虐待介護士 熊谷茂晴
痣の理由①
特養養護老人ホームひだまり、一階喫煙室。
時刻は15:20
多忙な時間帯を抜け、中だるみする頃合いである。
一人タバコを吹かす永田。
そこへ熊谷が入ってくる。
『あ、お疲れ様です永田さんっ!』
熊谷は慇懃無礼すぎるほどに軍隊じみた挨拶をした。
『ぶ。お疲れっす。』
永田は思わず吹き出す。
永田は36にして九年目のユニットリーダー。
対して熊谷は46歳四年目の平介護士だ。
熊谷は体育会系よろしく上下関係には気を遣っている。年下だろうと先輩は先輩なのだろう。
が、大抵の施設ではユニットリーダーであろうが平の介護士であろうが特段業務に違いはない。
『あれ?どうしたんすか永田さん、右腕。』
永田のポロシャツから覗く細い腕に引っ掻き傷のような痕がある。
『あー、奥本にやられましたよ。』
奥本とは二階
暴言はもちろん、暴力、盗癖、果てはオムツを外す行為まであり、スタッフはおろか家族からも見放されている。
『奥本さんすねぇ~……殺しちゃっていっすよ永田さん。』
熊谷は笑いながら言った。
『いや、あんなババア殺してお勤めしたくないっすね僕は。ははははは。』
『んふふふふ、全くです。じゃ、お先です~。』
熊谷は忙しなくタバコを揉み消し喫煙所を辞去する。
そこへ入れ違いに寺本が入ってきた。
『あれ?永田今日なに?』
『今日日勤からの当直っす。』
『あーらま。今日夜勤熊谷だぞ?大丈夫かね?』
『え?熊さん夜勤だったんだ?早いっすね相変わらず。』
『そわそわしてんだよ。あいつ今日は躁スイッチオンだからやべーかもな。』
『あらま……あの人まだ薬も飲んでんすかね?』
『らしい。寝れねえんだとよ。今日あたりなんも起こさないといいけどな?』
『いやぁ…ほんとっすね。』
永田は二本目のタバコに火をつけた。
介護の檻 大豆 @kkkksksk
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