわからないじゃないか。それに、本当に必要なのは、相手の方が、パンを食べられる喜びなのであって、お金儲けは二の次だよ。」

と、阿部君はそういった。その顔は、にこやかな顔をしているというだけではなく、なにか、しずかで、威厳のあるようなモノも感じられた。

「すごいなあ。お金儲けは二の次か。そんなすごいことを言えるなんて、君は偉いよ。若いのに、きっとたいへんなことを乗り越えてこられたから、そういうことを言えるんだ。君の気持で、政治家が商売してくれれば、もうちょっと日本は平和になってくれるんじゃないか。」

喜恵おじさんが、そんなおかしな冗談を言った。

「確かに今は変な人ばっかり政治家になっている、、、。でも、それとは関係ないよ、阿部君。お金を儲けようというのは悪いことじゃない。特技を生かしてお金を儲けるというのは、働く立派な動機だし、、、。」

蘭はそういうが、阿部君は蘭ににこやかに笑った。

「いいや、何も求めないで、誰かを幸せにするってことが、一番大事なんじゃないのかな。それを生きがいにしてもいいと思う。」

「偉いぞ。慎一君だっけ、最近物忘れがひどくて困るよ。まあ、頑張ってやってみてくれ。きっとそのくらいの気持ちがあれば、君は頑張れる。」

喜恵おじさんは、阿部君にそう語り掛けた。何だか、喜恵おじさんのような職業についている人にしか、わからないことがあるのかも知れなかった。喜恵おじさんと、阿部君は、二人で分かっているらしいが、蘭はどうしてもわからない。口で言ってもこういうことは、わからないだろうな、と思われることである。

「そうですか。だけどねエ、看板も何も出さないで教室やるのは、なんだか不自然だ。何か、教室名を書いてもらいたい。其れは僕としてのお願いだ。お願いを聞いてもらえないだろうか?」

蘭は、それを知りたいのを我慢しながら、そういうお願いをした。

「うん、確かに、それはいえてるね。何か教室名を作ることは大切だ。其れは作ったほうがいいね。何かすきな言葉とか、そういうモノはないかなあ。」

喜恵おじさんにも其れは通じたらしくそう言ってくれた。おじさんがそう言ってくれるなら、蘭も、そのあと押しに回った方がいいと思った。

「なんでもいいよ。英単語でもなんでも、すきなものを言ってみてくれ。」

「いやあ、僕は、伊能君みたいに学力があるわけじゃないよ。だから、英単語も何も思いつかない。」

と、阿部君はそういっている。テーブルの上に、小さな花瓶があった。そこにドイツスズランの花が挿されている。

「すきな花ならあるんですが、、、。」

と、阿部君は言った。蘭が、その花の名前を言ってみてくれと言うと、阿部君は、ドイツスズランと言った。

「よし、そうしような。パン教室ドイツスズラン。これで、看板を出してくれ。」

蘭が、もう一回言うと、阿部君は、しずかに頷いた。



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ドイツスズラン 増田朋美 @masubuchi4996

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