第82話 なるほど

 職場の若い世代が、ずいぶん素直になってきた。でも、素直な返事にかえってモヤモヤする。事務的な連絡はまだしも、世間話の最中で頻繁に聞こえてくる「なるほど」という言葉が嫌なのだ。なぜだろう。

 社会人になったばかりの自分を振り返ったとき、めったに使わなかった言葉が「なるほど」だったような気がする。言ったとたんに「どこまで『分かって』言ってるんだ?」と聞かれ困った経験しかない。

 職場の先輩の言葉には、「はい」か「ありがとうございます」しか言えなかった。助言の言葉が理解できたかどうかすら自信もなかったし、質問しようものなら「今、言ったばかりだよね」と突き放されるのが関の山。

 新人は、仕事の足手まといにしかならないのが当時の常識。給料をもらうのも申し訳なかった。だが今は、そんな指摘をすること自体「パワハラ」と言われる。法的に認められた給料は、労働の対価であり権利なのだ。

 自分が新人だった頃、つたない意見を聞いてくれた先輩の返事が「なるほど」だった。その言葉に続けて使われた言葉が「でもね」や「しかし」。「なるほど」は、反論の前置きでしかなかった。

 若い世代の「なるほど」に、悪気はないと信じたい。だが「なるほど」と答えた彼らの理解度は、どの程度なのだろう。「なるほど」に安心していると、面倒な「尻ぬぐい」をさせられそうでこわい。

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