◯◯◯の災難

「はぁ~……」

「どうしたヒロシ、朝っぱらからため息なんて」


 昨夜このゲームの登場人物について纏めていた訳だが、その後目がさえて眠れなかった。

 そして今朝、地獄の目覚ましなる妹の突撃を受けたのだ。

 そこからは満身創痍で学校へ。

 そして、今に至る。


「ということがあったんだよ」

「だったら筋トレすればいいじゃないか! ほら見ろこの腹筋!」


 妹の柔らかな肌を受けた後に見るキオの体は地獄だ、と悪態を突こうと思ったが。

 キオの上裸はめちゃめちゃ神々しい。

 痺れるようなシックスパック、はち切れそうな大胸筋。

 俺のラブコメにこいつは必要なのか。


「わかったから服着ろ。俺は忙しいんだ」

「なんかあるのか?」

「まあいろいろな」

「教えてくれよ、友達だろ?」


 友達の押し売りは止めてくれ。

 思わず素がでそうになるが、新たな人生までもぶち壊す訳にはいかない。

 ここは冷静に。


「実は俺、妹にガチ恋したんだ」


 言ってみて自分で思った。

 この先ずっとシスコンキャラを突き通すのは無理だ。

 流石にこれには常に笑顔のキオもドン引きか?


「そりゃいいな! 応援するぜ!」


 ただのいいやつだった。

 これからも仲良くしていこうと思う。

 俺の悩みが聞けて満足したのか、キオは鼻歌混じりに自席へと戻っていった。

 そして、今日も始業の鐘が鳴る。


「またこっち見てる」


 日に照らされ、はっきり浮かぶマナの横顔。

 そして、相変わらず素っ気ない言葉。

 やはりこの女の子には掴み所が無い。

 だが、物は試しだろう。


「どうしてそんなに素っ気ないんだ?」


 マナは考え込む素振りをした。


「……素っ気ないかな?」


 そこにすら気づいていなかったか。

 天然という情報を付け足しておこう。

 それなら俺にも考えがある。


「俺もっと式神さんと話したい。だから今日の業後、開けといてくれ」

「どうして?」

「モールに遊びに行こう」

「いいよ。でもそっちじゃなくて」


 えーと、それはデートの誘いを承諾したということでいいのか。

 その話を二の次にされたのは少し悲しいが。

 マナは表情の無い顔を保ち、続けた。


「どうして私と話したいの?」


 どうしてと問われると答えは単純。

 早くゲームの世界を脱出したいからだ。

 だが、そんな不純な動機で仲良くなれるとは思っていない。


「友達になりたいからかな」


 だからこんな曖昧な返事がでてしまうのか。

 でもまあ流石に二人というのはマナも恥ずかしいだろうし、何より俺が会話を続けられるか心配だから誰か連れていこう。



――そして業後のモールに、四人の高校生が集まった。


「みんな、来てくれてありがとう」

「うん」

「友達の頼みとあれば、当然だぜ!」

「なんでわたくしまで呼ばれているんですの!?」

「それでもちゃんと来てくれるんですね」

「当然でしょう? あなたやこの筋肉ゴリラからマナさんを守る為ですわ」

「ん? 筋肉ゴリラって俺のことか?」

「だ、だったらなんですの。暴力はいけませんですわよ!」

「お前も筋肉好きなのか! 俺はキオ、仲良くしようぜ!」

「話を聞いてない……って先輩ですのよ!?」


 マナはクラスに友達がいない。

 だから部活のやつなら、と思ったんだが。

 みんな「話しにくい」の一点張りだ。

 何故だか知らないが、マナの信者となっているフウナなら、と思って呼んだら本当に来るとは。

 ちなみにキオは二つ返事で着いてきた。


 正直俺も友達と出掛けるのは小学生以来だが、内心楽しみでもあるな。

 それでもマナの表情は変わらなかった。


『友達とおでかけ楽しそうだね~。制服じゃ物足りないし、休みの日にすればよかったのに』


 今日は朝から見ないと思ったが。

 死角にいただけだったみたいだ。


「まあ、私服が見たい気持ちはある。でも土曜日まで待ちきれなくてな」

『なんで? あと三日だよ?』

「まだこの世界に馴染めてないんだよ。それで察してくれ」


 つまりは、そこまで考えてなかったということ。


「最近治安も悪いし、明るい内に色々回るとするか」

「何を見に来たんですの?」

「ん、まぁ、服とかな」

「丁度いい! タンクトップが昨日破れたばかりなんだ!」

「聞いてないですわ!」


 この二人、意外と相性がいいんじゃないか?

 マナへと視線を向けるが、やはり無表情。

 まるで何を考えているか読めないな。

 後で本当の目的をこっそりフウナに伝えるか。



――俺たちはモールに入ると、買い物を楽しんだ。

 マナも少し心を開いたようで、少しずつ会話に入ってこられるようになった。

 やはりフウナに伝えた、「マナとお友達作戦」が効いたらしい。

 キオもマナやフウナに積極的に話しかけていた。

 またこの面子で集まりたい。

 本気でそう思えた。



――ヒロシ君と筋肉君と別れた私は、先輩と帰路を共にした。

 日が落ちてしまい、すっかり暗くなった夜道。

 モールから家まではそこまで遠くないことが救いかな。


「今日は楽しかったですわね」

「そうですね」

「あ! また行きたいと思いません? 今度は二人っきりで……」

「そうですね」


 フウナ先輩が口をつぐんでいる。

 どうしてだろう?

 私はちゃんと話せているはず。


「じ、じゃあわたくしはこっちですので……」


 あれからあまり言葉を交わさず、フウナ先輩と別れた。

 今日のおでかけ、みんな楽しそうだった。

 どうしたらあの輪に入ることができるんだろう。

 考えても、わからないよ。


「っ! やめっやめてっ! 放してっ!」

「そいつは無理だな。じゃあおやすみー」

「あっ……!」


 突然裏路地から聞こえる少女の悲痛な叫び、そして男の人の声。

 本当は関わらない方がいいんだろうけど、一度聞こえちゃったら当事者同然だよね。


「そこで、何してるの」



――思ったより帰宅が遅くなった俺は、現在進行形でソウカに絞られていた。


「どうしてこんなに遅くまで出歩いているんですか! もし悪い人に捕まったらどうするつもりですか!?」


 エプロン姿でお玉を振りかぶるソウカ、怖ええ。

 それが振り下ろされて頭にでも当たったら、間違いなく頭蓋骨が粉砕するだろう。

 だがそれよりもこの家には、何か違和感があるな。


「それについては反省してます……それより、ミナトは帰ってないのか?」

「それよりって……まあいいでしょう、ミナトなら友達の所に数日間泊まるってリーンが来てましたよ」


 なるほど、違和感の正体はそれか。

 いつも騒がしい妹がいないとこの家はとても静かだ。

 明日は気分よく起きることができる。



――そう思っていた。


「遅刻だぁぁぁぁ!」


 目覚ましをさっさと止めてしまった俺は、自然と何の前触れもなく起床した。

 当然気分は良く爽快だったが、時計の秒針は始業の10分前、8時50分を指していた。


「お、おいソウカ起きろ! 遅刻するぞ!」

「うん……? 私のことはお姉さんと……」

「言ってる場合か!」


 そして、現在に至る。

 春風に揺られ、俺とソウカは片道歩いて約20分かかる距離を全力で走る。

 元の俺は運動がからっきしだったが、今の俺はどうやら体力も筋力もあるらしい。

 このほっそい体のどこに隠れているのか疑問だが。


「もう駄目です、後は頑張ってください」

「馬鹿! 諦めるな! ゴールはもう少しだぞ!」

「でももう足が」

「だったら俺が抱えていってやる!」


 俺は後を走るソウカの方へと戻り、鞄を彼女に預けてお姫様抱っこをする。

 身長は高い方だと思うが、女の子の体は意外と軽いな。


「……ありがとうございます」


 てっきり「触らないでください汚らわしい」という感じで、罵倒を浴びせられるなと思った。

 やはり先入観というものは怖いな。


 まあ結局、二人とも遅刻したんだが。

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ハッピーエンド到達確率が0.1%しかない恋愛ゲームの主人公になりました。 一愛 @ai3

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