第105話 和製漢語

 中国の正式名称は、中華人民共和国。この国名のほとんどは、日本製である。「人民」も「共和」も中国語にはなかった。後に日本人が作ったのだ。英語名「チャイナ」は漢字で「支那」。通時的な呼称である。

 和製漢語は、日本で日本人によって作られた漢語。この意味する範囲は論者によってさまざまであり、統一見解はない。明治維新以後、中国人留学生の手で、これら和製漢語の多くが中国に逆輸入された。

 逆輸入された和製漢語は八百を超えたという。この逆輸入には賛否両論があった。賛成に対して、反対はかなり強烈だったと聞く。文化的な弟分・日本からの逆輸入は、兄の国のプライドを傷つけたのかもしれない。

 孫文、魯迅、毛沢東などは賛成派。逆に明治期に日本に留学していた彭文祖は、強烈な反対派。中国人が日本製の新語を使うこと自体が「恥知らず」で「亡国滅族」だとした。文化の「兄」としての強烈なプライドだ。

 結果として、賛成派の孫文や毛沢東が、今の中国を作ってきた。漢字の造語力を生かし中国語の文法を生かして作られた和製漢語は、中国語の語彙を増やした。増えた語彙は、政治・思想・学問の進歩を助けてきた。

 日本人が漢字の造語力を生かしたのは明治まで。現代の日本人は、漢字よりカタカナに頼る。カタカナに造語力はない。「クールジャパン」が「クール」なまま、冷え込んでいく虞(おそれ)もありそうだ。

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