ボッチなクラスメイトその3
「式神さん、今日の朝食なに食べた?」
「パンと牛乳」
「刑事ドラマみたいだね。昨日の夜は?」
「たまごかけご飯」
「いつでも美味しいTKG」
『どうしてご飯に限るのさ』
「他に聞くこと無いからだ」
いちいち会話に入ってくるなよ悪猫め。
本当は俺も、普通の会話がしたいんだ。
お互い話が苦手だし、サーブレシーブで即終了。
「よし、次だ!」
どんなに相手が堅くても、気持ちはきっと伝わるさ。
そう言い聞かせ続けたが、俺とマナの距離が縮まることはなかった。
「やっぱり、授業中じゃ難しいか」
『試せるものは試す。いくらフウナちゃんに邪魔されても、それを回避することが大事だよ』
「たまには良いこと言うじゃん」
ヘルプはえっへん、と鼻を鳴らした。
幸い今日も晴れだし部活に着いてくか?
入部を視野にいれてもいい。
『あ、待ってヒロシ。君は永遠の帰宅部だから入部は無しで』
「誰が決めたよその地獄」
いや、天国か。
ゲームが家にあったらの話だけど。
――そうこうしている間に、終業の鐘がなった。
1日とは長い反面、恐ろしく早く過ぎる物なのだ。
「今日も二人は来るのか?」
『答えられる訳ないでしょ。未来のことまで教えたら、それこそ意味が無いからね』
「いやまてお前、冬に分岐とか言ったよな」
『全然覚えていませ~ん』
本当、気まぐれなやつだよな。
多くがそそくさと帰る中、俺は座ってマナの行動を注視する。
「なに見てるの?」
マナは俺の目に気づいたようで、用具を片付ける手は止めずに声だけで問う。
肘で頭を支えて真横から見てればそりゃ気づくよな。
「毎日部活忙しそうだな、と思って」
「うん。まあ」
「毎日同じことの繰り返しで、楽しいのか?」
「……全然」
マナはラケットを詰めたリュックを背負うと、足早に教室を飛び出していった。
去り際に淡いピンクのショートカットが風に揺れ、どこか暗い表情が俺の胸を刺激した。
「なあヘルプ。あいつ、本当は」
『その理由を突き止めたらいいんじゃない?』
やっと少し、前に進めた気がした。
――結局この日はミナトとソウカは現れず、仕方なくキオと一緒に帰った。
筋肉の話が多かったが、それでもマナよりは会話できたはず。
あとこのゴリラのような見た目で帰宅部だったことも驚きだ。
本人いわく「筋肉は愛人」らしく、女性に興味も無いらしい。
……変な友を持ったものだ。
「ただいま」
家に帰ると、既にリビングの電気が付いていた。
だが、返ってきたのは冷ややかな声だけ。
「お帰りなさい。今日は随分早いんですね」
「まあ、何も無かったからな。ミナトは一緒じゃないのか?」
「ミナトなら友人と近くのショッピングモールに行きました」
「そうか」
「なんでしょう?」
「いや、呼んでない」
最後の下り、めんどくさいな。
いつか対策を考えなければ。
それにしても、ショッピングモールか。
ここでならいろんなイベントを起こせそうな気がする。
夜はこれまでの情報について纏めるとしよう、とりあえず今は夕飯を作るソウカの手伝いだ。
俺は部屋に戻って部屋着に着替え、再びキッチンへ向かった。
「手伝うよ」
「貴方は料理が出来ないんですからそちらで座っていてください」
グサッ。
確かにできないことは認めるが、今回はまだ料理してないからな?
「そ、そういう訳にはいかない。少しでもソウカの負担を減らしたいし」
「……可愛げがないですね。これからお姉ちゃんと呼んでください」
それは恥ずかしい。
だが、そうすればさっきの悩みも解決できるな。
「じゃあ、おね……様」
「自ら様を付けるとは、ヒロシはマゾなのですか?」
「全然その気はないからな」
その後は、共に調理を楽しんだ。
内容は昨日残ったカレーを使った炒飯だ。
俺が包丁を持てば、
「指を切らないように気をつけてください」
コンロに火を着ければ、
「熱いですよ、少し離れて」
冷蔵庫を開ければ、
「凍えないように暖かい格好を!」
包丁とコンロはわかるが、冷蔵庫を開けただけで心配されたのは初めてだぞ。
凛とした容姿に反して、意外と心配性……基い家族思いな所があるじゃないか。
日が隠れ、月明かりが闇夜を照らし始めた所でミナトが帰宅した。
「たっだいまー! この臭いは……カレーを使った炒飯!」
犬か。
そこまで正確な嗅覚をどこで身につけたのか気になる所だ。
ミナトは洗面台へ向かうと、手を洗ってリビングへ戻ってきた。
そこからはテレビを点け、共に食事を楽しんだ。
「そういえばさっき、モールで泥棒がでたんだって。警備の人が慌てて走ってくのを見た!」
「へーそうなんだ。ここにも泥棒っているんだな」
「泥棒くらいどこにでもいるでしょう。気持ちはわかりますよ」
「わかっちゃ駄目じゃない?」
ソウカは意外と危ないやつなのかもな。
「それにね、ずっと欲しかったキーホルダーを見つけたの! 今日は一緒に行った子がお金足りなくって買えなかったから、明日また買うことにした!」
「それはよかったですね。ですが、少し帰りが遅いですよ。悪い人に捕まったらどうするんですか」
「大丈夫だよー! この辺は治安良いし!」
「さっき泥棒がどうとか言ってなかったか」
俺を後押しするように、テレビの音声が会話に入る。
「次のニュースです。近頃、相沢町で女児が相次いで消息を絶っています。詳しい情報はまだ入ってきていませんが、夜道や人目の付かない所を一人で歩く際は十分に気をつけてください」
「……相沢町ってこの辺ですね」
「そうなのか」
俺とソウカが同時にミナトを見る。
さっきまでの元気は無く、彼女の額からは一筋の汗が垂れていた。
「ま、まあ大丈夫だって。モールに行くのは明日だけだし、二人で行く訳だし……」
完全に力が抜けてる感じだな。
まあそこまで心配する必要は無いと思うが。
消沈したミナトを他所に、ソウカはさっさと片付けを始めた。
「すまんソウ……お姉様、先戻るぞ」
「えっ何その呼び方! 私も呼ぼうかな?」
「やめた方がいいぞ」
「やめてください」
一度息を吹き還したが再び消沈するミナト。
俺は二人を尻目に、さっさと部屋に戻った。
「さて、現在の登場人物だが」
これまで話した人達をノートに書き連ねる。
淡い桃色の髪色でショートカット、会話が続かない。天然にも見える。
何故兄妹でこんなに髪色が違うのかは不明だが、金髪ツインテールの少女。基本明るいが、駄々を捏ねると面倒。
厳しい性格と思っていたがそうではなく、家族思いで料理が得意。
鋭い目付きに肩まで伸ばした紺色の髪は凛という言葉がよく似合う。
フウナとキオは後日だ、まだわからないことが多い。
次に、自分の情報について。
湊川ヒロシ、16歳。
確か誕生日は7月7日(ドラマチックだな)、住んでいる所は相沢町というらしい。
日本かどうか怪しいが、関東にそんなような所があったはず……うろ覚えだが。
そして、今日の日付は5月18日とカレンダーが示している。
風当たりのいい二階の部屋でゲームの無い地獄の生活をしている可哀想な高校生だ。
あ、学校の名前がわからない。
明日またいろいろ調べる必要があるな。
『何事も無ければね』
いちいち念押しするのは悪い癖だな。
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