おままごと
小さな頃、おままごとが好きだった。幼稚園でも家に帰ってきてからも、おままごとに熱中していた。幼稚園の時には熱心に泥団子を作って提供したりされたり、あの頃の純粋無垢な気持ちはどこに忘れてしまったのかと私は自分に問いかけたくなるが、仕方ない。
情操教育に役立つ遊びであることは確かで、おままごとを否定する気はない。むしろ、おままごとの経験を活かしきれなかった、その後の私が悪い。
あれから二十年弱、長い時間が経った私には、当時どんなおままごとをやっていたのか、あまり思い出すことはできない。あの頃の記憶は、よほど強いものではない限り思い出しにくい。
それでも、私のなかで鮮明なまま思い出すことのできるおままごとがある。
私がそのおままごとに誘われた時、すでにロールプレイングは始まっていた。
「お客さん、いらっしゃい」
女の子――誰だったか忘れたが、確か活発な子だったと思う――は泥団子とプラスチックの器を並べて、両手をパンと叩いた。どうやら、お寿司屋さんのような職人さんらしい。
「えぇと、なにかおまかせで」
「あいよー、たいしょうのおまかせでっ!」
大将の女の子は意気揚々と泥団子を準備する。そのうちに私の隣に男の子が座り「おたがい、たいへんですな」と話しかけてきた。彼はこの店の常連という設定らしい。彼に泥団子が先に提供され、それから私の泥団子が運ばれた。私は常連の男の子ともう少し談笑した後、この泥団子のおすすめポイント――確か、アメリカから取り寄せた美味しいマグロだとか、そんなことを言っていたような気がする――を大将の女の子と話して、口に入れるそぶりをした。
その時だった。
「はぁっ! お客さんが毒で倒れてしまったぁ!」
どうやら私のことらしい。私は素直に目を瞑り倒れると、そこで犯人探しが始まった。
「おかみさんか?」
「わたしじゃないわ」
「わたし、見てたのっ!」
大将の後ろで泥団子を作っていた女の子が声を張り上げた。
「きたみくんはじぶんでどくをいれたのよっ! どしゃあって、どんぶりにっ!」
私はうっすら目を開けて、状況を疑った。私は、謎の自殺を図りに来たお客という設定にされた。その後、私が犯人とされたまま事件は「解決」したらしく、他の子の「よかったねぇ」「それじゃあ、このしたいはどうする?」といった声が聞こえた。
子供というのは時に、面白いものを考えつくものである。いまだにあの時の衝撃は忘れられない。誰も犯人にしたくなかったのか、だれも否定したからこその苦肉の策だったのか、その後彼女に訊いたかどうかさえも覚えていない。
やはり子供の想像力は固定観念に縛られた大人には思いつくことができないような大胆かつ斬新なアイデアに溢れている。
あの時の発想力を超えようと努力はしているつもりではあるが、大人になるにつれてあの子の背中は遠くなる。つくづく、年は取りたくないものだな、と思う。
私は、ヴァンパイアになりたかった。 北見 柊吾 @dollar-cat
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