異世界生活はプ女子と共に

まさ☆まさお

第1話 始まりはプロレス観戦の帰り道

「タイトルマッチはチャンピオンが12度目の防衛に成功しました!!」


リングアナウンサーの絶叫とも取れる大声が木霊し、それに観客が応え、歓声が地を揺らし、熱気が篭もる会場の中、俺と彼女もまた、周りと同じ様に大声を上げている。


場所はプロレスの聖地である、東京は後楽園ホール。


若き天才と呼ばれるチャンピオンと、エースと称される選手で行われるタイトルマッチの観戦の為に俺と彼女は訪れた。


右手に選手の名前がプリントされたうちわを握り、左手には選手を模したぬいぐるみがあり、それを胸に抱き、選手の名前が入ったTシャツを身に纏って興奮しながら絶叫しているのは、俺の彼女である『桜川 千夏』、高校1年生のプロレス大好きな女子所謂『プ女子』と言うやつである。


同年代の女子よりも長身な彼女であるが、ガチムチと言う訳でもなく、あどけなさを残した整った顔立ちは、彼氏の俺の贔屓目無しに可愛い女の子だと思う。


そんな可愛い彼女の趣味は前述の通り、プロレス観戦である。


そして、彼女は真面目なのか、そうでないのかは分からないが、プロレス技の研究も趣味のひとつであったりする。もちろん、研究の犠牲になるのは俺だ。


彼女は決してプロレスラーの様にガチムチのマッチョではないが、プロレス技の研究の為に筋トレをしているので、長身なのも相まって、見た目は守ってあげたくなる小動物系なんかではない。


金の雨を降らせるのだったり、スペイン語で『運命』を意味するのだったり、(お手製ではあるが)

トップロープから屈伸しながら飛び込んでくる奴だったり、担ぎあげられた後、どう受け身を取ればいいのかわからんほど回されながら投げつけられる奴だったりと本当に色んなのの実験に付き合わされた。


……よく大した怪我もなく生きているものだ。


プロレス観戦の帰り道、興奮冷めやらぬ感じの彼女と、これまた興奮冷めやらぬ感じの群衆の中を進み、会場を抜けた所で唐突に意識が刈り取られた。


どれくらい意識を失っていたのだろうか。


気が付けば、目の前は真っ暗だった。


闇である。もう、暗闇。


言葉を発さずに周りを見渡すが、やっばり見えない。


ただ、すぐ近くから『すぅ……すぅ……』と、寝息らしき音が聞こえてくる。


目隠しでもされているのかと、目の辺りに手をやってみるが、何かを付けられて視界が遮られている訳ではなさそうだ。


冷静に、冷静にと、手が動く事も分かったので、ズボンのポケットに手をやり、ある物を取り出す。


文明の利器、スマホである。


我が身に何が起きたかは全くわからない為、通話・通信が出来る保証は全くないが、懐中電灯代わりにはなるだろうと考えてのことだ。ちなみに、手動の充電器もカバンに入っている。


ポケットから取り出し、顔の前まで持って来ると画面が明るく光った。どうやら、センサーは無事らしい。


ディスプレイをタッチし、懐中電灯ボタンを押すと、眩しい光を灯し出す。LED万歳。


で、寝息の聞こえる方にライトを向けると、そこには一緒にプロレス観戦を楽しんだ我が彼女の姿があった。


が、周りから他の寝息や声なんかは聞こえて来ないし、ライトで照らしてみても俺と彼女以外の姿はない。


とりあえず、彼女を起こそうと俺は寝息を立てる彼女へと近づき、声を掛ける。


「……おーい。起きろ」


返事はなく、すぅすぅと寝息が聞こえてきた。

寝息では気づかなかったが、声が反響している。穴にでも落ちたか?


それを何度か繰り返し、身体を揺さぶってみても起きなかったので、最終手段に。


スマホのライトで彼女の顔を照らし、位置を確認した後、睫毛に指で触れる。


これで大抵の人は目を覚ます。


「……んあ?」


すると、見た目可愛い彼女に似つかわしくない間抜けな声を漏らした。


どうやら無事、目を覚ました様である。


「お。起きたみたいだな。おはようさん」


「……んー。おはよ。なんで真っ暗なの?ここどこ?水道橋駅?停電?」


「いや、知らん。お前とプロレス観に行った帰り道だったよな?穴にでも落ちた?」


目覚めの挨拶のあとに、現状確認してみる。


「んー。そんな記憶はないかなぁ」


「だよなぁ。上を見上げても空とか見えないもんな」


なら、ここはどこだ?


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