第68話 ヒゴタイ

 ヒゴタイという植物がある。朝鮮半島中部以南に分布し、かつて九州では普通に見られた。花の姿は植物によって様々であるが、完全な球体の花をつけるのはヒゴタイくらいのものである。

 むやみに採取されて野生種は減り、現在は阿蘇でまれに見る程度。江戸時代中期から栽培されていたらしい。移植すると根の先を切ってしまって根付かない。採取しても、枯らしてしまう方が多かったようだ。

 移植だと枯れるので、種から育てることになる。三月に種まきするが、土の上にびっしり蒔いて、腐葉土をかぶせ、水と日光の恵みに頼らねば発芽しない。発芽するまで二週間から二〇日はかかる。

 絶滅危惧種でもある。絶滅を防ぐため栽培すれば安心かというと、そうでもない。育つ場所によってはチョウなどが介在して他の品種と交配し、野生種の純粋性が失われてしまう。なかなかデリケートな花だ。

 いちばんいいのは、阿蘇の山中で、自然のままの状態を「ほったらかし」にすること。人間が山に立ち入らなければ、ヒゴタイは自然の力で蘇る。チョウも介在せず、他の種と交じることもない。

 以前勤めていた職場で、ヒゴタイを育てたことがある。冬には落ち葉を敷いて霜よけにし、草抜きも必要最小限にした。「阿蘇」の環境を再現できれば、花壇のヒゴタイも「野生種」に近づこう。

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