(五)応宝寺の坊主たち
空には星が二つ三つ。
やがてとっぷりと日が暮れる。
なれど町はこれからとばかりに赤い灯りがさらに増え、酔うたものどものが、そこかしこで騒いでおり、女の高笑いがあった。
「やれやれ、あほうどものばか笑いがここまで届く」
大瓦は苦笑い。
「ふふ、それにしてもよくこんな処があったもの」
春竹がそっと濁酒を大瓦と弓月つぐ。
「えい、化かされた」
弓月はぼやいた。
みつけたのは、恐ろしく古びて小汚い宿であった。戸はがたつき、壁は穴でぼこぼこ、おまけに、小さいせんべい布団では腰からはみ出る。
宿の主は才蔵が
それは、鈴々と才蔵に豊春を加えてやらせたが、いざ寝るとなって、ぞろぞろと蚤やら南京虫には手を焼いた。まかせろと、才蔵がなにやら花火玉に火をつけ、煙でいぶそうとするも、その煙に咽に咽て、虫より先にひとが宿を飛び出た。
ようように煙がおさまり虫もいなくなり、やっとみな床に入り、あとはしばし三人で酒を酌み交わしている。
「それでも、唐の悪酔いからは離れられました」
「うむ。このありさまで、銭も辛い宿じゃが、それでも町におるよりよい」
弓月もうなずく。
「ぶちりにさわる」
大瓦はしかめっつら。まさしくと、春竹は眉をひそめた。
「お祓いというならもっと身を清めてこそ。これでは、わざわざ汚れてしくじりにいくようなものです」
しかりと、弓月はくいと酒を呑む。
「そも、他のものどもはなにか。さもしいやつらに盗賊まがいのものども。かとみるや、てんで、ぐずで怖じけたもの。さらには、なにをやるのかも知らぬ呆けたやから。あたかも、おのれらが厄ではないか」
大瓦は酒をぐびり。
「まさに。ふっ、そういえば我らも寺では、厄介なものよの」
「な、なにを。我らは、あくまで節操もなく強きものに媚びるやからに道を説いただけ。それゆえ、ものいえるよう武にはげんでおるのではありませぬか」
弓月も酒をあおる。
「ともあれ、こたびは、これを機に存分に我らを知らしめましょう」
「加えて、縁寺である宝明寺からの借銭をこれで肩代わりすれば、上も聞く耳をもつようになろうか」
「踏ん張りどころ」
弓月の言葉に二人はうなずく。
「どれ、明日は山へひと修行と参るか」
「はい大瓦房」
「おっ、どうやら豊春の庭木へのてっぽうの音も止んだの」
「では、我らも明日へ備えますか」
春竹が椀に濁酒を満してゆく。三人ともぐびと呑みほした。
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