第104話 手書き

 毛筆で書く学習は、中学三年まで。高校では芸術科書道という選択科目になる。義務教育で習い覚えた知識や技能が、日常生活で生かされることになる。だが、本当に役立っているのだろうか。

 毛筆で書く機会そのものが、ほとんどない。硬筆での手書きも、スマホやパソコンの普及に伴い少なくなった。スーパーの売り場等で見かける「ポップ」の文字は、授業で習う整った楷書とは程遠い。

 毛筆で大きく書いて硬筆に生かすのが、今の学習指導要領の考え方だ。だが硬筆の手書きが少なくなった今、学校で手書きについて学ぶ意義はなくなりつつある。積極的に学ぶ子どもは、決して多くはない。

 一方、習い事としての書道教室は健在だ。子どもの習い事ランキングでは、珠算と並んで毎年上位に入る。姿勢が良くなり集中力がつくこと、文字がきれいに書けると自信がつくなどが理由だという。

 学校での「書写」と習い事の「習字」は違う。限られた授業時間の「書写」より、時間をかけて練習する「習字」の方が、技能的な向上の「効果」がある。では「書写」に「効果」はないのか。

 限られた授業時間で技能は伸ばせない。伸ばすのは、毛筆の学びを硬筆に生かす「知識」だ。整えて書くための「知識」があれば、キャッシュカード決済でのサインにも自信がつくだろう。サインは「手書き」である。

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