第2話 天魔史跡 戦の浜

 結界屋たちは四神結界(玄武、白虎、青龍、朱雀)というオーソドックスな結界を張ってくれていた。ベルチカは目をつぶり、頭を掻く。上手く行かない時の癖のようなモノだ。黒い帽子を被った結界屋の長、デュランにベルチカはにらみを利かせながら、

「あのさ、せめて黄龍を四神の頂点に置いて完全な結界を張ってよ。これじゃあ、魔物たちが気になって積み込みできないじゃない。ほら、見て。結界の外側にあんなにももう来ているのよ」と、言った。

「いや、でもさ。黄龍の精霊石を空に配置すると闇と氷の大精霊フェンリルがやって来た事があるんだよ。同じ轍は踏みたくないんだよ。そこは分かってくれよ」

「来たっていいじゃない。魔物に襲われて全滅よりよっぽどいいわ」

「大精霊なら何とかできるって事かい?精霊導師、ベルチカ」

「大精霊なら会話が成り立つから。まあね」

「分かった。雇い主はあんただ。配置するよ。黄龍を配置して完全な結界を張るさ。それでいいだろ」

「ありがと、じゃ、報酬は口座にきちんと入れておくから」

「あいよ」と、黒い帽子を被った結界屋の長、デュランは走って去って行く。

「ふぅー。じゃあ、わたしたちはお荷物を積み込みますか」と、ベルチカはロゼルストーンに近づき、重力操作の術式を魔力の糸(金色)で描いていき、発動させる。本来の重さをゼロに近づけ、ベルチカはひょいと持つ。

「みんなー20個でいいからねぇ。20個積んだら引き上げるよー」と、ベルチカは声を風に乗せて言う。(声紋により魔力の糸を操作している。)

「「「おおう」」」と、乗組員たちの声が返ってくる。

黒き穴(ブラックホール)は結界屋たちによって、乗組員やベルチカの魔力が吸われないように簡易結界が貼ってある。空間の傷、魔力の残り香・・・それは800年たった今も魔力を集め続けている。

完全な結界を張ったおかげか、魔物たちも姿を消している。積み込みは問題無く終わり、ロゼルストーンへの魔力感知の偽装術式も完了した。

「それじゃ、ありがとねー。結界屋さん、また次回もよろしくーー」と、ベルチカは魔導船に乗り込もうとする。

その時だった。

「うわぁああああああああ」と、結界屋たちが逃げ惑う。黒い霧が結界屋たちを飲み込み、魔導船も覆って行く。

乗組員たちも次々と黒い霧に包まれて声が聞こえなくなっている。

「うがぁ、足をとられた。げっ、凍っているじゃねえか」と、ラインも叫んでいる。

「うあああああーーー」と、ベルチカは叫びながら右手に風を宿し、黒い霧に殴りかかる。(声紋により魔力の糸を操作している。)

ベルチカ、お得意の風圧爆破(エアバースト)だ。

ベルチカの拳(こぶし)はラインの足元を叩く。

黒い霧は爆散しない。それどころか、ベルチカの足にからみつき、腕にからみつき、ベルチカの脳に何か語りかけてくる。

【あらがうな。われは汝。汝はわれ】

「おい、こいつは何を言っているんだ」

ラインにも聞こえていたようだ。ベルチカと同じように足と手を黒い霧にからめとらているラインも。

「・・・・・・」ベルチカは目をつぶり考えている。

「おい、ベルチカ。何とかしろよ、このままじゃ全滅だぜ」

「落ち着いて、ライン。まだ誰も死んでいない。仮死状態なだけ。大精霊フェンリルは宿主を探しているだけ」と、ベルチカは目をまだ開けない。

「そうは言ってもよぉ。オレぁ怖くてたまんねぇよ」

「もうちょっと黙ってて。集中するから」

「へいへい」

「・・・・・・ラー、ラ~」と、ベルチカは声紋の波長を高めていく。魔力の糸、金色の輝く糸が黒い霧に広がって行く。

ベルチカの腕と足にからみついていた黒い霧は次第に消えて行き、近くにいたラインの黒い霧も消えて行く。

【そうだ。われは汝。汝はわれ】

「ラララ、ラ~ラー」と、ベルチカは声紋の波長を風に乗せて、魔力の糸を広範囲に拡げて行く。どんどん、どんどんと。

魔導船が姿を取り戻し、結界屋たちもお互いを確認している。

【われはフェンリル。汝を主(あるじ)と認めよう】

「ありがとう、フェンリル。わたしはベルチカ・ジャンヌ。よろしくね」

「「「わぁーーーー」」」

すごい歓声がベルチカを包む。

「な、何?」

「すごいな、精霊導師。いや、ベルチカ。まさか契約しちまうなんて」と、結界屋の長、デュランは手を握ってくる。

「さすがだぜ、ベルチカ。ま、助かるとわかっていたけどな」と、ラインは言う。

「よく言うわね。怖い、こわいって言っていたくせに」

「あわわ、それは言わない約束だろ、ベルチカ。」

「そんな約束してないわ」

「そんなー」と、ラインはライオンの顔でなさけない顔をする。

「はっは。あんたとはいい仕事ができそうだ。次回も是非ともご利用ください」と、結界屋の長、デュランはベルチカの背中を叩き、去って行く。

「えーこっちこそ。」と、ベルチカも手を振って別れを告げた。

ラインとベルチカたちは魔導船に乗り込み、北西にある歴史あるブリューク山へ向かって出発した。

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魔導船ベルチカ(仮) グイ・ネクスト @gui-next

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