第3話 初心者
役所。
いくつもの連盟が連なりできた、一つの巨大な組織。
大きな建物の中に入れば、多くの窓口があり、そこで各種様々な手続きが可能となっている。
もちろん私も、ここでハンターの登録を--
ということはなく、小さい頃に作ってもらったハンターの
本来ならこれには本名や住所が記載されていて使えないけれど、私の……というか私の家族は特別に、もう一枚カードを作っている。
なので、ハンター協会の依頼は特にこれといった問題もなく受けることができる。
「しばらくこっちのカードは封印ね」
胸のポケットにしまいながら、家族のことを思い出した。
みんな、どうしてるかしら?
私のこと、探しているかしら?
どことなく覚えた寂しさを振り払うように頭を左右に振り、もう一枚のカードを見る。
ギルドカードに記載された名前はルナ。
それは、私の大好きな話に出てくるヒロイン。
ハンターの祖リオスが惚れ、妻とした女性の名前。
「……顔が熱いわ」
これって書いた時が子供の頃だったからしょうがないといえばしょうがないけど、私って物語に入り込むタイプだったのね。
『--私! 将来はリオスみたいな人を支える奥さんになりたい!』
ぷしゅー……。
ああ……どこか奥底に封じていた記憶が蘇ってきてる。
忘れよう。忘れましょう。
というかもう開き直りましょう。
どこか例えようのない恥ずかしい気持ちを払うように、私は依頼の紙が貼られた大きな掲示板の前に立った。
何か冒険ができそうな依頼はないかなぁと眺めていると、
「そういや聞いたか? この町に
「魂喰い? なんでまたそんな大者が? 本拠地はここから随分離れた所だろ?」
隣にいるハンターたちが、そんな会話をしていた。
「さぁな。ま、大方ギルドからの指名依頼かなんかだろ。名のある賞金首でも近くに逃げ込んだかね?」
「あんなバケモンに目ぇつけられちゃたまったもんじゃねぇ。命がいくつあっても足りねぇな」
「ははは、違ぇねぇ。噂じゃ全焼した宿から無傷で生還したとか。山を一つ消しとばしたとか」
「俺が聞いたのは、巨大イノシシの骨まで食っちまうっていうのだったぞ」
それはもう人間じゃないわね。
人の皮を被った何かよ。
あっ、だからバケモノとか畏怖されてるわけね。
ハンターたちの会話に納得し、ファングボアの討伐と書かれた依頼用紙を取ってハンター協会の窓口へ向かう。
「すみません、この依頼を受けます」
「はい。……これでよし、気をつけていってらっしゃい」
依頼の受理をしてもらい、役所を出ると警官がいて--
「えっ!?」
「ん? どうかしたかいお嬢さん?」
「あ、い、いえ! なんでもないです! え〜と、何かあったんですか?」
恐る恐る聞く私に警官は、
「ああ、ちょっと仕事でね。では」
と言って役所の中に入っていった。
「お気をつけて〜……あ〜びっくりした。捕まえに来たのかと思ったじゃない。タイミングが悪いわね」
バクバク鳴る心臓を落ち着けるため深呼吸をし、正門に向かって歩き出す。
その途中、門の付近には、十歳くらいの少女が紙袋を持ってウロウロしていた。
この時間、子供たちは各町の小学校に行ってるはずなんだけど……
とりあえず、声をかけてみましょうか。
「ねぇ貴女、こんな所で何してるの?」
今日はよく声をかけられる。
きっと、私がまた門の近くでウロウロしていたからだ。
警察官さんからは心配しないで学校に行きなさいって言われたけど、無理だった。
「貴女一人? お母さんとお父さんは? 学校はどうしたの?」
この人も、あの黒髪のハンターさんみたいに優しい人なのかな?
私は食べてもいいともらった串焼き肉の入った紙袋を握りしめた。
「お父さんはいない。お母さんは、風邪で寝てる」
「そうなの……。……誰かを待ってるの?」
「お姉ちゃん。……と、黒髪のハンターさん。その人は、お姉ちゃんを探してくれるって」
私は森の方を指差した。
「そうなの……じゃあ、私も探してあげるわ、貴女のお姉ちゃん!」
「ホント!?」
「ええ、一人で探すより、二人で探した方がいいもの。その方がきっと早く見つかるわ」
そう言って、黄髪のお姉ちゃんは町の外に走っていった。
……あれ?
私のお姉ちゃんのこと、言わなくてよかったのかな?
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