第3話 入学式
リノリウムの床を踏む音が一つ、また一つと重なり大行進のように地面を鳴らす。
よくあるクラスの名簿を半分で分けた二列編成。
「『ねぇリツ。一緒に腕組んで入る?』」
「『入らん』」
後ろを振り向いて俺をからかってくるエリ。
本来名簿順的には違うのだが先生の計らいで俺の目の前に。
決して俺の身長は高いというわけでもないがそれでも女子よりかはある。
それなのに目の前に顔があるのだから、女子の中では身長はかなり高いのだろう。
それと
「ねぇ、神田。今日ってどんな予定なの?」
「ああ、この後入学式やって、説明聞いて、1時上がりって感じ」
「ん、わかった。」
俺に話しかけてくるのは後ろにいる北川雨奈。
あの後、先生が”この子にも説明お願いね”
そんなことを言ったので今に至るのだが。
ショートヘア―より少し長いくらいの黒髪。ダイヤなのかクリスタルなのかわからいがピアスと、強い印象を受けるまつげ。
なんというか、上田さんもギャル化したらこうなるんかな。
「なに?」
「なんでもない」
少しじっと見過ぎたがそこまで気にした様子はない。
前を向き数人挟んで黙々と歩く上田さんを見る。
お願いだからギャル化しないで。
上田さんに熱い思いを念じつつ歩けば後ろから袖を引かれる。
振り向けば誰か別人に代わっているなんてことはない
「あ、そういえばどこ中?」
「ああ、長北」
「結構遠いね」
「お前は?」
「お前って、雨奈だから。長中」
「なるほど」
ローカルな話なのだがどうやらこいつの出身中学は俺の家と高校の間ぐらいらしい。
ちなみに長は長野の長なのだが人によっては、ちょうなどというやつもいて、略しが統一されてない節もありあまり期待はできない。
「『リツ。わたしにはもう飽きちゃった?日本ギャルの方がいいのかなぁ?』」
「『めんどくさ』」
後ろを振り向いてそんなからかいをしてくるエリに愚痴を吐くもどこ吹く風。
「えっと、律っていうの?」
どうにか滞った会話をまた広げようと声をかけてくる北川。
まぁわかる。最初のうちは少しでも知り合いが多い方が楽だし。
「ああ」
「ふーん、じゃあ私も律って呼ぶね。」
「はいはい」
「ちょっと......LION教えてよ」
そういって、ポケットからスマホを取り出してくる。
流石ギャル。行動力が凄い。
ただ生憎
「もう入場だぞ」
「あ.............あとでね」
大きなホールの入り口につきそのスマホはまたポケットへとしまわれる。
というかさっきまで隣からの視線がヤバかった。
てか隣にいた奴、さっきまでエリにキモがられた奴だったよな。
やだこわい。
式自体は特に面白みもなく終わった。
別に代表挨拶を俺がするわけでもないのでやる気のかけらもない。
ただどうしてもこういうものは、無駄に長いというのがもはや当たり前で暇に暇を重ねる。ちょくちょく暇を持て余した北川と話したり、エリにいたずらされたりとなんとも優等生ムーブから外れてしまったがまぁ最初はいいだろう。
ただ忘れてはいけない。俺は清楚系の子が好きなんだ。だからいたずらさてもドキッと心臓はするが心までは揺れないし、北川との会話に胸がときめくなんて言うこともない。
そしていざ退場というとき俺は目にした。
「ダディ」
そんなエリの言葉も聞こえた。
退場口を囲むような保護者カメラマンの軍勢の中に立つ一人の世紀末覇者。
一眼レフを構えるその腕はワイシャツを押し上げる、金髪ソフトモヒカンのその姿はアジア人の群れの中で異彩を放っていた。
「イエーイ!」
「あ、ちょ」
父親の姿に喜んだのか手を挙げるエリ。それに父親がほほ笑むのがわかったが、掴まれる俺の手。
それを見たときの鋭い眼光。
―あれ、今日まじな厄日じゃね。
俺は身の危険を感じながら教室へ戻った。
「じゃあ律。LION教えてよ」
教室について早々に北川がそういってきたので俺も特に断る必要はなく連絡先を交換する。
「『リツ私も。あとそのギャルちゃんのも欲しい』」
「はいよ、北川。エリがお前の連絡先欲しいいって」
「うそ!私こそだよ」
エリの願いを伝えれば喜んで北川はエリと連絡先を交換する。
まぁこういうところはいいやつなんだな。
「あ、じゃあ私も。神田君交換しよ」
「もちろん。上田さんよろしくね」
「うん」
「あ、私もいい?上田さん?」
「うん。北川さんよろしくね。愛華でいいよ」
「ありがとう!私も雨奈って呼んで」
なんとも数珠つなぎのように連絡先を交換していく。
ありがとう上田さん。絶対ありがとうLION入れます。
流れに身を任せ勢いで、太田や前の席、横の列のやつとも交換する。
そのあとはプリントを大量に持った先生の登場により流れも止められるのだが滑り出しとしてはかなり好感触だ。
「それでは皆さん。来週の月曜日からお願いします。」
そんな典型的な挨拶をされれば今日の全日程は終わった。
まさか、朝の説明をしてくれた人が担任だとは思わなかったが。
小沢 佳澄先生。二年目。24歳黒髪ポニーテール。タイプです!
周囲が帰宅を急いだり、群れを成して話し出すので俺も男たちに近づこうとする。
しかし
「神田君」
「はい?」
先生がこちらに近寄ってくる。
そのポニーテールを揺らしながら。
―かわいい。すごくかわいい。
「はいこれ」
そういって渡されるのは、英字版のプリントと付箋が一枚。
「あとで登録しといてね。リリーさんのこととか何かあったら言ってね」
もう激しく頷いた。
―厄日だと思ったけど最高だ。
英字プリントを隣でスマホをいじっているエリに渡し再度男たちの集まりの方へ行こうとするも、ある程度の集団は消えており一人で暇をしているやつなどに声をかけた。
とりあえずクラスの男子全員は無理だが3分の1ぐらいは間違いなくゲットした。
上田さんの紹介で二人ほど女子の連絡先も知れた。
―上々だな。
後は先生の連絡先を登録。そう思っていたころもありました。
「『リツ―。ダディが呼んでるんだけど。』」
「OH、ジーザス」
どうやら世紀末覇者の目に留まったらしい。
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