第5話 初登校
―—あ、学校か......ギャルか
天下万民に問おう。朝の起床と共にこんなことを思う学生が何人いるだろうか。
それも入学式を終えた最初の登校日にだ、
ピコン!!
リズミカルな着信音、それが教えるのはただ一つ。LION通知だ。
「まさか上田さんか!!」
思わず口に出してスマホを開けてみれば
『律、おはよう(^^)v』
わかっていたさ、右上の名前が
『あまなん』の四文字だってことは通知画面でな!
上田さんでも、愛しの小沢先生でもないことは。
それでも、それでも男だったら
―—期待しちゃうだろ。
親のいない自宅で冷蔵庫を開けば、昨日買ってきたヨーグルトにバナナが見つかるからこれを朝飯代わりに取り出す。
ここで本当なら昼飯の弁当を用意しなければいけないのだが、なんとも気持ちがきれてしまえば自然に思考はオリエンテーションの時に教えられた学食にへと向かっていく。
―—上田さんはお友達かな.......でも男友達は作れるか。
エリのせいもあってか男連中はややいい顔をしていない。女性陣は幸い上田さんのおかげもあるが雨奈の影響かやや距離感を感じることもあるし。
「今日こそ! 俺はまじめに生きるんだ!」
やたら周りが、ギャルるんして、アメリカンな感じもあるがそうじゃない。
そうだ、俺はこんな学生生活は望んじゃいない。
俺は、
―—清楚なことお付き合いしたいんだ!!
家から徒歩五分の新長野駅から電車に揺られればしばらくして北長野の文字。
本当にただ北に北上しただけで駅名もそのままなのは何度見てもなんとも言えない気持ちになるが、
「だよねぇ」
「でしょぉ」
「てかお弁当今日ないんだけど」
―—気のせいだといってくれよダディ。
確かに田舎のローカル線だから車両数は三両程度だ。多いときは四か五くらい。
たまに二両だってあたりまえだ。
だけどそうじゃない。
三両でも、一両に扉は3つ。 それが三両で9つ。
―—あり得るな。
「あ、律じゃん!!」
「お、律おひさ。」
「昨日ぶりぃ」
おおよそ一名の言葉に顔が引きつるのを感じるが、目の前には今朝寝起きと共に頭をよぎったギャル。
北川雨奈、栗山萌、大槻千佳
黒髪ギャルに青みがかった髪に、銀髪ヘアー。
「ええ! 千佳、昨日律にあったの?」
「お、あったよぉ。 ねぇ」
「へえ、あ律君。 まじめじゃんネクタイして」
さも当然と言わんばかりに隣を固めてくるギャル軍団。
―—おっさん! そんな目で俺を見るな。
―—おい、OLさん! え!? 小沢先生!?
「お、小沢先生?」
「あ、おはよう。 お友達?」
「お、小沢ちゃんおはよう」
「雨奈さんもおはようございます」
―—先生? お友達ってなにかな?
俺のお友達は上田さんと先生ですよ。
マストでベストな関係ですよ。
「先生かわいい! 私隣のクラスの栗山萌です!」
「あ、私は大槻千佳です!」
「あら、どうも。 二人の担任の小沢佳澄です」
――ギャルにも同じ姿勢で話す先生、素敵です。
というよりかはこの絵面。朝の満員電車でギャルに囲まれるOLさんの図なのだが
「先生、化粧してるの?」
「うん、薄めにね」
「かわいい」
「ありがと」
ガールズトークで盛り上がる様はまさに女の子。
―—あぁ、俺やっぱ女の子は清楚な子がいいなぁ。
改めてそんなことを思えば、勾配のある線路を進む車両に耐えられなくなった、吊革を持たざる人たちが右往左往し始める。
「あ、律ナイス!」
「お、いいところに」
俺の隣でちゃんと吊革を握っていた栗山は耐えたが、北川と大槻は俺を吊革代わりに。
「あいつ一年か」
「生意気な」
「俺の高校生活って.....」
「おい、あいつ同じクラスの...」
―—ちょっとまって!
先輩? 先輩だよね? 俺まじめだから。ほんと生意気とかないから。
落ち込んでるリーマンさん! そんないいもんじゃないから、入学早々これじゃ好きな子もできないって!
同じクラスの.....おまえエリをエロい目で見てた残念な奴。
最後だけはどうしても残念な感じになったがみんな勘違いしないでほしい。
俺の射程圏内は清楚な子。ギャルはアウトレンジのフィールド違いなんだ。
だからみんな俺の仲間なんだよ!
「昨日のカラオケ楽しかったね律」
「あ、まぁ」
「あいつ死なないかな」
「あぁ、入学早々とか死ねばいいのに」
「死ね神田!」
「会社やめようかな」
―—まてって! おかしいだろみんな。
最後の人は会社行こうねお願いだから!
あと死ねって言ったお前、この前エリがそういってたぞ。
てかなんで初登校の朝からこんな疲れなくちゃいけないんだ。
「ねえ千佳。 昨日どうしたん?」
「あ、それ気になる」
「神田君は友達多いね」
―—先生! そんなことないから! 上田さんと先生が一番だから!
心の中で抗議しても虚しいかな
『次は三茶。 三茶』
無情にも聞こえてくる執着の合図。
それを聞けばみんなカバンを手に取り家を出る準備だ。
俺が弁解する隙はもらえない。
「律、降りるよ」
「わかってる」
「よし行こ神田君!」
「はい! 先生!」
定期券を取り出し準備をすれば、この電車を使うのかホームで待つ大量の学生の前を、一本の列と化し押し流されるように俺たちを進んでいく。
そして、小さなこじんまりとした駅を抜け、いざ学校へ。
そう思いを馳せていれば、駅から出たロータリーに留まる一台の黒いセダン。
―—なんだろう、見覚えが。
微かな記憶の海を漁らなければよかった。
『やあ!律くん! エリのお友達のみんな!』
「ヤッホー」
バッと開かれた扉からは二人の姿。
それもよく知っていて、片方は俺の名前を呼んでいる。
アメリカンイケメンダディに、金髪ギャルの姿。
「もう一個の出口から出ればよかった」
かくして俺のは初登校日は激動の幕開けとなったのであった。
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