第13話 【改訂工事前】凶神...蹂躙する

◆アルグリア大陸暦1538年2月2日 アッバース王国辺境~ミモザの森




『ほう、言うではないか! 卑怯者の分際で、烏滸がましい! 死ね、卑怯者!』




 ゴブリンエンペラーは、憤怒の表情を隠しもせずに、俺に襲い掛かった!




 ゴブリンエンペラーは、感情に任せて襲い掛かっているようでも、実際は右手の大盾で防御を固め、左手の槍で堅実な突きを繰り出す!




 その槍を、ひょいとばかりに首を曲げて交わした俺は、冷静に状況を分析して、勝利の方程式を導き出す!




 現在、緑鬼精霊人ゴブリンの軍団の総数は二千八百十三個体。内にゴブリンエンペラー一個体、ゴブリンキング四個体も含む。




 冷静に客観的に考えても、勝ち負けの前に、前提として生き残るだけでも不可能だった。




 俺が緑鬼精霊人ゴブリンの軍団を倒すなら、徹底したゲリラ戦で、緑鬼精霊人ゴブリンの戦力が統合される前に、各個撃破する。




 現状に至っては、緑鬼精霊人ゴブリンの戦力の分断の為、一時撤退が正解だ。




 だが、妹と王女を見棄てればであるが。




 では、勝機の全く無い状況で、何故俺は自分から姿を現したのか?




 其れは、妹の頼みだからだ。




 自分を助けてと言わず、赤の他人の王女を助けてとは、俺には全く理解不能な行動だ。




 だが、妹の頼みは頼み。




 ふむ、聞くしかあるまい。




 俺は妹に甘い男シスコンだからだ。




 俺は【冥府アンダーワールド】から肉体再生した際に、スキルも称号も全て初期化され失った。




 個体レベルは若干上げてはいるが、現状を打破するには、圧倒的に力が足りなかった。




 では、俺は妹達と心中する為に姿を現したのか?




 其れは違う。俺が生き残らない選択をする訳がない。






 FHSLG【アルグリア戦記】に於いて、受ける為には、が必要だ。




 過酷で困難な状況でも、と、に、【アルグリアの神々AI管理脳群】は、称号と言う名の【恩恵】を与えるのだ。








 ゴブリンエンペラーは、右手の大盾での、動作硬直を狙う技を折り込みながら、左手の槍で正確に俺の急所を狙って来る。




 ゴブリンエンペラーのは、時を掛け過ぎた事だった。




 俺からは一切攻撃はしない。其れが俺の魂に刻み込まれたルール優先事項だった。




 俺にゴブリンエンペラーの攻撃は、一回も当たっていない。




 交戦時間が一時間を越えた。ゴブリンエンペラーは、有り余るスタミナで、全く攻撃速度は衰えない。


 


 寧ろ、笑みが溢れて楽しんでいるようだった。




 対して俺はスタミナの消費を抑え、最小限の動作で攻撃を捌く。




 何故、攻撃をされて、攻撃をしないのかだって?




 慌てるな! 理由は勿論ある。




 統制された緑鬼精霊人ゴブリン軍団は、ゴブリンエンペラーの号令がないと行動を起こさない。




 俺とゴブリンエンペラーとの闘いを見つめるのみ。




 良いのか其れで? 本当に良いのか?




 ゴブリンエンペラーが、攻撃を避け続ける俺に、一切の苛立ちも見せず、嬉々として攻撃を続ける。




 交戦時間が八時間を越えた時、俺の頭の中に




 俺には、【アルグリア戦記】で、必ず獲る【称号】がある。




 其の称号は、だった。








『ふふふ、中々遣るではないか? 何故、隠れておった、お前ほどの者なら、隠れる意味など無いだろう?』




 ゴブリンエンペラー《ロキフル》が、攻撃を止め俺に尋ねる。




「う、うん? ああ、意味の無い戦いに参加する趣味は無いからだ」




 俺も回避行動を止め、ロキフルに対峙して返答をする。




 俺の返答が気に入らなかったのか、ロキフルは憤怒の表情で、俺に問う!




『我の戦いが、意味の無い戦いだと言うのか、下郎?』




 くくくく、脳筋過ぎるだろう。




 まあ、良い。事は成った。付き合ってやろう。




「お前には意味のある戦いでも、俺には意味がないものだと言う事だ。何だ、お前は言葉で語る者なのか、其れとも行動で語る者なのか、どっちなんだ?」




『ふっはははは! 言うではないか、下郎よ! 我は緑鬼精霊人ゴブリンの皇帝《ロキフル》! 慈悲を以て遇してやろうと思ったが、思い上がった下郎には、理解出来んようだ!』




 くくくく、熱くなれ、熱くなれ。冷静な思考が出来なくなった者は、失策を侵す。




「慈悲ねぇ~、徒党を組んで数の暴力でしか、戦えない弱者が何を言ってやがる?」

 



『な、何だと下郎! 言う事に事欠いて、我らを弱者と愚弄するか?』




「愚弄? 違うな、只の事実を言っただけだ! 其れとも何か、俺がお前に勝ったら、お前達腰抜け共緑鬼精霊人軍団が、俺の配下になるとでも言うのか?」




『ふん、小賢しい! 駆け引きをする気はない、興が覚めた。他に言う事はないか、あれば最後に聞いてやろう?』




 くくくく、見掛けでは憤っているが、冷静な判断も出来るようだ。




 だが、もう、くくくく。




「何を眠い事を言っている? 殺るか、殺られるかだろう、格好付けるなボンクラ!」




 俺はロキフルの言葉を、一刀両断にする。




 くくくく、早く毒饅頭喰らえ攻撃しろ




『全軍! 此の者を排除せよ! 我らは進軍を開始する!』




「「「グッギャギャギャギャ!」」」「「「グッギャギャギャギャ!」」」

「「「グッギャギャギャギャ!」」」「「「グッギャギャギャギャ!」」」

「「「グッギャギャギャギャ!」」」「「「グッギャギャギャギャ!」」」




 ロキフルの号令により、攻撃の許可が下りた緑鬼精霊人ゴブリンの軍団が、舌舐めずりをして、俺を喰らおうと間を詰める。




「「「グッギャギャギャギャ!」」」「「「グッギャギャギャギャ!」」」

「「「グッギャギャギャギャ!」」」「「「グッギャギャギャギャ!」」」

「「「グッギャギャギャギャ!」」」「「「グッギャギャギャギャ!」」」




 俺に一斉に攻撃を開始する緑鬼精霊人ゴブリン共。俺の傍らには、妹と王女が倒れている。




 え、此のまま殺されるのかって?




 冗談はよせよ、俺は既に此の戦いに勝利している!




 後は、【ある文言】を言うだけだ!






「殺られたら、殺り返す! 【くれない】だ!」




 俺のパスワード【合い言葉】が、【アルグリア世界のことわり】にアクセスする!




 そして、【受諾アクセプト】される!




 俺と、妹と王女の身体を、紅いエフェクトが包み込む!




 其の紅いエフェクトは、燃え上がる炎の様に、緑鬼精霊人ゴブリン達の攻撃を遮断する!



 



 FHSLG【アルグリア戦記】に於いて、称号の理解なくして、【アルグリア大陸制覇】は叶わない!




 【隠されたマスク情報データ】と併せて、【覚醒】しない者には、到達不可能な結果リザルトが、アルグリア大陸の【】だった!




 其の中でも、【殲滅完全制覇(十の災厄アンタッチャブルを完全討伐して、自分以外の勢力を全て殲滅して大陸統一する)】を成し遂げたプレイヤーは、【凶神オーバーヒールと呼ばれるイカれた変態】と、彼の弟子である【廃神オーバーアウトと呼ばれるゲーム脳の変態】だけであった!




「さあ! 血祭りの時間ショータイムだ!」


 






  緑鬼精霊人ゴブリンの軍団の攻撃を物ともしない男は前世の仮想現実世界では、触らぬDQNに祟り無しと言われ、その残虐性と嗜虐性と殺られたら殺り返すプレイスタイルから、凶神オーバーヒールと呼ばれ忌み嫌われた殲滅者エクスターミネーターだった。

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