魔導船ベルチカ(仮)

グイ・ネクスト

第1話 魔導船ベルチカ

 魔導船ベルチカ。それは特別というモノでも無く、ただ空を飛ぶ帆船という言葉がしっくりくる。20人ほどの乗組員がいて、昼夜交代で水晶球を通じて、精霊魔導核に魔力を注ぎ、浮遊させて、風精霊の助力を借りる精霊導師が必ず1人乗ることになっている。

 精霊導師の名はベルチカ・ジャンヌ。船と同じ名前を持つ16歳の女性だ。

 ベルチカは金の髪を後ろでくくっている。甲板の上で帆船の舵を握り、大空の彼方を見つめる目は琥珀色だ。銀のローブを好んで着てはいるが、膝が見えるように破いてしまっている。それが彼女のトレードマークでもあるようだ。

 ベルチカの後ろからライオンの顔をした獣人(じゅうにん)が歩いて来る。

「おーい、ベルチカ。速度も安定したようだし、昼にしねぇか」と、ライオンの顔をした獣人のラインハーツ(以後ライン)は言う。

「えっ、もうそんな時間?ねえ、ライン。今日のスープは何?」

「なーに、いつものスープだよ」

「えーまたオニオンスープなの」と、ベルチカは顔をしかめる。

「そう言うな。魔力の回復にはいいって聞くぜ」と、ラインはライオンの顔で豪快に笑う。

「まっそうなんだけどね~」

「それよりも今日行く場所は精霊魔導核の元となるロゼルストーンの採掘なんだろ?」と、ラインはベルチカの顔を覗きこむ。

「もうーちがう、違う。そもそもロゼルストーンは落ちてくるのを拾うだけだからね。ただ魔力の結晶だから、強力な魔物や、精霊たちが寄って来て大変なんだから。そこを何とか結界を張ったりして、無事に運び出すのがわたしたちの仕事よ」と、ラインの鼻を人差し指で押さえる。

「へえーまあ、そういうことか。ロゼルストーンは綺麗だって聞いたぜ。そうなのか、ベルチカ」

「そうよ、六角形で赤いのよ。その上大きい。そりゃあキレイな宝石なんだから」

「まあ、それは見てからのお楽しみだな。ところで潮のニオイがするんだが、もしかして海へ向かっているのか」

「あいかわらずねぇ。そうよ、天魔史跡(てんましせき)、戦(いくさ)の浜に行くのよ。壱の谷から西一帯の海岸が天使と魔族の戦いの舞台になったところ。空間の傷、黒き穴(ブラックホール)が無数にある死の海岸よ」

「古戦場か・・・たしかにロゼルストーンを拾うには適した場所だな」

「そ、超危ない場所だし、報酬も多い目だから、余ったお金で結界屋に結界を依頼してるんだけど、上手く行くかなぁ」

「行かなきゃ戦うだけだろ?」

「それはそれだけどさー」

「あ~ほれ、スープが冷めてしまうぞ。早う、取りに行かんか」

「はーい」と、ベルチカは手を上げて甲板を降りて行った。

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