第14話 エピローグ~20年後のキミたち~

 ヨミルの森。植物系、昆虫系、獣系モンスターはもちろんのこと、アンデッド系のモンスターもいる非常に危険な場所だ。そこを視察する一つの騎士団があった。


 聖十字騎士団の一番隊隊長オリヴィア。二番隊隊長セシリア。三番隊隊長アニータ。彼女たちが自身の隊を率いて、この森を探索しているのだ。


「隊員に告ぐ! 決して隊列を乱すな。私の指示に従え。この森は危険な場所だ! 規律を乱した者から死ぬと思え。生きて帰りたいなら私の命令は絶対だ。いいな?」


 一番隊隊長のオリヴィアは隊員にそう告げた。彼女の力強い言葉で隊員は励まされた。この人の指示に従っていれば安心だと不思議とそう思えてくる。


「私たちも一番隊には負けてられないわね。規律の正しさで言えば、二番隊の方が上だということを見せてあげましょう」


 セシリアも部下に規律を求めた。セシリアは隊員の命を預かっているという責任を大きく感じている。正直言えば不安の方が大きい。けれど、それをおくびにも出さない。自分の不安が部下に伝われば、部下も不安な気持ちにさせてしまうであろう。それだけは避けたかった。


「私たちなら全員生きて帰れます。どんな危険な場所でも、必ず私がみんなを守ってみせます。だから安心してくださいね」


 女神のような慈愛の微笑みをアニータは部下へと見せた。アニータは、オリヴィアやセシリアに比べたら頼りになるタイプとは言えない。けれど、この優し気な微笑みがあるから、隊員は彼女のために命を懸けて戦えるのだ。


 前方の茂みからガサガサという音が聞こえた。何者かの気配を感じる。これは恐らくモンスターであろうとオリヴィアは判断した。


「総員! 戦闘配置につけ! 二番隊、三番隊との連携を取るぞ」


 オリヴィアの指示を受けて一番隊は戦闘準備を始める。それと同時に、茂みから二足歩行の狼、ウェアウルフが飛び出てきた。


 一番隊に一瞬遅れること、二番隊、三番隊も戦闘準備を始める。先頭の一番隊のメンバーとウェアウルフがぶつかりあう。


「ウェアウルフの動きは素早い。翻弄されるな。動きをよく見極めれば勝てない相手ではない!」


 オリヴィアの助言で一番隊の動きが格段に良くなった。ウェアウルフとの攻防は聖十字騎士団の方に分がある。


「オリヴィアの言う通りね。二番隊! 一番隊の援護をして」


「三番隊! 背後の警戒を。殿しんがりは任せて」


 セシリアもアニータもそれぞれ自分の隊に指示を出す。その指示は的確なもので、ウェアウルフとの戦いの戦力を増強するのと同時に、万一の時に備えて、背後を警戒して挟み撃ちになるのを防ぐ。


 事実、背後からもモンスターの気配はった。背後からは昆虫族モンスターのキラーマンティスがいた。大鎌を持ったカマキリ型のモンスターで、非常に凶暴だ。ただ、獲物を狙う時は不意打ちで狙うことが多く、警戒している相手には手を出そうとはいない。


 もし、アニータの指示がなかったら。ウェアウルフとの戦いに全戦力を注いでいたら、キラーマンティスにやられていたであろう。


 ウェアウルフとの戦闘を終えた聖十字騎士団たち。四方八方を警戒しつつまた前へと進んでいく。


 20年前に女騎士育成幼稚園ジャンヌ・ダルクを卒園した3人の女騎士。彼女たちは立派な女騎士へと成長して自分のやるべきことをやっている。


 モンスターにやられて、堕ちることもない。悪漢や盗賊に襲われて、くっころな目に合うこともない。実力と気高さを兼ねそろえた本物の誇り高い女騎士になったのだ。


「オリヴィア、アニータ。そろそろ日が暮れてきたわ。ここら辺でキャンプにしましょう」


「そうだな。セシリアの言う通りにするぞ。各員、キャンプの準備をしろ」


 オリヴィアは自分の隊にテキパキと指示を出して、キャンプの準備を進めた。


「みな様お疲れさまでした。ここまで犠牲者なくよくがんばって来れました。でも、まだ油断は禁物です。夜になるとモンスターも凶暴化します。きちんと見張りを立てて、全滅することがないように交代で休みましょう」


 アニータは隊員に労いの言葉をかける。その一言で隊員は今日一日がんばってきて報われたと感じたのだ。



 食事も終わり、簡易式のテントも張り終えて寝る準備をする騎士団たち。多くの団員がテントの中で寝る中、オリヴィアと新人女騎士のエミリアが見張りをすることになった。


「オリヴィア隊長。お疲れ様です! 一緒に見張りがんばりましょう!」


「ああ。しっかり頼むぞ」


「オリヴィア隊長はクールで強くて、本当に憧れの存在です! 自分、オリヴィア隊長と一緒に仕事ができて幸せです」


「そ、そうか。全く……こんな可愛げのない女騎士を好くなんて物好きもいたものだな」


 口ではそう言っているが、オリヴィアの表情は崩れている。内心では思いっきりデレデレしている。


「ところで、オリヴィア隊長。貴女は確か、ジャンヌ・ダルク幼稚園出身でしたよね?」


「ああ。そうだ。私だけじゃないぞ。セシリアもアニータも同園出身だ」


 オリヴィアはジャンヌ・ダルク幼稚園という言葉を聞いて、懐かしい気持ちになった。あそこでの毎日は本当に楽しかった。まだ無邪気だったあの頃、自分はジョルジュ先生を困らせてばかりいたなと思った。先生は今頃なにしているんだろう……シャルロッテ先生はちゃんと結婚できたのかな? と色々なことに思考を巡らせていた。


「ええ。実は自分もジャンヌ・ダルク出身だったんです」


「おお、そうなのか。じゃあ私の後輩だな」


「はい。ジョルジュ先生は、いつもオリヴィア隊長、セシリア殿、アニータ殿のお話ばかりされてました。よっぽど気に入られていたんですね」


「ジョルジュ先生か……懐かしいな」


 オリヴィアもジョルジュ先生には何度も世話になっている。その先生に気に入られていると知って少し嬉しく思えた。


「特にオリヴィア隊長の話のことが好きでした。なんでも、オリヴィア隊長は先生を困らせてばかりいたとか」


「あはは。昔の話だ」


「幼稚園児だった頃は、具体的にどう困らせていたのか教えてくれなかったんですけど、最近偶然街でジョルジュ先生に会ったんですよ。その時にオリヴィア隊長の真実を聞かされましてね」


「なんだと!?」


 オリヴィアの表情が曇る。まさか、自分の過去の黒歴史が掘り起こされてしまうのでは、と危惧した。そして、その予感は的中することになる。


「なんでも、オリヴィア隊長は家族の影響で、とんでもないオマセな幼稚園児だったじゃないですか。くっころとか言って先生を困らせたり、ひぎいぃぃとか鳴いてみたりしたじゃないですか。あのクールな隊長が昔、そんなことしてたなんて面白くて面白くて」


 オリヴィアの顔が真っ赤になる。自分の知られたくない過去を話したジョルジュ先生を恨めしく思う。自分は新人騎士たちの憧れの存在だったはずなのに、顔に泥を塗られた。恥ずかしい、情けない、消えてしまいたい、いっそ死にたい。そういう感情を一言で表した。


「くっ殺せ……!」

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女騎士幼稚園 下垣 @vasita

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