第5話 救出
「お前はオレ様のペットにしてやるぜ!」
【魔法結界】を展開したルナの前に、山賊の頭ザコンがハルバードを振り下ろす。
腕力にものを言わせたその強烈な一撃は、ルナの張った障壁を砕き割った。
「ん? 今のは魔法か? 一瞬刃が止まった気がしたんだが」
(な、なんて攻撃、破壊力なの。【魔法結界】を展開していなかったら危なかったわ)
大きく後退したルナは、さっきまで自分がいた場所を見る。
そこはひび割れ、ハルバードの刃が埋まっていた。
あれをまともにくらっていれば、自分は砕かれていただろうと気を引き締める。
「【
出し惜しみはしていられない。
すかさず魔法を使い、身体強化と風を纏ったルナは、今度は遅れを取るまいと自分から攻めに出る。
一段階速くなったルナの攻撃。しかしザコンはそれでも追いついていた。
「随分と、巨体なわりには速いのね」
「こんな荒業をやってると、どうしようもなく、強くなっちまう!」
「はあああっ!」
ガキンッ!!!
と両者の獲物がぶつかり合い、火花を散らす。
「くっ……」
「ぬっ……」
ルナは腕に、ザコンは肩口に異変を感じ、お互いすぐさま距離を取った。
ザコンには肩に斬撃の跡が--
ルナは細剣を左手に持ち替え、右手をぷらぷらと動かしている。
(こいつの攻撃重すぎよ。なんてバカ力なのかしら)
(……衝撃波? ヤツの魔法か? あの風か?)
お互いに牽制し合う中、先に動いたのはザコンだった。
生まれつきの悪そうな顔を、さらに歪めてルナに迫る。
その顔にあるのは--確信。勝利の笑みが浮かんでいるようにも見えた。
「衝撃を風に変え、相手にダメージを与える魔法。しかし、オレ様はその程度の傷など気にも留めん! キィィィヤアァァァッ!!!!」
渾身の振り。その攻撃は、今日一番の力のこもった一撃だろう。
対してルナは、目を閉じ魔力を増幅させていた。周囲には高密度の魔力でできた、白い煙がつむじ風のように舞う。
「悪いけど、あんたの推測は間違いよ」
「なに!?」
「衝撃波を斬撃に変換してるわけじゃないわ--斬撃を、変えてるのよ! 【
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁっ……!」
天上に向かう斬撃の嵐。
ザコンのハルバードは幾千もの斬撃に斬り刻まれ、ザコン本人は、その威力で空の彼方へと消えていった--
「く、くそっ! あのアマ、キツく縛りやがって! 今度会ったら泣き叫ぶまで--いや、泣き喚いたとしても、痛い目に合わせてやる!」
そんな物騒な発言をしたのは、ルナに手も足も出ず、コテンパンにされたザコンの部下。
彼は武器の類を全て没収され、挙げ句、ロープで木に縛られていた。
「ちくしょう、やっぱナイフがないとロープが切れねぇ。--くそがぁっ!」
なんとか頑張ってロープを解こうともがく、彼の頭上が突如暗くなる。
視界に映るのは、人。人が降って飛んでくる。
そしてその人は、自分のよく知る--
「えっ!? お、おかしら--」
ゴチンッ!!!!!!!!
二人のぶつかる音が、静かな森の中に響いた。
一方、ルナがザコンと激闘を繰り広げていた頃、先行したはずのソルは--
「ちっ、まさか、こんな、数の、モンスターに、出くわすとは、な!」
緑色な小鬼。
ゴブリンと呼ばれる魔物の集団に、出くわしていた。
「くそっ、魔物、相手は、苦手だって、言ってん、だろ!」
愛刀を振り回し、確実に小鬼共を狩っていく。
返り血を浴びながら、なんとか頑張ってくれている愛刀を見る。
(くそっ、血で斬れ味が落ちてきた。これだから魔物は嫌なんだ!)
今回ソルが拠点を離れてこの町に来たのは、ある賞金首を捕まえるためだった。
本来ならば、このような小鬼集団は専門のハンター。ゴブリンスレイヤーなんかに任せるため、ギルドに戻り情報提供をするのだが……
「いや! こ、こないで! あっちにいってよ!」
「「「グギャギャギャ!!」」」
「あと少し!」
奥には一人の女性がいた。しかもその女性は、あの少女から聞き出した特徴と一致する女だ。
たった数分話しただけの、幼い少女との約束を守るため、ソルは小鬼の集団に突撃した。
そして--
「よし……おい! 走れ! こっちに来い!」
「は、はい!」
なんとか首の皮一枚で粘っていた少女は、救出に来たソルと共に駆け出した。
報酬0rg、少女の姉救出依頼は、無事に達成された。
「あっ、捕縛しないといけないんだった」
ザコンを飛ばした私は、はっと我にかえった。
「でもロープはアイツの部下に使っちゃったし……あっ、アイツらのアジトにないかしら?」
女を捕まえていたって言ってたから、絶対あるはずよね!
そうと決まればさっそく頂きましょう。
私は奴らのアジトに入り、ロープがないか探す。
アジトの中は……うん、語らないほうが優しいわね。
「頭なら部下の命くらい守りなさいって話よ」
ロープを見つけた私は、最後に手を合わせて外に出る。
これであとは、あの子のお姉さんを探すだけね。
そんな軽い気持ちで外に出た瞬間--まるで時が止まったかのような、不思議な感覚に陥り、同時に背筋が凍った。
とても速いスピードで、こちらに迫る何かと殺気。
あの頭とは、比べ物にならないほど強烈な殺気が、私に襲いかかる。
「くっ!」
--ガキーーーンッ!!!!
咄嗟に細剣でガードした私の目の前には、あの大食い大会に出場していた黒髪のハンターが、刀を抜いて立っていた。
その目はまるで、獲物を捕らえた肉食獣のそれだった。
ハンターs'〜賞金稼ぎたち〜 きりうえほう @cfgo6467
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