6 We are Flying Human, but...


 2020年の夏。僕らは決めた。「この2年4組に、《飛行人》はいない」と。

 みんなで《脱・飛行人宣言》をし、飛ばないことを心に決め、誓った。

 これで誰も責められない。誰も非難されない。


 僕はいつものように、起きて学校に行き、授業を受け、友達と遊び、家族と一緒に食事を囲んで、普通の会話を楽しんでいる。もちろん飛ぶことも辞めた。でもたまに、麻婆豆腐が食卓に上がる日だけは、空を飛ぶ感覚を思い出す。あのイタリア人の顔も。


 「人が空を飛ぶ」。それは間違いなく、人類にとっての「新しい時代」の幕開けだった。しかし、手塚治虫がSFで描いたような近未来が訪れることはなく、世界から急速に《Flying Human》は姿を消していった。

 

 人類はみんな、《飛ぶ力》を失ってしまったのだろうか?

 

 いや、そうではない。みんな飛ぶことを辞めてしまったんだ。

 世界中の科学者たちが《Flying Human》の謎の解明に挑み続けているらしいが、結局未だにピントは合わないまま。「新しい時代」は確かに来た。でもそれはすぐに見えない形となって、姿を潜めたまま定着している。




 2020年の僕らは知っている。


 僕らは《Flying Human》だ。

 

 だけども、人間だ。










 リビングの床には、ガン太があの日のように涼しげな顔で、ウトウト眠っていた。頭をそっと撫でると、眠たそうな瞳で僕を見つめた。




そして、ガン太はフワリと浮いて見せた——



         (完)

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『飛行人』~Flying Human~ 廣木烏里 @hsato

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