5 2年4組


 「2年4組に、《飛行人》がいる」

 「このクラスに《飛行人》がいるってマジ?」

 「見たの?」

 「誰?」

 「怖っ! ヒコウ人」

 「ちょっと、やめなよ〜」

 「名乗り出ろよ! 優しくするから〜」

 「誰?」


 放課後、2年4組の僕らはみんなで教室に残り、《飛行人》探しをすることになった。

 外はまだ日差しが強く、暑さは和らぐことを知らない。


 「僕が《飛行人》だ」。今そう公表したならば、あのイタリア人と同じ末路を辿ることになるかも知れない。

 彼の最後の言葉の意味は、Google翻訳が教えてくれた。



  Odio vivere. ——私は生きることが嫌になりました

  Sei ancora giovan.  ——あなたはまだ若い

  Per favore, vivi!  ——生きてください


  addio  ——さようなら



 そう言って天高く消えていったのだ。


 「ねぇ、誰?」

 「…もうやめようよ〜」

 「誰なんだよ!」


 だけど僕一人のせいで、クラスがめちゃくちゃになってしまうのは嫌だ。疑念は疑念を増幅させる呪いのようなものだ。だったら、その疑念を晴らすしか他はない。僕は、勇気を振り絞って口を開いた。


 「僕(私)なんだ(なんです)」


 口を開いたのは、僕だけじゃなくもう一人いた。


 「えっ?(うそっ!)」


 手を挙げているのは、僕と関谷リン。関谷は、女子バスケ部のエースで学校のアイドル的存在の美少女だ。校外にファンクラブもあるくらい。


 「え?マジかよ…」

 「リン、嘘でしょ?」

 「あのリンちゃんが…」


 「やばい。僕よりも関谷に注目が集まってしまった」。そう思っていた矢先…


 「実は、私もなんだ…」

 「俺もだ」

 「シズカも」

 「僕も」

 「私も!」


 次々と手が挙がっていくのが見えた。


 「俺もなんだ」

 「すまん!」

 「ごめんなさい…」


 気がつけば、クラスの8割が手を上げていた。


 足元を見ると、手を挙げているみんなはフワリと浮いていた——



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