第3話  どうしよう

 おそらくいつも通り歩いてきたはずだ。振り返っても、うん。いつも通りの風景。なはずなのだが、どこか違う気もする。リアル間違い探しをしている気分だ。

ここに住んで3年くらいになる。少なくとも3年間はこの道を利用している。間違えるはずはない、と思う。

少なくともアパートがないと言うのは明らかだ。

さて。どうしたものか。

弱ったなぁ。

この辺りは閑静な住宅街で宿はない。もちろんカラオケボックスやネットカフェ、温泉施設などもない。

あたりはかなり暗くなっていた。

ん〜と悩んでいると、

「あの〜。お困りですか?」

声をかけられた。その声に振り返ると、声の主がいた。少し距離を取る。

少し暗く、距離もあり、顔はわかりづらかった。

「この辺うろうろされていたので、、、。道に迷われたんでますか?」

「迷った、、、のか、迷ってないのかよくわからなくて。」

自分でも何を言っているのかわからなかった。相手からしたらもっとよくわからないだろう。

「そう、ですか、、、。あの、行きたいお家はこの辺りなんですか?」

「なはずなんですが、建物がなくて・・・。」

「どこにあったんですか?」

「ここにあったはずなんですが・・・。」

「ここ、ですか?」

正しく言うと建物はある。だがずいぶんと様変わりをしていた。新築ということで当時ここに決めたのだが、今目の前にある建物は昭和の古き良き時代の建造物だ。〇〇荘と書いてありそうな雰囲気を醸し出している。

「こちらに住んでいるわけではなく・・・?」

「はい・・・。場所はそうなんですが、建物の雰囲気が明らかに住んでいた時とはちがうもので・・・。住んでだいぶ長いので、間違えるわけはないんですが・・・。」

「そう、なんですか、、、。同じ場所なのに同じ建物ではないんですねぇ、、、。」

どうしようもこうしようも、お互い途方に暮れ、しばらく沈黙が続く。と、、、。

「ぐー。」

腹の虫の音がした。

自分だ。

「す、すみません!軽めのお昼でそのあとぶっ通しで仕事をしていたもので、かなりエネルギーを消耗してしまっていたようで・・・。」

「あ、いえいえ!ちょうど夕食どきですもんね。あ、良ければ、食事していかれますか?この辺は今の時間は閉めてしまうお店ばかりですから」

突然の申し出に驚いた。

「気持ちはありがたいですが、さすがにこのご時世の時にお邪魔するのはちょっと・・・。」

お互いかかってないとは限らない。移してしまうかもしれない。いくら腹の虫が鳴こうが、それはNGだ。

すると相手が不思議そうな顔をし、

「あ、インフルエンザですか?大丈夫ですよ。ちゃんとワクチン打ちましたから。それよりもここでお腹を空かせてる人を見捨てる方が心が痛いです。ささ、どうぞどうぞ。ここ私の家なんです。」

「ええっ!ここなんですか?」

「そうですよ。古い物件なんですがなかなか住み心地は良いんですよ。」

突然の家紹介で驚いてしまい、まんまと相手のペースに乗せられ、抵抗虚しく家に上げられてしまった。



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