第16話 【改訂工事前】凶神...可愛がる

◆アルグリア大陸暦1538年2月2日 アッバース王国辺境~ミモザの森



 

「11! 9! 7! 5! 3! 2! 1! 殲滅完了!」




 殲滅の秒読みカウントダウンが終了した。


 王女と妹は、其の場で倒れ込む事もなく、余裕綽々で俺と俺の前の異物を凝視していた。




「フェート殿、此れは一体何なのですか?」




 王女は初めて見た紫煙のエフェクトに包まれた、ドックンドックンと鼓動する度に赤黒く脈動する繭を訝しがりながらも、剣と盾を油断なく構え持っていた。


 妹は、知っているからなのか、何食わぬ顔で何も言わない。


 


 俺はゲームシステムで、倒した緑鬼精霊人ゴブリンの骸を、脳裏に浮かぶ地図から確定させ、一瞬で回収したのだった。


 王女は、某か俺がしたと気付いてはいるが、目の前の異様な繭から目を離さずにいた。




--------

緑鬼精霊人ゴブリンの狂獣剣▼


緑鬼精霊人ゴブリンの狂獣剣:紫煙の妖気を放つ緑鬼精霊人ゴブリン王種秘蔵の呪われし短剣。其の剣を心臓に刺された者は、命と魂を贄として、意志無き化物と為り、全てのものを喰らい尽くす。

--------




 緑鬼精霊人ゴブリンの狂獣剣で刺された生き物が、化物に為る。


 但し、毎回其の化物は無作為ランダムだった。


 古の恐竜と呼ばれる生物、空中に浮く防御結界を展開する目玉、物理攻撃が利かない精神体などなど、様々な化物が生み出される。


 


 だが総じて言える事は、気を抜けば確実に死ぬ。


 生贄の個体レベル、種族に因って強さも変わると、確か弟子が言っていたが、俺は覚えていない。


 何故なら覚える必要が無いからだ。


 良いか、生き物ってのは死ねば動かなくなる。


 要は息の根を止めれば良いと言う事だ。


 其れさえ解っていれば、十分だ。




 ふむ、まだ、個体が確定しないようだ。


 此処で問題は、称号【紅】の効果は終了していると言う事。


 再発動待機時間リキャストタイムは24時間。


 つまり、此の無作為ランダムの化物は、地力で倒す必要があると言う事だ。


 さあ、何が出るかお楽しみだ。








 ドックン、……ドックン……ドックン!




 脈打つ鼓動が、一段と大きく高鳴り、繭の表面に罅が走る!


 其の罅の隙間から、爬虫類の手が繭を押し広げながら、其の姿を現していく!


 生まれ出でた化物に、脳裏で個体情報の確認をする。




――――――


情報表示:▼


NAME:【???ノーネーム


個体LV:【1】


備考:▼


年齢:【0歳】


種族:【狂獣精霊人バリアント


身分:【未設定】


職業:【未設定】


称号:【未設定】


才能:【未設定】


説明:【緑鬼精霊人ゴブリンの狂獣剣に因り、己の意志で狂獣に為った緑鬼精霊人ゴブリン王種の最上位種《皇帝》の変異種。】


状態表示:▼


生命力HP:【500/500】


魔力MP :【300/300】


精神力MSP:【250/250】


持久力EP:【300/300】


満腹度FP:【1/100】


能力表示:▼


筋力STR  :【150】


耐久力VIT :【230】


知力INT  :【87】


敏捷AGI  :【96】


器用DEX  :【53】


魅力CHA  :【38】


部隊編成表示:▼


統率力LEA:【未設定】


攻撃力OFF:【未設定】


防御力DEF:【未設定】


機動力MOB:【未設定】


持久力END:【未設定】/【未設定】


戦法力TAC:【未設定】/【未設定】


士気力MOR:【未設定】/【未設定】


詳細:▼


主将:【未設定】


副将:【未設定】


副将:【未設定】


部隊:【未設定】


戦法:【未設定】


特性:【未設定】


説明:【未設定】


――――――




 ほ、ほう。面白い、実に面白い。




 今まで見た事もない狂獣だ。




 其れに名前が【???ノーネーム】とは?




 俺が見てきた個体は必ず生前の個体名が踏襲されていた。




 此の個体ならば個体名は【ロキフル】と為る筈だが、変異種と情報には在る?




 はて、個体レベルが【1】だと、狂獣化した個体はすべからく個体レベルは、贄と為った個体レベル以上に為る筈だが?





 う、うん? 満腹度FP:【1/100】か、……




 ふむ、面白い! 面白いじゃないか!






「ああ、シャンダナ殿下? 攻撃は控えてくれるかな?」




 狂獣の一挙手一投足いっきょしゅいっとうそくも逃すまいと、剣と盾で今にも、襲い掛からんとする王女の挙動を掣肘する。




 危ない、危ない。お楽しみが、只の楽しみに為ってしまう処だった。




 くっくくくく。




 俺は徐に、俺の身の丈よりも少し小さい狂獣に歩み寄る。


 狂獣は、幼獣のような鳴き声を揚げながら、俺を見つめる。


 俺はゲームシステムに仕舞った緑鬼精霊人ゴブリンの屍を一体取り出して、狂獣の目の前に置く。


 狂獣は、緑鬼精霊人ゴブリンの屍の臭いを嗅ぐも一向に食べようとしなかった。




 はて、狂獣とは、意志無き化物と為り、全てのものを喰らい尽くす存在である。


 其れが喰わないとは、一体?


 喰い方が、解らない訳でもあるまい。


 いや、解らないのか?


 だが、表示では満腹度FP:【1/100】。


 ふむ、俺は緑鬼精霊人ゴブリンの屍に、牙を立て、其の肉を喰い千切って食したのだった。








 「ああ、シャンダナ殿下? 攻撃は控えてくれるかな?」




 フェート殿の言葉が、相手が油断してる間に切り込もうと構えていた私を制止させる。




 如何言うつもりだ? 明らかにヤバい化物が、目の前に居ると言うのに、攻撃はするなどと、一体?




 な、何だと? 




 フェート殿は、警戒もせずに無造作に化物に歩み寄った。




 そして、右手にゴブリンの死体を持って、う、うん?




 いつの間に右手にゴブリンの死体が?




 古代遺物アーティファクトの一種だろうか?




 先ほども、辺り一面のゴブリンの死体が、一瞬で消えた。




 其れも、此れも、フェート殿の仕業だろう。




 一体、フェート殿は何者なのだろうか?




 確か、カツンパラデス王国の王だと、メルは言っていたが。




 古の魔法王国。其処の王ならば、此の摩訶不思議な現象も納得は出来るが。




 王が単独で動く事は無いと知っている私としては、今一、胸に落ちない感があった。




 えっ? マジか!




 フェート殿が、ゴブリンを化物の前で噛み付き、喰いだした!








 兄ちゃんが、面白そうに狂獣の繭を見つめている。




 シャンダナは、警戒心を解かずに、やる気満々で兄ちゃんの傍へ歩いて行く。




 私は、知っている。




 狂獣と化した生き物の成れの果てが、只喰らうだけの生物だと言う事を。




 自分の意志もなく、唯々空腹を満たすだけの存在。




 緑鬼精霊人ゴブリンの王種のみが持つと言われる呪われし短剣【緑鬼精霊人ゴブリンの狂獣剣】。




 其の呪われし短剣に心臓を生きたまま刺された生き物は、狂獣と為る。




 何になるかは全くの不作為ランダム




 其れ故に、思いも依らない狂獣が現れても可笑しくは無い。






 兄ちゃんが、繭を破って出てきた狂獣に歩み寄り、餌を其の眼前に出した。




 可笑しい、喰うだけの存在が、餌を食べない?




 そうしていると兄ちゃんが、餌に喰い付き食べ出した。




 ええええ~!? 緑鬼精霊人ゴブリンは、凄く不味いって、兄ちゃん言ってたのに!?








 俺が緑鬼精霊人ゴブリンの屍の肉を食べ始めると、狂獣も舌を伸ばし、恐る恐る口に含み喰い始めた。




 此れは、面白い! 実に興味深い!




 意志を持たない空腹を満たすだけの存在に、意志が映る。




 ほれ、もう一匹どうだ?





「ぐぎゃ、ぐぎゃぎゃぎゃ!」




 おう、おう。何とも可愛い奴じゃないか?




 俺は愛玩動物ペットを飼った事はないが、此奴を飼うのも有りだな!





 アルグリア大陸で愛玩動物NO.1と言われる宝玉精霊人カーバンクルが、己の身の丈ほどの狂獣を愛玩動物ペットとした。








 狂獣の飼い主と為った男は前世の仮想現実世界では、触らぬDQNに祟り無しと言われ、その残虐性と嗜虐性と殺られたら殺り返すプレイスタイルから、凶神オーバーヒールと呼ばれ忌み嫌われた我儘者ペルソナエゴイスタだった。








 To be続きは continuedまた次回で! ……

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触らぬシスコンDQNに祟り無し? ~アルグリア戦記外伝~【改訂工事の為、長期休止中】 虎口兼近 @kumametal

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