第8話

 日常に変化があったのは年の瀬が迫った12月。

 肉体を再獲得しておよそ9カ月。人間の身には慣れたが人間社会にも慣れないといけないなと改めて思ったそんなころ。

 フミ・カードゥとの楽な日々が減少した。


 原因はフミ・カードゥの教育。

 フミ・カードゥが俺の専属使用人になったことで彼女は今後俺と行動を共にするは目になった。それは《彼》と出会う事になる帝都の学園にも同行しなければならないという事。問題があるのは来年から始まる貴族学校の方だろうか。

 帝国において教育は貴族の特権。学校などという教えを乞う場所は貴族や大地主など権力者の関係者でしか入学できない。そこは当然帝国思想が蔓延るわけで階級社会が生まれる。

 ルドル家は最上位の大公なので基本的に気を付ける必要はない。貴族社会の頂点にあるウィート・ルドルはウィート・ルドルらしくしていれば何も問題ない。

 問題はフミの身分。

 フミの実家であるカードゥ家はルドル家隣接のプフルという小貴族の認定男爵。

 帝国貴族には帝室から与えられる爵位を持つ領主貴族と領主貴族に土地を貸し与えられ統治する権利を持つ認定貴族がある。認定貴族は領主貴族の分家のようなモノ。

 認定男爵であるカードゥ家のフミは貴族社会の中では最下級。プフル家領内ではそれなりの御貴族だが外に出れば庶民になる。それでも市中であれば御貴族で通るが貴族の子息令嬢が集まる学校では最下層の身分になる。

 学校に通うのであれば虐げられるだけの存在。陰湿な虐めに合う事だろう。

 ここで問題になるのが使用人の場合、身分は主に影響されるという事。

 フミが俺と共に赴くときはルドル大公家子息の専属使用人という立場になる。使用人とは貴族の所有物。それも専属となればより重要度の高いモノになる。

 つまりは認定男爵という最下級の身分ながら大公家子息専属使用人という最上位の振る舞いを求められるという事。それは当然行儀作法も変わる。

 そういった訓練教育がフミ・カードゥに生まれ俺の平穏な日常に変化が生まれてしまった。

 フミ・カードゥがいなければ自室に引きこもる大義が失われる。

 その結果、俺は行動に迫られてしまった・


 いっそのこと外聞を気にしないという事も考えたのだが影響が大きすぎる。ルドル家次代が不出来と知れ渡れば貴族間の争いは増え亜人種の活動も活発になるだろう。

 帝国がどうなろうと世界がどうなろうと知ったことではない。

 が、人命が失われることは望んでいない。

 良くも悪くもルドル家の子息というのは影響力が大きい。帝国のためであろうと世界のためであろうと行動を起こせば変化を生み出してしまう。そうなれば俺の所為で誰かの命が奪われてしまうかもしれない。

 俺にはそんなことは出来なかった。


 とはいえ、正史通りのウィート・ルドルを演じることも出来なかった。短時間その場だけの演技であれば何とか隠し通せたが好き好んではしたくない。

 行儀見習いとして来ている派閥貴族の子息たちの前で帝国貴族とは何たるかを演説した後は反吐が出た。本当に胃の内容物が外に出た。


 あれもしたくないこれもしたくないなど我が儘だが、人生など我が儘を押し通すものだと思う。

 その我が儘を押し通すためにほんの少しだけ俺は行動を起こした。

 と言っても基本的に正史をなぞるだけ。


 亜人種を、愛玩動物を購入することにした。

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