第81話 樹
日本の山には、木が生えている。同じ木がたくさんあれば「林」といい、複数の種類の木があれば「森」という。木の中でも、大きなものを「樹」という。もともとは、直立した木という意味らしい。
大樹には、神が宿るといわれた。神社に植えられた大樹は、樹齢何百年かで神木(しんぼく)と呼ばれる。何百年といったが、屋久島の縄文杉に至っては、樹齢七千年と聞く。スケールが大きすぎて、想像もつかない。
山に生えている木も、いつか「樹」になって神さまと呼ばれるのだろう。見上げる人の生き死にを見続けて、黙ってどっしり立っている「樹」には、何か寄りかかりたい安心感がある。
そんなイメージに惹かれ、半紙や色紙に「樹」一字を書いてきた。なかなか納得がいかない。真言宗の開祖・空海は、唐の皇帝に請われて「樹」の字を大書したというが、凡夫の身にそんな境涯は望めない。
以前、知人に頼まれて、色紙に「樹」と書いた。近所の神社にあるクスノキの大木をイメージした作品。知人から「この樹は、クスノキでしょう」と言われて、嬉しかったことを覚えている。
山にたくさん木が生えているように、部屋にも「樹」と書いた反故紙がたくさん散らばっている。いつか神さまの宿る「樹」は書けるのだろうか。それこそ「神のみぞ知る」話である。
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