夜の騎士 光の姫

牛☆大権現

night of knight

「一国の姫様が、護衛も連れず夜歩きしてるなんてな」


「怖いお兄さん達に酷い目に合わされるとは、思わなかったのかな? 」


 国民の殆どが寝静まった深夜、きらびやかな装束を身にまとった姫が、男達に囲まれていた。

 絶体絶命ぜったいぜつめいの状況にも関わらず、彼女は何ら動揺していないように見える。


「護衛なら、いますわ。一軍にも勝る、頼もしい方が」


 月の光が、屋根上から飛び出してきた男のマントに遮られ、姫を囲んでいた男達は視界を失った。

 その一瞬の隙を突き、男はサーベルで男達のベルトを破壊する。


「night of knight、参上致しました。姫様、ご無事でしょうか? 」


「ご苦労様です、我が最高の騎士よ」


 囲んでいた男の1人が、突然現れた男に攻撃を仕掛けようとして、自らのズボンに足を引っ掛けてつんのめる。


「あなた達も、一応は国民ですので今回は警告で済ませます。ですが、まだ姫様を襲うつもりならば、首を落としますよ」


 騎士は右手を伸ばし、集団の頭となっている男の首にサーベルの先端を向ける。

 男達は、負け惜しみを言いながら退散していく。


 それを見送って、騎士はサーベルを鞘に収める。


「先程の登場は格好良かったですよ! 」


「お褒め頂き恐縮です。それよりも、先程のような輩に絡まれる前に、急ぎましょう」


 一方、逃げたチンピラ達は、寂れた酒場に逃げ込んでいた。

 そして、フードを目深に被った人物に、ヘコヘコ頭を下げている。


「旦那ぁ、お姫様の誘拐ゆうかい失敗しちやした。あんな強い護衛がいるなんて、聞いてませんでしたぜ」


「……しょせん、チンピラごときでは役に立たねぇか」


 フードを目深に被った謎の人物の背中から、漆黒の翼が生えて、チンピラ達を一閃する。

 この人物こそは魔族まぞく、この国の姫が参加する極秘会談の情報を掴み、その妨害にやって来た刺客しかくだ。

 切断されたチンピラの上体から、滴る血を飲み干して、その人物は言い放つ。


「まあ良い、俺が直々にやってやる」


 騎士と姫は、郊外に作られた小さな建物、その入り口に到着した。


「姫様、気を付けてください」


「万が一の時は、頼みますよ」


 2人は、その内部に足を踏み入れる。


「遅くなってすみません。公国の第一王女、到着いたしました」


「会談の時刻はとっくに過ぎてんぞ、私達が少数種族だからって舐めてんのか? 」


 猫人族(頭に猫耳を生やした種族)の女が、威圧するように姫に声をかける。

 この場は、夜行性の亜人種あじんしゅと"公国"との会談の場、彼女もその代表の1人だ。


「申し訳ありません。今後はこういった事がないよう、気を付けます」


「全く、こんなんじゃ対魔族のリーダーを、あんた達に任せるのが不安でならないね」


 猫人族の女は、机に足をおいて、姫を挑発している。

 姫は、女の態度に顔をしかめつつも、挑発には乗らないでいた。


「我々には、魔族との戦闘を何度も経験してきた実績じっせきがあります。そのノウハウを共有する準備もあります」


 他幾つかの亜人種の代表は、沈黙を守っている。

 姫は、話を続ける。


「ただし、それには皆様に我々と協力して頂く事が条件です。バラバラに戦っても、魔族の脅威を退けることは出来ないからです」


「……それだけか? 他に私達へのメリットは? 」


「魔族の領土を奪えた暁には、皆様に分配する事を約束します」


 分配という言葉を聞いて、全員の重心が僅かに前に寄せられる。

 その反応を見て、交渉の成立を確信した姫だったが……


「悪いが、それは絵に描いた餅になる。なんせ、てめえら皆ここで死んじまうからな! 」


 その台詞が聞こえるや否や、姫に飛びかかり身を伏せさせる騎士。

 その直後に感じた、突風と生暖かい液体。


「ち、何人か仕留め損ねたか」


 チンピラ達を消しかけたあの魔族が、会談の種族の1人に紛れて、潜んでいたのだ。

 そして、チンピラ達を殺したのと同じ羽の攻撃で、全員を暗殺しにかかった。

 しかし、勘や目の良い何名かは、その攻撃を回避し、反撃の機を伺っていた。


「姫様へご無礼を働いた罪、その身で購って貰いましょう、魔族」


 頭に血が昇っている種族の各代表を抑えて、騎士が前に出た。


「いいね、あんたはこの中で一番反応が良かった。少しは楽しめそうだ! 」


 魔族は、口角を持ち上げて、机の上に乗っかって名乗りを上げる。


「俺は魔王様の刺客が1人、ソリティス! これからてめぇを殺す者の名だ」


「我こそはnight of knight! 闇から襲う刃より姫様を守る、1人の騎士なり」


 名乗りの後、静寂が訪れる。

 互いに間合いを計りながら、攻撃の隙を伺っている為だ。


 最初に動いたのは、魔族の方だ。

 身体を捻り、右の翼を打つ。


 対する騎士は、下に打ち落として、翼を外す。

 あわよくば切り落とすつもりで振るったが、魔族の翼は頑強で、一度では切り落とせない。


 騎士が踏み込む前に、左の翼による二撃目が来る。

 これは、剣で受け止めガードする。

 ダメージにはならないが、踏ん張って耐えたので、間合いを詰めることが出来ない。


「中々しぶといが、生憎俺の方が間合いが遠い。このままなぶり殺しといこうか! 」


 今度は逆回転、右回りに身体を捻って、左の翼を打つ。

 先程と同じく、下に打ち落とし翼を外す騎士。

 そして、打ち落とした翼を踏みつけて、回転を停止させる。


 二撃目の翼が、騎士に当たる直前で威力を失った。

 それを確認せず、翼の上を駆け抜けて、一気に間合いを詰める!


 魔族は防御しようとするものの、身体を捻った体勢ではそれもままならない。

 魔族の腕をすり抜けて、サーベルの先端が首に突き込まれた。


 悔しそうな顔のまま、魔族はその生涯を終える。


「中々すばしっこいじゃねぇの、あんたの騎士。うちの若いやつらにも見習わせたいねえ」


 猫人族の女が、フレンドリーに話かけてくる。


「その騎士さんに免じて、あんた達との共闘前向きに検討してやるよ。」


「今回は、こんな事になってしまいすみません。補償や次回会談のお願い等は、後日改めてお知らせします」


 騎士の手を取り、姫は会談場を出ていく。

 戦争はまだ、始まってもいないのだ。



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夜の騎士 光の姫 牛☆大権現 @gyustar1997

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