脳3.0

アイツ

脳3.0

 リチャード・塔は英才教育を受けていた。彼の父、塔勇也は西英大学の心理学の教授で、京都のマンションに住んでいた。母のズーイー・塔は勇也とリチャードのどちらにも出会えるよう、メルセデスベンツを購入し、京都と、リチャードの住む長野の別荘まで行き来している。

 そんな母の職業はというと、これまた不思議で、教えてはくれない。「ちょっと教えられない所」で働いているようだが、どこかオフィスのようなモノもなく、毎日だらだらと起きてくる。

 リチャードはプログラマー志望だ。中学を卒業してからはずっと家の中でプログラムを組んでいる。主にIoTに興味があるようで、彼は常に大きな別荘の脇にある小さなガレージで組み込みを行なっていた。

 そんなある日、本当に平日に、勇也が別荘を訪れた。リチャードは嬉しくないようだった。

 勇也はリチャードに設計図を渡した。リチャードは「これは何の設計図?」と聞くも、勇也は「私からの宿題だ」としか言わない。正直作るのが面倒なだけで特段難しいモノでもないし、ここから規模を広げていけばそれで良いと思っていた。リチャードは『思わず舞い込んだ好機』であると思い父、勇也からの依頼を引き受けることにした。

 3ヶ月の時間を要した。ヘルメット装置のようであった。何かを入れるのかわからないが、中に大きなものが入る程度の空洞を開けた。ちなみに電気に関して、リチャードはケーブルやら有線の類を潔癖のように嫌っている。

「すべてのものはオブジェでいい」という彼のポリシーが設計図の醜い充電方法を嫌った。そのため空洞の上の蓋のようなものにソーラーパネルを採用した。

 完成報告と写真を父に送付した。

 電話がなった。

「重さはどのくらいだ?」

「親父? ああ、重さは1トンくらいじゃね?」

「そうか。向かわせる」

 ブチッ。切られた。

 父はそんなもんだと、塔勇也しか親がいないリチャードはため息を吐きつつ大きなソファに腰を下ろした。

 ところで、このソファは200万円らしい。

 親の金にすがってる分際で言うのもなんだが、座り心地に200万を払っていると言う状況がアホらしくて仕方がない。小学二年生の頃に作った椅子がある。木とネジでできており、1000円もいかないくらいの椅子。

 それでも、1000円の椅子に座って読書はできるし、実際疲れてない時には1000円の椅子を愛用している。

 例えば部屋に椅子だけしかなかったとしよう。

 椅子は木でできているから、椅子であり机に化けることもできる。

 次に部屋にソファだけあったとしよう。

 ソファは椅子にも、ベッドがわりにもなれるだろう。

 一人二役。同じはずなのにそこには199万9000円の差が生じている。

 既に対価の概念が死んでいる。

 ベッドを否定し、彼はソファで寝ることを選んだ。

 翌日、首が痛かった。

 父がキッチンにいた。どうやらサンドイッチを作っているようだった。お世辞にも父の料理は美味しくない。あまりキッチンを荒らさないで欲しい。

「ソファで寝ると首を痛める」

「首が痛いのを我慢してソファで寝た」

「人はそれを愚かと言う」

「200万のソファに寝て首を痛めた歴史の本を今度送ってくれ」

「200万がなければあるだろうな。知識を浴びるな」

 父はそう言ってリチャードに少し焦げたサンドイッチが乗った皿を置いた。

「自信作だ」

 そう胸を張る父を横目に一口。

 卵が半生で玉ねぎにちゃんと火が通ってない。

「うん。まずいよ」

「そうか、それならよかった」

 父はそう言い残しエプロンを解いて庭の方へと向かっていく。

「取りに来たんだ。プラグとかだせえからソーラーパネルに変えといたよ」

「自慢の息子だな」

 父が手で合図している。それと同時に重機の音が聞こえてくる。重い音で少しだけ部屋が揺れる。

 まずいサンドイッチをオレンジジュースで胃に流し込み、リチャードは庭に向かう。

 ・・・。

 リチャードは絶句した。

「え、なに、これ?」

 勇也は満面の笑みで振り向き、「お前が作った兵器さ」と、答える。

 その場面に遅れてくるかのようにズーイーも到着した。

「完成したのね?」

「ああ、息子のおかげで完成した。これで次期継承者に取り繕える」

「これが、日本を再構築する兵器、『脳3.0』」

 ズーイーの後ろに黒スーツの強面が10数人いた。

「ごめん、話が理解できない、こいつはただの箱だろ? なんだよ兵器って」

「旧勢力のばら撒いたモノを一気に翻せるんだよ、この兵器は。それが真髄の『脳3.0』の試作品だ。ちなみに購入したのはロシアとアメリカだ。だがこの際金なんざ一生安泰程度もらえればいい。不安定の対価より、戦争で勝つことがすべてだ」

 勇也はロシア側の要人に、ズーイーはアメリカ側の要人に話しかけに行った。

 脳3.0は日本で製作が行われた機密兵器である。人の脳に与えれるミクロ派を脳3.0を通しアップデートすることができる。プロジェクト名『Project Know 3.0』

 新支配者の定義上、現状の人間の脳のバージョンは2.281だそうだ。ちなみに間抜け面した科学者のいう進化というのは0.01、0.1が多数で、故人となった偉人で0.1程度だと述べる。

 人は想像上の生き物であると、新支配者は語る。

「第七レベル侵食区ジャパンにおいて、『Project Know 3.0』を実行に移す。プロトタイプはマーク01(リリーサー)と命名し、この国の侵食を断つ」

 アメリカ側の要人がこう言った。

 大きな車両にはジープと書かれていた。

 半年後。人々から妄想が消えた。

 リチャードはソファに座って、ポップコーンを食べていた。

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