第13話 仕事ぶり
毎日新しい発見の連続だった。
まず始めは自分がどんなタイプなのかを調べていった。どういう作業が向いているのかや、どんな流れの方がやりやすいのかなど分析してもらった。様々なやり方を教えてもらい、自分がしっくりくるものを探していく。今まではどんな作業にしても、1つのやり方しか知らなかったし、そのやり方以外はしてはいけないと思っていた。特に今回の場合は、前の職場ではこういった作業はなかったし、教育係がやっていた方法しか知らなかった。また他の人が作業することはなかったので、他の人のやり方を学ぶ機会がなかった。
中途は朝、昼、晩と一度ずつ、始めは付きっきりのような状態で改善点を教えてくれたり、工夫の仕方や他のやり方なども実践してくれた。しかし後半になってくると自分でも工夫の仕方が分かり、やりやすいやり方を考えられるようになっていたので、文字通り、様子を見にきた。
やりやすさを重視して仕事をしていくと、自分以外のこのタイプの人ならこんな配置だったらやりやすいだろうな、この方法だとコツを掴みやすいだろうなということも思いつくようになってきた。そしてふと、一番最初に自分が作業していた頃を思い出す。そういえば前任はあの教育係だったのではないか?左利き用にものが配置されていたし、教えてもらった時もスムーズだった気がする。その教育係をよく観察してみると左利きだった。わざわざ前任でしたかなんて聞くことはしないが。そんな時間を取るのも惜しいくらい、毎日が楽しいと感じられるようになった。後半になってくると、自分で物の配置を変え、やりやすい工程も覚え、効率はグンと上がっていた。周りからの視線も気にならなくなっていた。朝も早く出てくることはなく、定時で来て、みんなが定時で帰れるような状態にまでなった。憂鬱だった帰り道も晴れやかな気持ちで帰ることができた。
こんなに清々しい夕日を経験したことがあっただろうか・・・。
そして一週間経った。
結果が言い渡される日だ。
中途の人がフロアに入ってきた。
「はーい。それでは結果を発表しますね。」
資料をチラッと一瞥した。
固唾を飲む。自信はある。働き始めてこんなに緊張し、そして、結果に期待している自分がいただろうか。気付いたら同じフロアの人の目線がこちらに向けられていることに気づいた。
「・・・うん。売り上げもまだ一週間だから大きく変動はないけれど、ちゃんと上がってますね。退勤状況を見ても、職場環境が改善されたことは目に見えてますね。はい!じゃーマニュアル書き換えお願いしますね。」
と教育係に伝えると中途はフロアを出て行った。
「あ・・・」
思うことがあり、フロアを出たところで中途に声をかける。
「あの、マニュアル作り、任せてもらえませんか?」
「ん?だって仕事増えるよ?今早く帰れてるじゃない。」
「長くここの仕事をしていたおかげで、どんなタイプの人がどんな風にすれば効率が良くなるのかわかったんです。自分みたいな人を今後出したくなくて・・・」
「そうですねぇ。なら、いろんなやり方を書いてくれますか?大きく3つくらいでまとめてもらって。自分で工夫することも大切なので、あまりヒントを与えすぎるのもよくないと思うので。できたらこっちに持ってきてください。」
「ありがとうございます!」
急いで自分の持ち場に戻る。
俯気がちに。体がわなわなしてくる。肩甲骨と肩甲骨の間というか、腰から少し上というか、その辺りからぞわぞわ頭の先まで上がってくる。必死に耐えようとするが体全身が、嬉しさを表現したくて仕方がないと言わんばかりだ。せめて表情を出さないように俯いたが、顔がにやけるのがわかる。そして体同様止められなかった。
仕事でこんなに達成感を感じたことがあったろうか、仕事の楽しさを感じたことがあったろうか。思いっきり飛び跳ねたいところだか、必死で抑えて、みんなに見えないように小さくガッツポーズをした。
周りがどんな反応をしたのかはわからなかった。だが、痛い視線は感じなかった。みんな許してくれたと信じよう。まだ仲間に入れてもらえないとは思うが。
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