第4話 こんにちはダディ
——死ぬ。
齢十五歳にして俺は死を直感した。
別にトラックが信号待ちを突っ込んできたわけでも、工事中のビルから鉄骨が落ちてきたわけでもない。
そう、言うなれば。
「『君が娘に良くしてくれた男かい?』」
筋骨隆々の外国人に鋭い眼光を飛ばされているからだ。
肩を震わせて、『ヘイ!ボーイ』そういった顔はもう般若かと思った。
いや、お国が違うからサタンかな。
「『えっと、アドバイスはしました。』」
「『ほぅ』」
怖い、本当に怖いから。
まるでアメリカンポリスのように俺を厳しい目で見てくるのだが、俺は本当に何もやってない。
——やってないよね?
縋るような視線を送って見せればエリはこちらにVサインで応えて見せるが
「『パパ。 リツと仲良くね』」
「『ああもちろんだとも!』」
「『ね、リツ君』」
「『はい』」
お父さん、数パーセントでも、本当に1ミリでもいいんで娘さんに向けるその優しい瞳を俺にもかけてください。
このままじゃ俺ストレスで倒れちゃいます。
「『エリ。 向こうで他の子ともう少しお話ししていなさい』」
「『ok』」
——お、お父さん!? 頼むエリカムバーク!!!
すっと肩に手を置かれ自分の体がビクンと跳ね上がるのがわかった。
——し、死ぬのか俺は....
「あ、あのおとうっさん」
日本語で言っちゃった...もう命日なのかな
本気でそう思った時だった
「『ありがとう少年』」
「え!?」
肩に置かれていたはずの手は俺を抱きしめて背中を強く押しその逞し過ぎる胸筋と俺の体をサンドイッチするのに一役買っている。
「『な、なんでですか?』」
苦しみに耐えながらそんな声を絞り出せばすっと俺を開放して鋭かった目じりは下がり優しい顔立ちに変わった。
「『あの子は言うところのギャルでね』」
「あ、はい」
何となくお父さんの苦労が見えてきた。
「『私の海外出向で家族で来たのだがずっと落ち込んでいてね』」
「『正直今日の入学式だって無理やり行かせたんだ。 そうすれば早速友達ができったってメールが来てね』」
——まぁ朝のあのテンションを見ればわからなくもない。
「『日本語なんてわからない子に良くしてくれて、うそかと思えばちゃんと入学式で姿を見せてくれて...今はほかの子たちとも仲がよさそうだ』
「あぁ」
「アマナ、スロー」
「ああ、エリオッケー」
「エリナイストゥミ―チュー!!」
「イエェイ!!」
北川雨奈とお仲間であろうギャルと仲良さげに話しているのはおそらく近いものを感じたんだろうな。
——そばに上田さんいるけど混ざるな危険じゃない?
同じジャパニーズのはずなのに髪が青かったり銀色に見えるのは気のせいだよね。
そうだよね。
「『日本の子たちはまじめでいいじゃないか。 お酒を飲んで暴れるやんちゃなのもいないし』」
「『比較対象が無法地帯』」
あまりにもアウトローな生徒と比べられても困るのだが。
流石自由国家アメリカというべきか。
「ハハハハハ!!」
言葉をジョークとでも思ったのか嬉しそうに笑われてしまうが断じて笑わせる気はない。
というか笑えない。
「『よし! 一緒にバーベキューでもしようか!』」
「まじで?」
「『エリ―!!!! そこの子たちも招待してバーべキューだ!!』」
声高らかに言うその声に、エリのやつも嬉しそうに笑って返し片言でギャル軍団にせつめいを始めたが
待ってくれ
——これじゃ優等生じゃなくてパリピだ
俺の想いなんて届くわけもなくお父さんに肩を組まれ凄い力で引きずられる。
ただ俺は見逃さないぞ
「え、エリちゃん私もいいの?」
「YES!!」
エリに誘われた上田さんの姿を
―—エリ!よくやった!
******
いろいろ曲折と予想外の事象が続いたが結果はオーライ。
気になったおとなしそうな子と数名のギャルとのBBQとしゃれこむ
「リツ! どーぞー」
「へぇ、神田って長北だったんだ」
「エリちゃんのパパ焼くのウマ!」
「律、今度どっか行こうよ」
——おかしいなぁ
「『男の子がいるとやっぱりいいわね! それに英語もわかるなんて』」
「『いえいえ』」
俺のグラスにさりげなくジュースを組んでくれる少し年上な金髪お姉さんがおかしいのではない。
——マジで最初姉かと思ったらエリの母親だった。
「『どうだ一杯やるか!』」
「『結構です』」
トングと瓶ビールで完全武装してバーベキューコンロの前で格闘しているお父さんもおかしくはない。
引っ越したばかりの一軒家に、レンガ造りのコンロ常備はアメリカ人のBBQ愛しか感じないが
「律、あげる」
「あ…ピーマンって子供かよ」
すっと俺のさらにピーマンを乗せる雨奈もおかしいが
違う、違うんだよ
——どうしていないんだよ、上田さん!!!
「にげぇ」
——くそ!ピーマンがにげぇ。
でもいいんだ、お母さんが待ってるからゴメンだって。
かわいいじゃないか、凄くまじめでまさに理想的ないい人じゃないか。
ピコン!
ポケットからなった電子音に意識をむければ画面が煌煌と光るスマホがそこにはあった。
『神田君。 よろしくね』
メッセージの上には小沢 佳澄の四文字。
——いいもん! 俺には先生とのこのつながりがある!
ただ悲しいかな、すっと見えたトーク履歴には
『もえちぃ』『ちか』
という明らか自撮りなアイコンが浮かんでいる。
うん、ギャルだね。
——なぁ神様。 俺清楚がすきって言ったやん!
長野県民なのに関西弁使っても今日ぐらいは許してくれ。
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