寒い日に
天野蒼空
寒い日に
相変わらず寒い。朝からこんなに寒いと普段は家から出る気にもならない。学校に行くために布団から出るのも億劫になる。
だけど、今日は違う。今日は久々のデートだから。
付き合ってから半年が経つ彼氏との、1ヶ月に一度くらいのデート。デートと言ってもたいしたことはしていない。映画を見て、ランチを食べて、それでおしまい。古い付き合いで恋人になったのは最近だからかもしれないけれど、手を繋ぐことをしなければ、キスだってしない。友達に言わせれば変なことだそうだが、私はそれでかまわない。彼と一緒にいられるのならそれでいい。それだけで十分。
マフラーをしっかり首に巻き、コートのボタンを留めた。いつもより厚めのタイツと滅多に履かないブーツも取り出してきた。
「うっ…、寒い」
これだけの重装備でも真冬の寒さには勝てないらしい。北風が容赦なく攻撃してくる。
待ち合わせの十分前には到着して彼を待つ。それはいつもの事だ。だけど今日は違った。
昨日点灯式をしていたクリスマスツリーを背に、退屈そうにスマホをいじっている人。それは紛れもなく彼だった。彼はふと顔を上げると私を見つけて笑った。
「おはよ」
「おはよう…っていつもより早いね?」
いつもは遅刻ギリギリ、もしくは少し遅れてくる彼なので、私より先にいるなんてはじめてのことだった。
「いつも待たせてばっかりだからね。こんな寒い日に長い間待たせられないよ」
そう言って彼は笑った。
「それにしても寒いよな」
「そりゃ冬だもん。仕方ない、仕方ない」
「指先とか凍りそう。あ、そうだ」
そう言うと彼は私の手を握った。あまりに急なことで嬉しさよりも驚きのほうが勝った。
「えっと、あの、これって、あの…」
言葉が出て来なくなりあたふたしている私のことを彼は面白そうに眺めていた。
「うん、あったかいよ」
指と指が絡まる。ほどけないように、はなれないように。
寒い日、それは特別な日になった。
寒い日に 天野蒼空 @soranoiro-777
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