第6話 ギャルるんムーブが止まらない。

 ガヤガヤとまるでバラエティ番組の効果音のように騒めく通学を歩く一行。

 よっぽど目立つのか、明らか体育会系の厳つめの人も先輩たちも道を開けてくれる。

 自転車なんか車道によけていく。


――まぁ、道路交通法上はそれが正しいんだけど。 

 ヘルメットをしてないのはまぁ、しょうがないか。 高校生だし。

 

 ぶっちゃけ自転車の詳しい規定なんて知らないし、それに注意して見せるような聖人君子でも俺はないからそこに興味も正義感もない。


 ただいまは、


「リツー!! スゴーイ!」

「うわっ!? 律なんかうちら目立ってる?」


 このジャパニーズモーセの奇跡によって道を生み出すギャル集団。

 その一員に俺がいるこの状況を何とかせねば。


 駅から高校までの距離。言ってしまえば徒歩で十分というところだろうか。

 決して長くはない、行ってしまえば短い通学路。

 そう、短いはずなのだが。


「おいあいつ」

「男...だと?」

「死なねぇかなぁ、ほんと」


 俺に厳しい、周りの目のせいで嫌にも長く感じてしまう。

 小沢先生は、職員会議があるらしく急いでかけていってしまったが俺も行きたかった。


——荷物運びでも、掃除でも、なんでもしますよ!!


 もはや影も見えない、きっと前方にいるであろう先生に胸の中で何度も声を送るも届くわけはない。


「はぁ」

——だめか。


「律。 どうしたん?」

「大槻、俺のことは気にしないでくれ?」

「いや、顔マジで死んでっから。 昨日疲れたん?」

「あー? あー」


 少し後ろを歩けば、振り向いて俺の心配をしてくれる大槻。

 でもね、大槻さん。


 その優しい心は後にしてくれ。 あ、でもできれば距離置いてもらえると尚可です。


「なにない? あー、あと千佳でいいって」


 そんな風に気さくに話すんじゃねぇよ。


「入学初日で?」

「死ねばいい」

「あいつ、席どこ?」


——一人だけやけに現実的で嫌だんだが。

 怖くて周り見れねーよ。

 

「リーツ―。 カモン!」


 まだまだ拙い日本語のような英語で後ろを振り返り寄ってくるエリ。


「ノー!」


「ノー!をノー!」


 そういって俺の腕を捕まえ抱き寄せてくるが勘弁してくれ。 おまえの外国人パワーを今出すな!。

 別に無視をするなんて言うのは流石に、たった一人の外国人には酷だろうし別に思いもしない。


 ただ、ただだ。


 男子高校生は思春期を持て余らしているそんな生命体なのだ。

 

 考えてほしい。

 誰もがおそらく高校で彼女を作ろうと意気込んだり夢破れたり。

 うまいことして彼女がいるものはそれでいい。ただみんながみんな彼女がいるわけではないのだ。


 いない人の方が多いだろう。


 そんな中で、


「律―! 早く!」

「ほら律!」

 

 雨奈の呼びかけに答えるように大槻が俺の背を押すが待ってくれ。


 金髪のナイスバディの美人に抱き着かれ、ギャルに呼ばれて背中を押される。

 わかってる、みんなの言いたいことは。


——俺、死ぬんじゃないかな。


「よっ! 神田君おはよう!」パシッ


 背後からまぁまぁ強い力で叩かれたが問題ない。


「上田さん! おはよう!」


 声に応じて振り向けば、リボンをしっかりとつけてヘアピンで軽く髪を流した上田さんの姿。


——そうだよ、こういうのを待ってたんだよ俺は!


 一つ今確かなのは


——今日が命日だわ。


*******


「それじゃあ出席取りまーす!」


 名簿片手に元気よく名前を読み上げていく先生。

 素敵です。

 

 もうね、返事一個であんなにいい笑顔出してくれるなんて。先生どっかの顧問やってねぇかな。どんなくそ部活でも入ってやるわ。それこそ24時間ゴミ拾いだってしてやんよ! 24時間一緒なら。


「上田さん」

「はい!」


 いいなぁ、こういう二人のちょっとした会話も癒しだ。


「エリスさん」

「イエス!」


 エリもちゃんとまじめに挨拶してえらいなぁ。

 流石に開幕からふざけはしないか。


 ただ、


「『ねぇ、あいつまたきもい目で見てくんだけど』」

「ドンマイ」

「リツ―」


 嫌な気持ちはわからなくはない。でもお願いだから椅子をべったり横づけにしてそんな傍に来ないでくれ。


「.......あいつ死ねばいいのに」

「.......リア充め」


——ほら、またヘイトが集まった。


 先生はニコニコと俺たちを見守っているが、できれば先生とこうなりたいです。


「じゃあ、神田君」

「はい」

「うん、おはよう」

「うす」


 いつの間にか呼ばれれば、なげかけられる朝の挨拶。

 今は恨まれてもいい。

 今日一日、頑張るよ俺!


「次は、北川さん」

「はい!」

「今朝ぶりだね、おはよ」

「うんおはよ!」


 年齢的にはアウトなのであろうその返しに先生は嬉しそうに頷いている。

 案外、今朝の感じからしてもフランクな感じがいいのだろう。


 あとついでにわかったことがあるとすれば、


「目黒くん」

「はい」


 少しけだるげそうに挨拶をする一人の男。

 エリをエロい目で見ていた男は目黒というらしい。


 なんていうか、こんなことで顔と名前を一致させたくなかったよ。


 出席も終われば、あとは業務連絡をつらつらといわれるので程よく聞き流す。

 教室の時計があと数分でこの時間の終了を告げようとしたとき。


「あと、部活見学も始まりますがうちの天文学同好会もよろしく」


——な、なんだと。


 俺の予想を超えるニッチな言葉。

 それを置いて先生は足早に去っていってしまった。


「テン、モン?」


 パニック外国人を一人作って。


 そこからは、入学早々だからかオリエンテーションとしてほとんどの科目が、授業というか自己紹介タイムであったり、軽く触りだけやるような感じだった。


 でも先生方。主に化学担当の柳沢さん。

 エリに教えてやれって、専門用語の英語まではわかりませんよ俺。

 帰り際さらっと、英語のサイト教えるのやめろやおっさん。


 どうやら、先生方の間で俺はエリ担当として定着したらしく席は隣あってめちゃくちゃ近いし。 

 なんかいいにおいするし。上田さんは俺ら見て笑ってるし、後ろからちょっかいも飛んでくるし。


 何なの、みんな暇なの?


——ただここからは俺の時間だ!


 三限も終わり時間はお昼休みを告げた頃合い。

 

——よし!学食組に混ざるぞ!


 すっと俺も席を立ち、男たちの群れに混ざろうとしたとき


ムギュッ!

 腕も抱き寄せられた。いや柔らかいけど今はそうじゃない。


「エリ!」

「リツ! マムが、お昼律とって」

「What!?」


——しまった! つい俺が英語を使ってしまった。

 

 何となく開いている手でスマホを取り出せばLIONに数件のメッセージ。


『リツ君。 お昼はエリとお願いします。』


 ママさんからのメッセージを見つけてしまった。

 ダディからのメッセージは怖いから見たくない。

 通知でスタンプ来てるのはわかるがゴルゴだろ。スナイパーだろ。


「あ、エリちゃん。 私たち学食行くけどどう?」

「アイカ! リツもいっしょ!」

「うん、神田君も行こ!」

「ありがとう」


——すまん男子諸君。 

 君らの気持ちは痛いほどわかる。だが俺だって、男よりもな、タイプの子と飯食いたいんだよ!


 そう、だからこれは天罰だったのかな。


「雨奈ちゃんもどう?」

「うーん、千佳たち居てもオッケー?」

「いいよ、話してみたいもん」

「私も」

 

 まさかの上田さんのお友達も了承。

 

 こうして俺は、おそらく人生で最も重い足取りで学食に向かうのであった。


 



 



 


 

 




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何かがおかしい俺のラブコメルート 紫煙 @sienn

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