年上彼女・一ノ瀬早希
ある休みの日。
――言われた通りに来たけど、何をするかは早希さん教えてくれなかったなぁ……。
そんな事を考えていると、扉が開いて呼び出した張本人である早希が出てきた。
「いらっしゃい、優樹君♪ とりあえず入って?」
「お、お邪魔します」
「それで、今日は何を?」
「ふふ、いいからいいから♪」
にこにこと笑う早希に手を引かれ、リビングへと招かれた優樹。そのまま彼女は腰を下ろすように言う。
「えっと……?」
困惑したまま言われた通りに座ると、その隣に早希も腰を下ろした。
「突然だけど、いつも仕事で頑張ってる優樹君に、ご褒美をあげようかなって思って……」
じゃんっ! と言いながら彼女が取り出したのは
「耳かき……?」
「そう、今日はこれで優樹君を癒しちゃいます! と言う訳で――ここにどうぞ?」
準備万端である早希は正座をして自分の太ももをポンポンと叩く。
彼女の言葉に優樹はドキドキとしながらも、ゆっくりとその太ももに頭を乗せた。
「はーい、私の膝枕にいらっしゃーい♪」
早希は嬉しそうに笑いながら彼の頭を軽く撫でる。その感覚が優樹には心地良かった。
「それじゃあ、まずは右耳からやるね」
優樹に右耳を上にするように動いてもらい、早希は彼の耳を覗き込む。
この状況に優樹は少し恥ずかしさがあるのだが、それと同時に彼女の膝枕と耳かきを味わえる事がとても幸せだなと感じていた。
「こんな感じね……最初は耳の穴の周りからやっていくからね」
「は、はい」
返事をする優樹に思わず早希はクスッと笑う。
「動くと危ないから、気を付けてね?」
まるで母親が子供に言うように注意する彼女に、優樹はまた小さく返事をして大人しくなった。
それを確認した早希は、手にしている耳かき棒を耳の穴の入り口に当てる。
かり、かりかり、かり。
優しく、しかし表面を撫でるだけにならないようにして耳かき棒を動かす。
「力加減はこれくらいで大丈夫?」
「はい……」
まだ耳かき棒は耳に入っていないのだが、優樹の表情は気持ち良さで既にとろけ始めている。
そんな彼の様子に早希は
「ふふ、それじゃあこんな感じで進めていくね」
かり、かり、かり。
穴の周りを一通り耳かき棒で
「あまり長くやってるのもよくないから……」
いよいよ、耳かき棒の先端が耳の中へと入っていく。
「痛かったら遠慮せず言ってね?」
慎重に入れた耳かき棒が耳に当たる。
かりかり、かり、ぺり、ぺり……ずっ。
「ん……」
耳かき棒が耳垢を取る感覚に、思わず優樹の声が漏れた。
それに早希の手が止まる。
「痛かった?」
「あ、いえ、気持ち良くて……」
「ふふっ、良かった。でも、まだまだ始まったばかりだからね?」
彼女は再び耳かきをする手を動かす。
かり、ぺり、かりかり、ぺり。ぺりぺり。
耳垢が剥がれていく音。それがまた優樹には気持ち良く感じられる。
「おぉ~、意外と取れるね~」
早希のその一言で、また少し恥ずかしくなってしまったのだが。
「すみません……」
「あはは、謝る事はないよ。私も楽しいし♪」
それは彼女の本心で、そのうち鼻歌でも歌い出しそうな程であった。
かりかり、ぺり、ぺり。かり……かり……ぺり、ぺり。
「でも、もう結構綺麗になってきたね」
耳かき棒で取った耳垢をティッシュに捨てながら、そう口にする。
「痒い所とかもあったら遠慮なく言っていいからね」
「な、ならさっきのところの下が少し……」
おずおずと言う優樹に、早希は「いいよ」と答えて耳かき棒を再び入れた。
「この辺りかな?」
かり、かりかり。かり、かり、かり。
「どう? 気持ちいい?」
耳を傷付けないように注意を払いながら、彼が言った所を掻く。
「いい感じです……」
「良かった。でもこれ以上は耳垢もほとんどないし――」
ある程度掻いたところで、早希は耳かき棒を抜いた。
それに優樹はもう少し味わっていたかったと名残惜しく思ってしまう。しかしこれで終わりではない。
「この梵天で仕上げをするね」
彼女がそう言うと同時に、耳かき棒を指で何度か弾く音が響いた。
ふわ、ふわふわ。
「わっ……!」
梵天の感触に、思わず優樹の声が漏れる。
そんな彼の様子に早希は優しく笑う。
「ビックリしちゃった?」
「少し……でも気持ちいいです」
「いいでしょ、この梵天♪」
そう言って彼女は梵天による耳掃除を続ける。
ふわふわふわ。ふわ、ふわ。
梵天の心地良さでふにゃりと優樹の表情が崩れていく。
「ふふ、気持ち良くて寝ちゃいそうでしょ?」
その言葉に、彼はハッとして表情を戻す。
「寝ちゃってもいいよ」
笑いながらそう口にした早希は、さらに「でも、寝るなら反対側の耳にしてからね」と、言葉を続ける。
「じゃあもう少しだけ我慢します……」
「うん、こっちもそろそろ終わるからね」
頷きながらそう言った彼女は仕上げにかかる。
ふわ、ふわ、ふわ。さっ、さっ。
「……ん、こんな感じかな」
梵天を引き抜く。
優樹の耳の中を確認すると、耳垢はそのほとんどが取れてなくなっていたのが見えた。
「あとは――」
早希は最後に、彼の耳に口を近付ける。
ふーっ。
耳に息を吹きかけられた事で、優樹の身体がびくりとわずかに震えた。
「はい。これでこっちは終わりだね」
「あ、ありがとうございます……」
平静を装っている優樹だが、その心臓はさっきの事でドキドキとして、顔も若干赤くなっている。早希はそんな彼の様子に、可愛いなと内心で思いながら優樹に向きを変えるように促す。
言われるがままに向きを変えた優樹だったが、それが彼女のお腹の方を見る形になった事に気付き、余計に鼓動が早くなった。
「それじゃ、反対側の耳かき始めるね」
早希は初めと同じように耳の状態を見る。
「こっちもそれなりに……」
真剣な声が耳元で囁かれ、何とも言い難いゾクゾクとする感覚が優樹の背中に走った。
一方、耳を覗き込んでいた彼女は、耳かき棒を彼の耳に当てる。
「さっきみたいに、入り口の周りからやっていくからね」
かり、かり、かりかり。
――あぁ、これはハマっちゃいそうだなぁ……。
再び優しく耳かきをされる感触に、優樹はそんな事を思っていた。
膝枕だけでも十分に心地いいのだが、そこにこんな極楽のような気持ち良さを体験してしまっては、いつまでもされていたくなるのは仕方ない事であろう。
「こっち側を始めたから、いつでも寝ていいよ」
早希はそう言うが、優樹はこれで寝てしまうのは逆に勿体ないのではないか、とすら感じてしまう。
かりかり、かり。かり、かり、かり。
「穴の周りはこれぐらいにして、耳の中に入れちゃうね」
ゆっくりと耳かき棒が入ってくる。
かり、かりかり、ぺり、ぺり。
少しずつ耳垢が剥がされていく。
「痛くない?」
「大丈夫です……」
そのまま剥がした耳垢を落とさないように注意しながら、早希は耳かき棒を一旦抜いてティッシュに取った耳垢を捨てる。
もう一度彼の耳の中を覗き込むと、少し大きめの耳垢があるのに気が付いた。
「ちょっと大きいのがあるから、もし痛かったら言ってね?」
「はい……」
再び慎重に耳かき棒を入れながら、彼女は小さく息を吐く。
かり、かり……かり、ぺり、ぺり。
「少しずつ……少しずつ……」
痛くならないようにゆっくりと端から剥がしていく。
しかし苦戦するかと思われた大きな耳垢は、半分程度が剥がれたところで、すんなりと取る事が出来た。
「落とさないように……」
早希は少し驚きながらも、慎重に取った耳垢をティッシュへと捨てる。
「よしっと……大きいのは取れたから、残りもやっちゃうね」
再び耳かき棒が入ってくる。
かり、ぺり、かりかり。ぺり、ぺり。
先程の大きい耳垢の他は細かいものばかりだ。
「痒い所はない?」
細かい耳垢を取りながら早希が問いかけると、優樹は大丈夫だと答える。
「やりすぎて耳が傷付くとよくないから、耳かき棒でするのはこれぐらいにして、仕上げをするね」
彼女はそう言って耳かき棒を引き抜いて、梵天の方へと持ち替える。
「梵天、入るよ~」
ふわふわ、ふわ。ふわ。
柔らかい梵天の毛が優樹の耳をくすぐる。
「クルクル~っと」
早希が耳かき棒を回すように動かす。
その気持ち良さに、彼はこれをずっとしていて欲しくなる程だ。
ふわ、ふわ、ふわ。さっ。ふわふわふわ。
「――よしっと」
一通り梵天で耳の中を綺麗にした早希は耳かき棒を引く。
「これで耳垢はほとんど取れたかな」
確認の為に耳を覗き込んだ彼女は、中の状態を見て頷いた。
耳垢が取れているのを確認し終えた早希は、彼の耳元に唇を近付ける。
ふー……。
最後に息を吹きかけると、優樹は先程と同じような反応を見せた。
「……ん、これで耳かきはおしまいだね」
そう言って早希は上体を起こす。
――この幸せな時間も終わっちゃうのかぁ……。
そんな事を思ってしまった優樹も起き上がろうとするのだが、その肩を彼女が抑えるように優しく手を置いた。
「早希さん?」
「ふふ。耳かきは終わっちゃったけど、まだご褒美タイムは終わらないよ♪」
早希はニコリと笑うと、優樹を耳かきをする体勢から仰向けに寝かせ直す。
「今度は何を……?」
「耳のマッサージをします!」
しっかりと両太ももの間に、彼の頭が来るように調整する。
されるがままの優樹は、少し落ち着かない様子だ。
「マッサージ、ですか?」
「うん。耳にはたくさんのツボがあって、
まぁ私はツボとか全然分かんないんだけどね、と彼女は苦笑いを浮かべながら続ける。
「とにかく、耳のマッサージ始めるね」
優樹の両耳に早希の手が触れる。
「優しく……もにもに……」
ゆっくりと耳たぶや
耳を揉まれるのは気持ちいいと感じている優樹だが、目を開けたままだった事でマッサージをする彼女と目が合うのがどこか気恥ずかしく、視線を
「ふふっ、恥ずかしいなら目を閉じててもいいよ?」
「うっ……そうします……」
顔を赤くした彼は、早希の言うように目を閉じた。
それから優樹は、耳かきの時からの心地良さと耳のマッサージの気持ち良さも相まって、あっという間に眠りへと落ちていくのだった。
読む耳かき まさ(GPB) @Masa_GPB
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