消息なし

熱帯夜と六畳間 スマホ越し 

僕の知らない祖母の骨

燃えるその直前になって 

間が悪い 虫の知らせだけ遺していった


遠い都に発つ前に

五〇〇〇円札を手に握らせて

気をつけてね、と

いっとう高いジュース代

また来るよ、そう言ったかどうか

どうか 思い出して


尋ねる 温度を知りましたか

尋ねる 荷はすべて降りましたか

その肺の傷は悲痛でしたか 炎症でしたか


返らないとはわかっているけど


歌の中

僕を見つめる在りし日の眼差しが

喩える鈴虫の鳴く秋

それだけ ずっとそれだけ

確か

思い出す

僕の知らないあなたの言葉がある


外は40℃を越していて、生きたあなたの知らない温度だ

それより激しい熱の中 さようならの宛はなく

言えないまんまの三年間


お別れはきっともっとずっと前に

五〇〇〇札を握りしめた時に


もしくは遠い記憶のあるところ


薄暗い部屋で覗き込んだあなたの顔、タオルケットの肌触り

その胸の上がり下がりのかそけきに

息をひそめたあの夕間暮れに


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白紙の上の無重力 槇灯 @makitou_fuko

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