第80話 裁く

 日本の首相が靖国神社に参拝すると、中国や韓国が必ず反発する。一九八五年、某新聞が「侵略戦争を反省していない」と論陣を張って以来、おなじみのことだ。米国が遺憾の意を表明したこともある。

 日本だけが取り沙汰されるのは、「A級戦犯」のためである。A級戦犯とは、極東国際軍事裁判(通称『東京裁判』)において、国際法上の「平和に対する罪」と「人道に対する罪」に問われた戦争犯罪人を指す。

 一九七八年、靖国神社を焼き払うべきかどうかで結論の出せなかったGHQは、ローマ教皇庁に相談した。回答は「いかなる国家も、その国家のために死んだ戦士に対して、敬意を払う権利と義務がある。」。

 ローマ教皇庁の回答で焼き払うことを免れた靖国神社には、戦犯かどうかを問わず、全ての戦没者が合祀された。その回答に先立つ一九七五年には、真言宗の僧侶・仲田順和が戦犯へのミサを依頼している。

 当時の教皇パウロ6世の没後、一九八〇年五月二十一日、教皇ヨハネ・パウロ2世が遺志を引き継ぎ、ミサが行われた。A級戦犯・BC級戦犯一〇六八柱の位牌が、サン・ピエトロ大聖堂に奉納されている。

 バチカン市国のリーダーでもあったヨハネ・パウロ2世は、死後最速で、「聖者」に列せられている。よもや戦争を肯定してミサをしたとは思えない。生者は死者を裁けない。できるのは、冥福を祈ることだけである。

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