第4話 vs賊
「しまった……」
私は森に入ったあと、猛烈に後悔していた。
というのも……
「あの子のお姉さんのこと、聞くの忘れた……。そういえば、あの子の名前も聞いてない」
今私の持っている情報は、私と一緒の目的で森に入った黒髪のハンターだけ。
でも、黒い髪も結構たくさんいるからその人がどういった人かわからない。
男か女かだけでも聞いておくんだった。
今から戻って聞き出すのもカッコ悪いし、もうやるしかないわね。
私の魔法なら、人を探すくらい簡単よ。
「【
自信の魔力を波のように伝え、半径十メートル以内のモノを特定する魔法。
でも……
「人らしきものはかからないか」
進むしかないわね。
あの子の姉を見つけるため、私はさらに森の奥へと入っていった。
そして遂に、人の反応を捉えた--
太陽が昇っているのにもかかわらず、森の中は少し薄暗く、どこか異質な雰囲気を醸し出していた。
そんな森の中をまるで家の庭であるかのように、太い木の枝に座り、頭の後ろに手を組みながら幹に寄りかかっている男が……
「ふぁ〜、まったくとんだ災難だ」
欠伸をしながら空を見上げていた。
腰には短剣。胸元には細い筒のような物が隠してある。
彼は、山賊だ。
災難というのは今朝のこと、昨日の夕方頃捕まえたハンターの女が、アジトから自力で脱走していたのだ。
毒で動けなくしておいたはずなのに、とは彼の部下が最後に口にした言葉だった。
残念ながらその部下たちは
と、今朝の出来事を回想していた彼の視界に、一人の女が写り込む。
黄色い髪を腰まで伸ばし、胸の大きさも申し分ない女だ。
「へ〜、中々の上玉じゃねぇか」
女の腰にあるのは
スピード型の剣士と判断した彼は、胸元にあった細い筒--吹き矢を取り出し、口元で構えた。
「お頭の機嫌もこれで治るな。ついでに俺もすっきりさせてもらおうか」
毒の付いた針を装填し、発射した時、賊の男がニヒッと笑った。
「さて、話してもらおうかしら? どうして私を攻撃したのか。なんで毒針の吹き矢を持っているのか諸々ね」
「な、何が……」
起こった?
こちらを見下すのは、自分が攻撃した獲物。
毒で動けなくなった目の前の女を、アジトへ連れ帰る。
そういうシナリオになるはずだったのに……。
動けなくなっているのは、自分だった。
--この反応は……なぜそんなところに?
【探索】の魔法で木の上にいる人の反応を捉えた私は、慎重に歩を進めその人物の視界に入った。
そいつは何かを取り出すと、こちらに構えを向けて--はっ!
「【
小さい矢が魔力障壁に阻まれ、寸前で刺されるのを逃れた。
「【
魔法で自身を強化。
そして--
「
魔法を重ねがけし、強化した突きで木の上から落ちてきたのは、気絶した男だった--
「あそこがアジトね。たしかに、見張りはいないみたい」
木の上から落ちてきた男から、諸々の事情を聞き出した私は、情報通りにアジトを見つけた。
しかし、あの男の言うことが本当なら、この山賊団の頭はバカなのだろうか。
捕らえた女がいなくて嘘を付いたという理由で部下を殺すなんて。
とりあえず、そんな酷い人には大人しくお縄についてもらいましょう。
にしてもこのアジト……
「どう見てもただの小屋じゃない」
なんて粗末な作りなのかしら。
壁には穴があいていて、遠目に見てもボロいとわかる。
今の時季は涼しいかもしれないけど、冬になったら寒いだけよね。
と、小屋を観察していると……
『パリンッ!』
と中からガラスが割れる音が聞こえた。
そしてその直後、
「てめぇ、今なんつった? オレ様のどこか短気バカって? あ゛ぁ!!」
野太い男の怒鳴り声が聞こえた。
「ア、アニキの帰りが遅いからってあんまりだ!」
「んだとてめぇ、新入りの癖にこのオレ様に説教しようってのか? 良い度胸じゃねぇか! 元はと言えば、おめぇらがオレ様に嘘の報告をするからだろうが!!!」
会話の内容から察するに、喧嘩ね。
アニキって、もしかして私が倒したアイツかしら?
喧嘩は怒鳴り声では止まらず、次第に金属を叩き合う音が聞こえ出した。
そして、小屋の壁を粉砕し、賊の一人がこちらに……って!
「きゃあっ!!」
ズゴーン!
と、飛んできた賊は木に激突し、そのまま意識を手放した。
「あぁ? はっ、んだよ。いんじゃねぇか、女」
埃と土煙が舞う中、現れたのは2メートルもの大男。
手には大きな槍斧、ハルバードが握られていた。
空気を鎮まり返すような、大きな気迫。
つまり、こいつが……
「あんたが
「ああ、オレ様がこの山賊団の頭“ザコン”だ。まぁもっとも、たった今この山賊団はオレ様一人になったがな」
細剣を抜き、【
「そしてお前は--オレ様のペットにしてやるぜ!」
直後、私の目の前には、ハルバードを掲げたザコンが迫っていた。
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