第14話 【改訂工事前】凶神...紅き衣を纏う

◆アルグリア大陸暦1538年2月2日 アッバース王国辺境~ミモザの森




「「「グッギャギャギャギャ!」」」「「「グッギャギャギャギャ!」」」

「「「グッギャギャギャギャ!」」」「「「グッギャギャギャギャ!」」」

「「「グッギャギャギャギャ!」」」「「「グッギャギャギャギャ!」」」




 緑鬼精霊人ゴブリンの近接部隊が、俺と妹達を取り囲む。其の周囲を、弓・魔法を使う遠距離部隊が、更に包囲する。




 俺は何もしない。只、緑鬼精霊人ゴブリンの攻撃を受けるだけ。




 緑鬼精霊人ゴブリンの攻撃を受ける度に、ノックバックも為ずに俺は佇み、妹達の様子を窺う。




 暫くすると、妹達に変化が現れる。




 傷付いた身体の傷が、徐々に修復されていく。




 其れは、身に付けている装備も、戦いが始まる前の状態に、傷が消え巻き戻っていくかのようだった。





「はっ! 此処は、くっ! 緑鬼精霊人ゴブリン!」




『煩いな、眠れないでしょ、シャンダナ!』




 王女は、周りを囲み、剣と槍の刺突と斬撃の嵐の中で、自分の身に一切の攻撃が当たっていない状況に当惑している。



 妹は、寝ぼけているのか、王女の胸の中で、まだ微睡んでいる。




 大物か、妹よ。




 


 FHSLG【アルグリア戦記】の真実の一つとして、称号の効果がある。




 才能スキルは、覚醒で其の真価を発揮し、獲得困難な称号ほど、其の真価が発揮された時、神々AI管理脳群の力の恩恵に驚愕する。




 王女であるシャンダナが持つ、称号【お転婆姫】は、単独戦闘時能力値が三倍で、集団戦闘時に指揮を執れば部隊攻撃力が三倍の効果がある。




 しかし、其の効果は通常の効果に他ならない。




 其の真の効果である真価を発揮するには、経験し理解しなければならない。




 現実の世界の一秒が、三千百十万四千秒に相当する仮想現実の世界で、思う存分自分の楽しみを追求した【イカれた変態】は、其の理論ロジックを正しく理解していたのだった。




 



「二人共、確り聞け! 現状は緑鬼精霊人ゴブリン二千八百八個体、ゴブリンキング四個体、ゴブリンエンペラー一個体、総数二千八百十三個体が敵の総数だ!」




 俺の言葉に、驚愕する王女とは対照的に、妹は落ち着いており、其れが如何したと言わんばかりに、可愛らしく首を傾けている。




「此の身体に纏い付く紅いものは、一体何なんだ?」




『此れはね、兄ちゃんのお得意の【紅】って言う能力だよ! 凄いんだよ、此の能力が発動すると敵の攻撃は全て【吸収して】、其の攻撃ダメージの分だけ、【攻撃力が増加】・【】、そして、うぐっうぐっ!』




 妹は俺の自慢がしたいのか、俺の個人情報を垂れ流ししまくっていやがる。妹の口を押え、其れ以上の情報漏れを防いだ俺は、王女に向かってこう言った。




「さあ! 血祭りの時間ショータイムだ!」








 私は夢でも見ているのか? あれだけ傷付き、活力が無くなり意識を無くした私の身体は、此の緑鬼精霊人ゴブリンの村を攻撃した時の状態に戻っていた。




 身体だけじゃない、装備も、戦う前の状態に戻っている。




 信じられない。如何言う絡繰りなんだ? 




 其れを為した存在である、友の兄であるフェート殿。彼は一体何者なんだ?




 其れに、力が漲ってくる、魔力が迸り溢れ落ちるようだ。




 フェート殿が、私を見つめ「さあ! 血祭りの時間ショータイムだ!」と楽しげに告げる。




 先ずは敵を倒す事が先決だ。




 此の緑鬼精霊人ゴブリン二千八百体ほどを倒す?




 そんな事が可能なのか?




 私が唖然としていると、メルが両手の棍棒を振り回しながら、北の方へ突っ込んで行った。




 フェート殿は、独特な剣? 片刃の少し反っている剣を両手に持ち、南西に突っ込んで行く。




 では、私は南東に行けば良いのか? 指示は無いが、フェート殿達の行動が、南東へ向かい敵を分断しろと告げていた。




 ふっ、面白い兄妹だ! 




 私は、シャンダナ・アッバース! アッバース王国の第二王女だ! 




 私の国を緑鬼精霊人ゴブリンなんぞに、蹂躙されて堪るか!








「はぁあああ! たぁ! やぁ!」




 右手の棍棒で、盾ごと緑鬼精霊人ゴブリンの右腕を爆砕し、裏拳の要領でくるっと回転して、左手の棍棒で頭を叩き割る!




 其の円の動きのまま、攻撃の勢いを殺さずに次の標的に、棍棒を叩き付ける!




 兄ちゃんは、称号【紅】を私の意識が無くなってから獲得したようだ。




 称号【紅】の獲得条件は、八時間敵の攻撃を受け続ける事。避け続けても条件はクリア出来るが、一切自分から攻撃をしてはいけない。




 つまり、私が意識を無くしてから、八時間は経っている。




 其れも、私の友達を助けての願いを叶えてくれる為に。




 兄ちゃんには、友達はいない。




 いや、正確には、作る気が無い。




 友達など足枷に過ぎない、そんな縛りを持つ趣味は無いと言う兄ちゃん。




 冷酷で、非情な兄ちゃん。




 でも、私にだけには甘い兄ちゃん。 




 そんな兄ちゃんが、私は大好きだ。




 私はやっぱり、未々だな。兄ちゃんに助けて貰ってばっかりだ。




 そう思っていると、脳裏に浮かぶ周辺地図に、兄ちゃんがゴブリンエンペラーに向かって、一直線に進んで行くのが見て取れる。




 ああ、やっぱり、兄ちゃんは兄ちゃんだ。




 “殺られたら、殺り返す”




 私の為に、自分の計画を曲げて、其れが原因で死んだ兄ちゃん。




 補助管理脳アシスタントマネージメントブレインと為って、蘇った兄ちゃん。




 私の死を見て怒りに震え、流したい泪も、人でなくなった為に、流す事が出来無くなった兄ちゃん。




 兄ちゃん、ありがとう。




 私を育ててくれて、ありがとう。




 ううん、ありがとう、父ちゃん......








 「ふぅ~、ふん! はぁ~、ふん!」




 俺はゲームシステムから、片刃の刀を二本取り出し、緑鬼精霊人ゴブリンを斬って捨てる。



 緑鬼精霊人ゴブリンの残数は、二千七百個体ほど。




 妹も、王女も、順調に緑鬼精霊人ゴブリンを削っている。




 では、俺は敵の頭から潰して行くか。




『『『『『ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ~!』』』』』




 王種の咆哮と、皇帝の檄の五つの叫びが、一つの叫びのように、緑鬼精霊人ゴブリンの【部隊能力・士気上昇効果】を重ね掛けする!




 王種さえ居なくなれば、後は烏合の衆となり、如何とでもなる。討伐の効率は上げ、其の速度も上げる為に、王種から倒す。




 ゴブリンエンペラー【ロキフル】が、不遜な態度で俺を見つめている。




 くくくく、何時まで其の余裕の態度でいられるのかな?




 自分を強者だと勘違いしている野郎を、心ごと打ちのめすのは最高だ。




 俺は自分からは、攻撃はしない。俺を攻撃すると言う事は、俺に攻撃されても良いと言う事だ。




 因果応報。因果が巡り、自分に返ってくる。




 ふっ、理屈で語るな! 行動で語れ!




 俺は、“殺られたら、殺り返す”だけだ!




 俺の行く手を、ゴブリンキング二体が立ち塞がる。




 大剣と、メイスか。




 ふん、此の【アルグリア世界のことわり】を知る俺に、勝てると思っているのか?




 大剣には大剣の動作が在る。メイスにはメイスの動作が在る。




 其の動作モーションを知り尽くした【プレイヤー】に取って、個体レベルは誤差でしかない。




 才能スキルと称号も、其れを知り、理解し、活用出来る者に取っては、飾りでしかない。




 【模擬現実リアルシミュレーション】制のゲーム世界に於いて、経験と知識こそが、掛け替えのない武器と為る。




 俺から見て右側の大剣使いのゴブリンキングと、左側のメイス使いのゴブリンキングが、同時に俺に攻撃を仕掛ける。




 しかし、完全に同時の攻撃などは存在しない。修練を積み、息を合わせた者同士ならば有り得なくも無いが。




 連携の不備が、荒い攻撃と為り、隙と為り、俺の勝機を確実なものとする。




 大剣を駒のように左回転で交わしながら、大剣使いをメイス使いの攻撃の盾として使う!




 左手の刀で、大剣使いの左手首を浅く斬り付け、屈みながら右手の刀で、大剣使いの左足首の腱を切斬する!




 左にぐらっと、重心が擦れ倒れ込む大剣使いの延髄を、左手の刀で絶ち切る!




 吹き上がる鮮血の雫を、身に受ける事なく、呆然とするメイス使いに大剣使いの身体の死角から、右手の刀の切っ先で喉笛を突き穿つ!




 ごぼっ、ごぼと声に為らない声を溢しながら、驚愕の目線を貼り付けたメイス使いは、息絶えたのだった。




『見事だ、卑怯者よ! どんな絡繰りかは知らんが、我が其の絡繰りを破ってくれるわ!』




 俺の戦いを見て、そう豪語するゴブリンエンペラー【ロキフル】。




 俺はそんな、勘違い野郎の間抜けさ加減に、笑みを溢す。




「おい、間抜け野郎! 卑怯とか、誇りとか、拘りを持って其れを為す者には、絶対に無くては為らないものがある! 其れが何か、お前に解るか?」




『ふっ、知れた事を、力だ! 力無き者に、語る資格はない! 違うか、卑怯者?』




 違うな、だからお前は俺に敗れる間抜けだと言うのだ!




「違うな、弱き者よ! 結果だ! どんなに力が在ろうと、負ければ意味は無い! 敗者は語る事は出来ない! 強い者が、力が在る者が生き残る訳ではない! 生き残った者こそが、全てを得る! 揺るぎない結果を為し得る者が、傲慢に戦い方を選べる! 最後に戦いの真理を知って? どんな気持だ、どんな気持ちなんだ、弱き者よ?」




 憤怒に染まるロキフルが、余りの怒りの為に、口から血の怒りの雫を流す。




 冷静さを失った者に、戦いを生き残る可能性は、素気ない。




 冷静に、相手の精神に言葉で攻撃を加え、圧倒的に優位な状況でも、自分の勝機の確立を少しでも上げる、堅実な宝玉精霊人カーバンクルの姿が、其処には在った。








 紅い衣を身に纏う男は前世の仮想現実世界では、触らぬDQNに祟り無しと言われ、その残虐性と嗜虐性と殺られたら殺り返すプレイスタイルから、凶神オーバーヒールと呼ばれ忌み嫌われた戦巧者テクニシャンだった。








 To be続きは continuedまた次回で! ......

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