第15話 【改訂工事前】凶神...戦歌を唄う

◆アルグリア大陸暦1538年2月2日 アッバース王国辺境~ミモザの森




『者共、陣形を組め! 此の愚か者を狩るのだ!』




「「「グッギャギャギャギャ!」」」「「「グッギャギャギャギャ!」」」

「「「グッギャギャギャギャ!」」」「「「グッギャギャギャギャ!」」」

「「「グッギャギャギャギャ!」」」「「「グッギャギャギャギャ!」」」




 緑鬼精霊人ゴブリンの近接部隊が、俺を幾重にも囲み、遠距離部隊の攻撃後、近接部隊が突撃を行う!


 


 だが、無駄無駄無駄! 紅の衣を纏った俺に、攻撃すると言う事は、俺の攻撃力を爆上げすると同義だった。




 俺は、交わしもずに、只、ぼお~っと立っているだけだ。




 緑鬼精霊人ゴブリン達も、徐々に俺の異常さが解って来たのだろう。




 攻撃に迷いが出て来た。




 迷いがある攻撃など、今の俺には攻撃力上昇の糧にも為らない。




 片刃の刀を、左右、独自の意志があるように、振るい出す!




 緑鬼精霊人ゴブリンの目を、頸椎を、喉元を突く!


 緑鬼精霊人ゴブリンの心臓を刺し、鳩尾を、金的を叩き潰す!


 緑鬼精霊人ゴブリンの急所を的確に、突き、刺し、潰していく!




 そして、刀を滑らすように、撫でるように、緑鬼精霊人ゴブリンの首を刎ねていく! 




 紅いエフェクトが、紅く紅く濃さを増していく!


 其の濃さが深くなるに連れ、俺の動きも加速する!




「「「グッギャギャギャギャ!」」」「「「グッギャギャギャギャ!」」」

「「「グッギャギャギャギャ!」」」「「「グッギャギャギャギャ!」」」

「「「グッギャギャギャギャ!」」」「「「グッギャギャギャギャ!」」」




 緑鬼精霊人ゴブリンの囲いが崩れ、乱れ、壊われる。


 緑鬼精霊人ゴブリン達の士気力が、大幅に下降していく。




『オレガアイテダ!』




 ゴブリンキングの一体が、俺を大きな棍棒で叩き潰そうと振り被る。




 余りにも大きな動作に、俺は苦笑し、心臓を一突きして、ゴブリンキングの驚愕の表情を見ながら、刀を抉る、抉る、抉る!




 苦悶の表情に変わるゴブリンキングに飽きた俺は、次の獲物であるゴブリンエンペラー【ロキフル】に狙いを定める。




 潮が引くように、緑鬼精霊人ゴブリンの兵士達が、戦きながら俺の行く道を空けていく!




 其の事が、ロキフルの流儀・作法に触るのだろう。




 憤る憤激で、身体の毛細血管から、圧縮した血潮が霧のように吹き出ていた。




 奇しくも俺と奴は、お互いを紅に染め上げ、此の戦いの終局を告げようとしていた。








 如何言う事だ、全く疲れない、魔力も枯れる気配も無い!




 私は盾で緑鬼精霊人ゴブリンを殴り付け、長剣で緑鬼精霊人ゴブリンを切り飛ばす!




 身体を覆う紅い光が、私の攻撃性を刺激する! 止む事の無い破壊衝動が身体を支配する! 纏う紅い光が、其の濃度を、深く深く染め上げていく!




「うぉぉぉぉぉ~!!!」




 往ける、往けるぞ! 緑鬼精霊人ゴブリンを叩き潰してやる! 




 我が国を、緑鬼精霊人ゴブリン何ぞに、好き勝手させるものか~!








 「はぁあああ! たぁ! やぁ!」




 兄ちゃんの称号【紅】は、本当にチートな称号効果だ。




 私には逆立ちしても、獲得出来ない称号だ。




 技術だけでは獲得出来ない、意志と覚悟が揃い、初めて其の真価を発揮する称号。




 8時間も、攻撃を交わし続けるか、受け続けるか、どちらにしろ、8時間も攻撃し続ける相手が、そう易々と居る訳は無い。




 兄ちゃんは、何故か厄介事に巻き込まれる。




 そう言う運命だと、屈託無く笑う兄ちゃん。




 兄ちゃんの凄い処は、其の厄介事を、全て喰い破り、自分の糧にする処だ。




 まるで、兄ちゃんの糧に為る為に、厄介事が集まって来る。




 もう其れって運命では無く、宿命と言っても良いのでは?




 兄ちゃんが、吠える! 兄ちゃんが、猛る! 兄ちゃんが、荒ぶる!




 兄ちゃんを敵に廻した緑鬼精霊人ゴブリンには、ご愁傷様としか言えない。




 そうだ、美味しく経験値として頂くから、頂きますとだけ言っておくわ!








「我は~♪ 何者ぞ~♪ 我は~♪ 何者ぞ~♪ 我は殺られたら~♪ 殺り返す者ぞ~♪ 我は禍々しく~♪ 蠢く者ぞ~♪ 我は~何者ぞ~♪ ……」




 俺は、恒例の戦歌を呟き唄う。




 俺の唄声に呼応するが如く、紅いエフェクトが脈打ち、蠢動する!




 俺の心の慟哭が、俺の心の哀哭が、魂と魄を、変化させ昇華させる!




 朱紅と真紅が混ざり合い、やがて猩々緋しょうじょうひの如く、黄赤が脈動する鮮やかな紅が、まとい躍る!






 「さあ! 血祭りの時間ショータイムだ!」




 俺の言葉を合図に、ロキフルが大盾を構え、槍で的確に俺の急所を突く!




 其れを難無く、見切り避けながら、静かに圧しながら、進みゆく!




 焦りが、畏れが、動作を荒く、緩慢にさせる。




 ロキフルの目の中に映る、恐怖と畏敬の色が、俺の嗜虐性を刺激する!




 纏わり付く愉悦に、心が躍る。




 ヒリつく痺れと痛みに、快感が撥ねる。




 俺の残虐性が、刮目し、感情を喰らい尽くす。






『お、お前は一体何者なのだ? 我を後退させる者ならば、名は有ろう? 何者だ?』




 怯えが心を、身体を萎縮させ、脅えが隙を、急所を浮かび挙がらせる。




 緑鬼精霊人ゴブリンの頂点に君臨する皇帝ロキフルが、自分の流儀と作法を忘れ、無様に震え出す。




「名乗るほどの者でも、ねえよ!」




 呆気ない玩具の崩壊に、興を減じた俺は、素っ気なく告げ、最終段階に移行する。




 殺られたら、殺り返す! 皆殺しだ!




 一匹たりとも逃がしはしない。




 脳裏に浮かぶ周辺地図で、全ての緑鬼精霊人ゴブリンを確定固定させ、殲滅の秒読みカウントダウンを開始する。




 緑鬼精霊人ゴブリンの残数は【284】個体。




 戦意を喪失したロキフルを餌にして、殲滅の秒読みカウントダウンが進む。






「219! 214! 194! 168! 159! ……」




 順調に秒読みカウントダウンが進む中、ロキフルが恥を忍びながらも、許しを乞うて来た。




 惨めに這い蹲りながら、土下座を噛ます。




『どうか、どうかお許し下さい! 此の通り詫びるので、助けて下され!』




 必死に助けを乞う緑鬼精霊人ゴブリンの皇帝ロキフルに、俺は優しく、静かに語り掛ける。




「い! や! だ! 言ったよな? 俺と敵対したら、ごめんなさい。許して下さい。助けて下さいは通用しない。それでも良いなら掛かって来いって! 観念しろ、諦めろ、お前は凶札を引いちまったんだ!」




 俺の愉悦に歪んだ笑顔を見た緑鬼精霊人ゴブリンの皇帝は、最後の賭けに出た。




 懐に隠していた禍々しい紫煙の妖気を発する短剣を抜き放ち、逆手に持ち替えて自分の心臓を刺し貫いた!




『ぐっ、ふっ! 我は緑鬼精霊人ゴブリンの皇帝ロキフル! 同じ死すならば、戦って死ぬ! 名誉も、誇りも要らない、欲しいのお前の命だけだ! ぐっ、はっ!』




 血反吐を吐きながらも、俺を睨み付けるロキフルに、恐怖の色は無く、只々呪詛の言葉を吐き続ける!




 其の内に、ロキフルの鼓動が止まり、生命活動を終えた時、異変が起こる。




 短剣から、幾筋かの脈動する血の筋が、幾重にもロキフルの身体を覆っていく。




 紫煙のエフェクトに包まれた繭が誕生し、ドックンドックンと鼓動が響き渡る。






 俺はロキフルが取り出した短剣を脳裏で確定させ、詳細を確認する。




--------

緑鬼精霊人ゴブリンの狂獣剣▼


緑鬼精霊人ゴブリンの狂獣剣:紫煙の妖気を放つ緑鬼精霊人ゴブリン王種秘蔵の呪われし短剣。其の剣を心臓に刺された者は、命と魂を贄として、意志無き化物と為り、全てのものを喰らい尽くす。

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 ほう、物騒な短剣だ。だが、俺は此れを知っている。




 俺が何回【アルグリア戦記】を殲滅完全制覇で、周回したと思っている?




 まあ、自我の無い化物なら、畏れもないから、楽しめそうだ。






「85! 76! 64! 52! ……」




 殲滅の秒読みカウントダウンが進む中、俺はロキフルの成れの果ての出現を、心待ちにしていたのだった。




 お、ゴブリンキングを王女が倒したか。




 え? 妹が、王女に喰って掛かっているぞ?




 おいおい、其れは私のだって、何食い意地の汚い事を言ってるんだ、妹よ!




 兄ちゃんは、そんな子に、育てた覚えはありませんよ? たくっ!








 妹に甘い此の男は前世の仮想現実世界では、触らぬDQNに祟り無しと言われ、その残虐性と嗜虐性と殺られたら殺り返すプレイスタイルから、凶神オーバーヒールと呼ばれ忌み嫌われた蹂躙者インヴァディールだった。








 To be続きは continuedまた次回で! ……

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